上 下
61 / 167
3章 魔術師科二階の学年

18.過去の傷

しおりを挟む

「先日は申し訳ありませんでした…。」

先輩たちの前で私がおかしくなったのは先週のことだった。
次の日からまた学園に普通に通っていたのだが、
なかなか先輩たちに会う機会がなく、きちんと謝ることができなかった。

久しぶりに昼食時に先輩たちに会え、ようやく謝ることができた。
ルリナやファルカからも、先輩たちが心配していたことは聞いていた。
たまたま居合わせただけなのに気にしていたと聞いて、
とても申し訳ないと思う気持ちでいっぱいだった。

「気にしなくていい。誰だって体調が悪い時はある。」

きっと私がああなったのは体調のせいじゃないってわかっていて、
それでもジングラッド先輩はいつも通りの口調でそう言ってくれた。
あまり深く追求するつもりがないのだろう。

だけど、アヤヒメ先輩は違った。
笑顔はいつもと同じように見えるのに、思ってもいなかった誘いを受けた。

「ねぇ、レイニード。
 昼食食べたら、少しだけエミリアと話をさせてくれる?
 場所はこのテーブルでいいわ。
 ジンとレイニードは少し離れたテーブルで待っていてくれないかしら。
 エミリアと二人きりで話がしたいのよ。」

「…俺はかまいませんが、エミリアは大丈夫か?」

「ええ。大丈夫よ。アヤヒメ先輩だもの。」

「そっか、わかった。
 じゃあ、ジングラッド先輩と話しながら待っているよ。」

レイニードが立ちあがると同時に、
ジングラッド先輩も立って二人で離れたテーブルに移動していった。
アヤヒメ先輩の誘いに特に何も言わなかったところを見ると、
ジングラッド先輩はアヤヒメ先輩がそう言うのを知っていたのだろう。

二人が離れ、話し声が聞こえない状態になったのを確認してから、
アヤヒメ先輩は静かに話し始めた。


「この前のこと、自分では何があったか理解している?」

「…自分に何が起きたのかはわかっていませんが、
 レイニードが誰か女性のそばにいるのを見るのが辛いんだと思います。」

「心を凍らせてしまうほどに?」

「…。」

「何か、過去にそういう傷つけられるようなことがあったと思っていい?
 もちろん、何があったかまでは聞かないけど。」

「…はい。昔のことです。
 レイニードは私を守るために自ら盾になってくれていました。
 そのためにいろんな女性の隣にいなければいけなかった。
 今ならそこに裏切り行為はなかったって、わかっているんです。
 レイニードはその女性たちに笑顔を見せることすらなかったのですから。」

「そう。だけど、それが許せなかった?」

「当時は私のためだって知らなかったんです。
 ただ、レイニードは私から離れて、そばにいてくれなくて。
 いつも他の女性のそばにいました。
 私はそれを見るだけで…どうして、という質問すらできませんでした。」

そこまで言うと、アヤヒメ様はうーんと考え込んでいるように額に手を当てて、
聞いたことも無い低い声でつぶやいた。

「そんなの、問答無用で殴っちゃえば良かったのよ。」

「え?」

「だって、エミリアは何も知らなかったのでしょう?
 レイニードは何も言わず、エミリアのそばを離れて、
 いつも違う女の隣にばかりいたと。」

「…はい。」

「じゃあ、殴って良し。」

「え?え?でも、私のためにしてたんですよ?」

「あのねぇ、いくらエミリアのためだからって、
 何も話さないでそれしてたら、ただの裏切りじゃない。
 あとから真実はこうだったっていわれても、納得するものですか。
 逆に責めにくくて余計モヤモヤするわ。」

「…はい、そう、ですね…確かにモヤモヤしました。」

「でしょう?エミリアは、まず怒っていい。
 レイニードに嫌だったって、泣きわめいて殴っていいの。
 まず、それを理解した?」

「…はい。できるかどうかは置いておいて、
 怒っていいんですね、私。」

「そうよ。そんな自分よがりの自己犠牲、勝手にされてもうれしくないわよ。
 …でも、そうね。エミリアがなぜ攻撃魔術が使えないかわかったわ。」

「え?…関係あるんですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

あなたが運命の相手、なのですか?

gacchi
恋愛
運命の相手以外の異性は身内であっても弾いてしまう。そんな体質をもった『運命の乙女』と呼ばれる公爵令嬢のアンジェ。運命の乙女の相手は賢王になると言われ、その言い伝えのせいで第二王子につきまとわられ迷惑している。そんな時に第二王子の側近の侯爵子息ジョーゼルが訪ねてきた。「断るにしてももう少し何とかできないだろうか?」そんなことを言うくらいならジョーゼル様が第二王子を何とかしてほしいのですけど?

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

処理中です...