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5章 地下の学年

6.三つ巴の戦い

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「その…マジェスタ家のジョルジュなのだけど、入学直前に婚約したそうなの。
 お相手はジェミーナ・ユールリア。ユールリア公爵家の末娘で12歳。
 そのせいでまだ婚約したと知られていなかったみたいなのだけど、
 そのエリザベスとジュリアで取り合ったそうなの。
 と言っても、勝手に二人が盛り上がって取り合ったそうだけど…。」

は?
公爵令息を取り合った?もうすでに??
伯爵家のエリザベスはともかく、男爵令嬢のジュリア・ニールも?

アヤヒメ様が言いにくいのか、少しだけ考えた後でこう言った。

「そのジョルジョは…
 俺には綺麗で淑女な婚約者がいる。
 お前たちのような礼儀もわきまえていない豚を近づける必要はない。
 理解できないなら追い払うぞ。すぐさま去れ、と。」

「え?」「は?豚?」

…ジョルジュ様がミリーナ様と口喧嘩が多い理由が分かった気がする。
ジョルジュ様…口が悪いんだわ。
さすがに同じ学園に通う令嬢を豚呼ばわりは…まずいでしょう。

「やっぱり驚くわよね?
 …でもね、その二人の令嬢は他の令嬢たちに嫌われているみたいで、
 はっきりと断った公爵令息が素敵と…隠れファンができたそうよ。」

「…えぇぇぇ?」

「あくまで、隠れファンね。
 公爵家同士の婚約を邪魔するようなものはふつういないわ。
 あきらかに政略結婚ですもの。
 でも、意外と婚約者には優しいそうよ?」

「はぁ。」

確かに、ユールリア公爵が末娘をジョルジュ様に嫁がせるのは、
ジョルジュ様の姉リリーナ様が王太子妃になることが決まったからだろう。
ユールリア公爵家の長女はジョージア様の同級生ではあるが、
とても人見知りで王妃になれるような令嬢ではなかった。
公爵もそれをわかっているそうで、幼馴染の侯爵家嫡男と婚約している。
公爵家の長男はまた別の侯爵家と婚約しているので、
ジョルジュ様と末娘の婚約は王家とのつながりが欲しかったのかもしれない。

「…ということで、マジェスタ公爵家の嫡男狙いは終了したみたい。
 残るのはジョランド公爵家のライニードだけなのだけど、
 そうなると狙っているのはビクトリア王女もなのよね。
 本当は公爵令息のジョルジュが降嫁先にちょうど良かったんでしょうけど、
 マジェスタ公爵家は姉が王太子妃になるのが決まってしまったし、
 同じ公爵家から二人も王族と結婚させるのは無理だものね。
 もう残りはライニードしかないということで…
 三つ巴…とはよく言ったものだわ。」

知らない間に戦いは始まっていたようだ。
ライニードにはミリーナ様がいるけれど、正式に婚約したわけではない。
婚約するにはミリーナ様が12歳になるのを待たなければいけない。
ミリーナ様は先日9歳になったそうなので、あと三年は婚約できない。
婚約待ちの状態ではあるので見合い話は断れるけれど、
夜会で話しかけられるのまでは断れないだろう。
…大丈夫かな、ライニード。



「それにしても…あの男爵令嬢、
 学園に戻る前に礼儀作法学び直しだとか言ってたのはどうなってるんだ…。」

レイニードがつぶやいたのに反応したのはジングラッド先輩だった。

「ああ、それね。あくまで男爵令嬢としての、ってとこだね。
 下位貴族の、しかも父親は元平民らしいからね。
 学ばせたと言ってもたかが知れている。
 あの学年は高位貴族が少ないし、
 下位貴族の中にいる分にはそれほど問題にもならない。
 王族には関わらないというのだけはきっちりと教えたようだよ。
 ビクトリア王女の近くには寄らないようにしているから。
 …まさかこりもせずに公爵令息に話しかけにいくとは、
 男爵も思ってなかっただろうけど。
 ジョルジュにはもう二度と話しかけることは無いだろうね。
 でもライニードに会ったら気にせずに話しかけに行くんじゃないか?
 何が悪いのか理解していないだろうから。」

「なるほど…。」

元平民としての意識が強い両親では、
学び直せと言われた意味もよくわかっていないかもしれない。
王族に関わったのが悪かった、くらいの認識なんだろう。
そうなると…私たちへの態度も直っていないと思った方が良さそうだ。

ライニードの心配している場合じゃなかったわ…。
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