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5章 地下の学年

14.出会った二人

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いた。見つけたわ。

銀色の髪、のんびりとした穏やかそうな表情。
筋肉がついていないような細身の身体が何とも頼りない…。
ジョランド公爵家の嫡男ライニード。
公爵家を継ぐだけでなく、ジョージア様の側近。
とても優秀で、将来は宰相になるだろうとも言われている。
こちらをというよりは、周りを全く警戒していないように見える。
本当に優秀な男なのかしら。疑いたくなるけれど私には都合が良い。

飲み物を頼まれたのかテーブルに近付いて両手に取ろうとしている。
こちらには背を向けて、私が近づいていることに全く気がついていない。
後ろへゆっくりと静かに近づいて、あくまで視線はライニードから外して。
近くにある食べ物を取りに来たように装って…あと少し。


「うわっ。」

「え?」

後ろに私がいることに気がつかなかったライニードが、
そのまま振り向いたせいでライニードの手が私の肩がぶつかる。
両手に持っていた飲み物がこぼれて、私のドレスの裾に少しだけかかった。
水色のドレスの裾に赤い飲み物が飛んで、シミになっているのが見える。

…私は何が起きたのかわからないという顔をする。
急にライニードがぶつかってきて、飲み物をこぼされた…のだから。

「ご、ごめん!大丈夫!?
 いや、大丈夫じゃないよね、飲み物がかかってしまっている。」

「え?えっと、大丈夫です??」

「あぁ、ごめん。後ろに君がいるってわからなくてぶつかったんだ。
 急にこんなことになって驚いているよね。ごめん。
 せっかくの綺麗なドレスなのに色が変わってしまった。
 すぐにシミを落とさせる。こっちに来て。」

慌てたようなライニードに言われるままに休憩室へとついていく。
中に入ると侍女が数名いた。ここは?公爵家の休憩室か、王族の休憩室か。
置かれている家具や装飾が豪華で伯爵家の部屋とは何もかもが違う。
…その部屋を使い慣れているライニードへの評価がまた少し上がる。
これが公爵家の嫡男ってことなのね。

「この令嬢のドレスに飲み物をこぼしてしまったんだ。
 すぐに落としてあげてくれ。
 あぁ、あとはジョージア様に少し席を外すと伝えてきてくれほしい。
 飲み物を頼まれていたから、それも届けてくれ。」

「「はい。」」

侍女たちが濡れた布と乾いた布を持ってきて、手際よく汚れを落としてくれる。
数分もかからずにシミは綺麗に落とされ、元通りの状態になった。

「すまなかったね。もしかして今日が夜会デビューだった?
 そんな時に汚してしまって悪かった。」

「いえ…大丈夫です。綺麗になりましたし…。
 あの…リンデ伯爵家のエリザベスと申します。」

「ああ、ジョランド公爵家のライニードだ。
 慌てすぎて名乗りもしてなかったのか…すまない。」

「あら、ジョランド公爵家の方でしたか。
 従姉妹の、エミリアの婚約者のお兄様ですね?」

「ん?エミリアの従姉妹なの?」

「はい。母親たちが姉妹なんです。
 …ですが、今は問題があって話しもできなくなってしまいました。
 仲の良い従姉妹だったのに…親のせいで私たちも話せなくなって。」

「そうなの?それは困ったね。」

「こんなことを話しても困るとは思いますが、
 少しだけ話を聞いてもらえませんか?
 エミリアが元気か心配なんです。」

「…そうだね。
 ジョージア様の所に戻らなきゃいけないから長くは無理だけど、
 少しだけなら大丈夫だと思うよ。」

「…ありがとうございます!
 誰にも相談できずに困っていたんです。うれしい。」


きっかけはできた。
ライニードに婚約者候補がいるのは知っているけれど、まだ9歳だというし。
焦らないでじっくりと信用させていけばいい。
公爵家嫡男に嫁ぐには色気で落とすだけじゃダメだわ。
しっかりと心をつかんで、既成事実はそれからじゃないと意味が無いわ。

今日は軽い相談だけ。
次に会った時にはお礼を。
そうやって、少しずつ。

出会いは成功した。今日の所はそれで十分だから。
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