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5章 地下の学年

2.ファルカの兄弟

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プロイム先生を見送った後、今すぐに修練を始める気にはならず、
それよりも久しぶりに会ったルリナとファルカと話がしたかった。

幸い、休憩する場所にいるので、お茶をしながら話すことになった。

「とりあえず座って落ち着こうか。」

「そうね。お茶を入れるわ。」

四人で座ってお茶を用意していると、ファルカが妙にぐったりしている。
テーブルに突っ伏した状態で顔だけこちらに向けている。


「…ファルカ、具合でも悪いの?」

話しかけると軽く手を振って大丈夫だと笑うが、その目にはクマができていた。

「あぁ、大丈夫。ちょっと疲れちゃって。
 危うく俺だけ留年するところだったんだよ。
 中級の魔術書は油断すると危ないって兄さんから聞いてたのに…。」

「リシャエルさんから?」

「いや、その下の兄のレグラス兄さんから。
 油断して三学年で留年したんだ。
 結局は新学年始まってすぐに覚えきったから留年取り消しで、
 途中で四学年にあげてもらえたらしいけど。」

「私も中級の魔術書の最後の三冊がつらかったわ~。
 ものすごく魔力を持って行かれるし、読むのに時間はかかるし…。
 昔の魔術書だからか効率が悪い感じだった。
 まぁ、ファルカと違って時間の余裕があったから大丈夫だったけど。」

「それを俺に言っておいてくれたら良かったのに…。
 ルリナ…冷たい。」

私とレイニードが貴族科の授業を受けに行っていた間に、
二人でどちらが早く読み終わるか競争していたらしい。
ファルカのことだから、ルリナを優先させていたのだろうけれど…。
留年しそうになって最後は眠る間も惜しんで終わらせたようだ。

のんびり休んでお茶を飲んでいると、
少しずつファルカの顔色も戻って来た。

「最終学年で留学するなんて知らなかったけど、二人はどうするの?」

「このまま学園に通うつもりでいるよ。今のところは。」

「私も。留学しても良かったけど、ここにいたほうが勉強になる気がする。
 エミリアとレイニードがいるから。」

「最後まで一緒に通えるならうれしい。
 でも、すぐに決めていいの?」

「うん。リシャエル兄さんは学園に残ったんだけど、
 さっき話したレグラス兄さんは留学を選んだんだ。
 去年帰って来てね。留学先での話も聞いたけれど、
 正直…エミリアとレイニード以上の魔術師には会えそうにない。
 だったら、ここで一緒に学んだ方が得るものが多いと思ったんだ。」

「両方の話を聞いているのね。うらやましいな。」

「レグラス兄さんも今年から魔術師協会にいるから、そのうち会えると思う。
 リシャエル兄さんより少しだけ背が低いけど、ほとんど似たような感じだよ。
 会えばすぐにわかるはずだから。」

「ああ、そうなんだ。じゃあ、会うのが楽しみだな。」

「二人のことを言っておくよ。」

ファルカの体調もあるし、一年もあるので急ぐ必要も無い。
今日は帰って休むことにし、修練の開始は明日からにすることにした。

馬車に乗って帰ろうとした時、きらびやかな集団が遠くにいるのが見えた。
貴族科の校舎側からこちらへ向かってきているようだ。
なんとなく隠れたほうが良い気がして、すぐさま馬車に乗った。
こっそりと馬車の窓からうかがってみたら、
集団の一人がビクトリア様だとわかって、見つかる前に隠れて良かったと思った。

「あれって…まさか。」

レイニードも気がついたようで、顔をしかめている。

「入学式が終わって、こちらに来たのかしら。」

「まさか初日から来るとはな…。
 だけど、また来たとしても地下にはもちろん、校舎にも入れない。
 昼食もこれからは外に出る必要も無い…。
 あぁ、そうか。昼食時には外のテーブルにいると聞いて来たのだろう。」

「貴族科の令嬢たちが噂していたみたいだものね。
 ビクトリア様がそれを耳にしてもおかしくないわ。
 地下にも休憩場所があって…良かった。」

「そうだな。何度か来て会えないとわかればあきらめるだろう。」

レイニードの予想通り、ビクトリア様は同じ学年の令嬢や令息を連れて、
何度も魔術師科の校舎を訪ねてきていたらしいが、
そもそも登録されているもの以外は魔術師科の校舎内に入ることができない。
外のテーブルにも私たちが行かなくなったと知って、
魔術師科に探しに来るのはあきらめたようだった。

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