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3章 魔術師科二階の学年
22.帰り道 ジン&アヤヒメ
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「ずいぶんとエミリアのことを気にいってるんだな。」
ジンに送られて帰る馬車の中、
少しだけ面白くなさそうな口調に笑ってしまいそうになる。
私がエミリアの心配をしていたことが意外だと思っているのかもしれない。
「そうね。ジンがレイニードを気に入ってるのと似たようなものだと思うわよ?」
「まぁ、それもそうか。
俺としては強い魔術師は気になるし、レイニードは剣技も素晴らしく強い。
あんな臣下がいたら国王になってもいいなと思うくらいだ。」
「ふふ。国王になる気なんて無いくせに。」
「レイニードが臣下になることもありえないから、いいんだよ。」
あまり揺れることのない王族用の馬車は、王都内の屋敷街へと進んでいく。
私もジンも王宮や離宮に住むのは断って、
貴族の使われていなかった屋敷を購入して住んでいる。
王族との婚約話を断るつもりでいるのに、
王宮に住まわせてもらうのはまずいと考えているからだった。
購入した屋敷が近いこともあるが、ジンから求婚されて以来、
こうして行き帰りはジンと同じ馬車に乗って送迎してもらっている。
…王族が異性と二人きりで馬車に乗ることを許可した時点で、
そういう関係だと認めたも同然だった。
求婚の返事は保留しているが、二人の間では結婚することが確定しているし、
お互いの臣下たちもそのように動いている。
そのためジンがこうして護衛を兼ねて送ってくれている。
おかげで学園には侍従や侍女を連れずに通うことができていた。
なるべく自由に、学生らしい生活を送りたかった私とジンの希望でもあった。
「エミリアを見ていると歯がゆく思うことが多かったの。
だけど、これからはそれも少なくなると思うわ。」
「変わろうとしているってこと?」
「ええ。それを応援しようと思っているの。
一国の王女として、肩入れしてはいけないのはわかっているけれど…。
ダメかしら?」
さっきまで不機嫌そうにしていたはずなのに、ふわりと笑って手を握られる。
こんな風に私だけに見せる顔があるのは…少しずるい。
「ダメじゃないだろう。
アヤヒメと俺は、エミリアとレイニードの先輩だ。
魔術師科の先輩後輩は特別なものだって、理解されると思うよ。」
「そうね。先輩だものね。」
「それに、あの魔剣術士ジョセフと鉄の守人ユリミアの孫と孫婿だ。
ジンガ国としても問題にしないだろう。」
「確かに…それもそうね。
この国にいられるのもあと2年と少し。
その間に強くなったエミリアを見てみたいの。」
「それは楽しみだな。」
カタンと振動があって、馬車が止まるのが分かった。
ジンに手を借りて馬車から降りると、
玄関前には侍従頭のユズルと侍女たちが待っていた。
「それでは、また明日。」
「ええ。ありがとう。また、明日ね。」
ジンが馬車に乗って帰っていくのを見送ると、ユズルから声をかけられる。
「アヤヒメ様、本国より手紙が届いております。」
「あら、思ったよりも早かったわね。
着替えてから読むわ。お茶の用意をしておいて。」
「かしこまりました。」
手紙の内容は思っていた通りだった。
「手紙は先日の件の返事ですか?」
「ええ、そうよ。間に合って良かったわ。
やっぱり、第三王女も第五王女もこちらに来るつもりだったみたい。
その前にお父様に進言できて良かったわ。」
あの王女たちなら、サウンザード国に対して失礼だとわかっていても、
レイニードを奪いに来ると思っていた。
どうやって止めようかと思っていたところで、
エミリアの祖父母がわかり、そのことを父親である国王へと伝えた。
エミリアとレイニードの仲を裂くようなことをすれば、
重要な魔術師を二人失うことになると。
予想通り、ジョセフとユリミアはジンガ国になくてはならない魔術師だったようだ。
王女二人に留学の許可は出さず、
サウンザード国に密偵を送ることも禁じたと手紙には書いてあった。
「後輩様にお優しいのですね。」
「ジンガ国への影響を考えてのことよ?」
「ええ。そうですね。」
わかっておりますとでも言いたげなユズルに言い返したくなるが、
そのまま黙ってお茶を飲んだ。
手慣れた感じで魔術を駆使して世話をしてくれるユズルの左腕は動かないままだ。
一度仕事を辞めたのを無理に引き戻したのは同情などではない。
いくらユズルが気にしていないように見えても、その動くことのない左腕は、
ずっと私の罪悪感を刺激し続ける。
だからこそ、ユズルをずっとそばに置く。
忘れないように、二度と後悔することの無いように。
今日もまた、心に深く刻み込んで。
ジンに送られて帰る馬車の中、
少しだけ面白くなさそうな口調に笑ってしまいそうになる。
私がエミリアの心配をしていたことが意外だと思っているのかもしれない。
「そうね。ジンがレイニードを気に入ってるのと似たようなものだと思うわよ?」
「まぁ、それもそうか。
俺としては強い魔術師は気になるし、レイニードは剣技も素晴らしく強い。
あんな臣下がいたら国王になってもいいなと思うくらいだ。」
「ふふ。国王になる気なんて無いくせに。」
「レイニードが臣下になることもありえないから、いいんだよ。」
あまり揺れることのない王族用の馬車は、王都内の屋敷街へと進んでいく。
私もジンも王宮や離宮に住むのは断って、
貴族の使われていなかった屋敷を購入して住んでいる。
王族との婚約話を断るつもりでいるのに、
王宮に住まわせてもらうのはまずいと考えているからだった。
購入した屋敷が近いこともあるが、ジンから求婚されて以来、
こうして行き帰りはジンと同じ馬車に乗って送迎してもらっている。
…王族が異性と二人きりで馬車に乗ることを許可した時点で、
そういう関係だと認めたも同然だった。
求婚の返事は保留しているが、二人の間では結婚することが確定しているし、
お互いの臣下たちもそのように動いている。
そのためジンがこうして護衛を兼ねて送ってくれている。
おかげで学園には侍従や侍女を連れずに通うことができていた。
なるべく自由に、学生らしい生活を送りたかった私とジンの希望でもあった。
「エミリアを見ていると歯がゆく思うことが多かったの。
だけど、これからはそれも少なくなると思うわ。」
「変わろうとしているってこと?」
「ええ。それを応援しようと思っているの。
一国の王女として、肩入れしてはいけないのはわかっているけれど…。
ダメかしら?」
さっきまで不機嫌そうにしていたはずなのに、ふわりと笑って手を握られる。
こんな風に私だけに見せる顔があるのは…少しずるい。
「ダメじゃないだろう。
アヤヒメと俺は、エミリアとレイニードの先輩だ。
魔術師科の先輩後輩は特別なものだって、理解されると思うよ。」
「そうね。先輩だものね。」
「それに、あの魔剣術士ジョセフと鉄の守人ユリミアの孫と孫婿だ。
ジンガ国としても問題にしないだろう。」
「確かに…それもそうね。
この国にいられるのもあと2年と少し。
その間に強くなったエミリアを見てみたいの。」
「それは楽しみだな。」
カタンと振動があって、馬車が止まるのが分かった。
ジンに手を借りて馬車から降りると、
玄関前には侍従頭のユズルと侍女たちが待っていた。
「それでは、また明日。」
「ええ。ありがとう。また、明日ね。」
ジンが馬車に乗って帰っていくのを見送ると、ユズルから声をかけられる。
「アヤヒメ様、本国より手紙が届いております。」
「あら、思ったよりも早かったわね。
着替えてから読むわ。お茶の用意をしておいて。」
「かしこまりました。」
手紙の内容は思っていた通りだった。
「手紙は先日の件の返事ですか?」
「ええ、そうよ。間に合って良かったわ。
やっぱり、第三王女も第五王女もこちらに来るつもりだったみたい。
その前にお父様に進言できて良かったわ。」
あの王女たちなら、サウンザード国に対して失礼だとわかっていても、
レイニードを奪いに来ると思っていた。
どうやって止めようかと思っていたところで、
エミリアの祖父母がわかり、そのことを父親である国王へと伝えた。
エミリアとレイニードの仲を裂くようなことをすれば、
重要な魔術師を二人失うことになると。
予想通り、ジョセフとユリミアはジンガ国になくてはならない魔術師だったようだ。
王女二人に留学の許可は出さず、
サウンザード国に密偵を送ることも禁じたと手紙には書いてあった。
「後輩様にお優しいのですね。」
「ジンガ国への影響を考えてのことよ?」
「ええ。そうですね。」
わかっておりますとでも言いたげなユズルに言い返したくなるが、
そのまま黙ってお茶を飲んだ。
手慣れた感じで魔術を駆使して世話をしてくれるユズルの左腕は動かないままだ。
一度仕事を辞めたのを無理に引き戻したのは同情などではない。
いくらユズルが気にしていないように見えても、その動くことのない左腕は、
ずっと私の罪悪感を刺激し続ける。
だからこそ、ユズルをずっとそばに置く。
忘れないように、二度と後悔することの無いように。
今日もまた、心に深く刻み込んで。
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