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3章 魔術師科二階の学年

9.魔術師の価値

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「え?でも、私はもう婚約していて…。
 レイニードと婚約の儀式もしているのですけど?」

「それは知ってるよ。12歳で婚約して、婚約の儀式もしたんだろう?
 どうして俺がそのことを知ってると思う?
 それだけエミリアの情報が流れているってことだよ。
 綺麗で貞淑で教養があり、魔力も才能もある令嬢。
 あのエンドソン家の魔力を持つ、とても貴重な令嬢だ。
 ジョージア王子が婚約者候補にしなかったのが不思議なくらいだね。

 …それに、この国の婚約の儀式は不完全だ。」

「不完全って、どういうことですか!?」

思わずって感じで、レイニードがジングラッド先輩に大きな声を出してしまう。
それに気がついてレイニードの腕に手をそえて止めようとすると、
冷静に戻ったのか小さな声でごめんと言われた。

「落ち着けよ、レイニード。
 俺は敵じゃない。さっきも言っただろう。アヤヒメに求婚してるって。」

「…すみません。」

「いいよ。だけど、真面目に聞いておけよ。
 この国の婚約の儀式は、心が離れたら婚約解消できる。
 不貞ではなく、不実だとダメだというものだよな。」

「はい。」

「婚約なんて解消しなくても他の男のものにできるだろう。」

「「は?」」

「わからないか?
 無理矢理にでも身体を奪うことで事実上婚姻したとみなす国もある。
 女性の魔術師はどの国からも欲しがられるんだ。
 それこそ、さらってでも、な。
 そうなったら婚約の儀式をしていたとしても無駄だ。」

「…うそ。」

「他国の婚約の儀式は異性との身体の接触を拒むものだってある。
 そういうのは術をかける側にも危険があるから、滅多にやらないけどな。
 この国の儀式は…自己満足で安心するだけの意味の無いものだ。」

「そんな…。」

考えても見なかった。
この国は婚約してからじゃないと結婚できない。
だけど、それはこの国の貴族として認められる結婚だということで…
平民は婚約も結婚も口約束のようなもの…。
じゃあ、他の国は?他の国の貴族や王族は…?
さぁーっと血が引いていく感じがして、座っているのに、
その場にとどまれなくなる。
ふらっと倒れそうになったところを、
レイニードが胸に寄り添わすように抱きしめてくれる。

「ジン、怖がらせすぎ。
 ごめんね、エミリア。でも、ルリナはわかっているわよね?
 魔術師の女の価値を。」

「…はい。
 私はファルカが守ってくれていますが、危険はわかっているつもりです。」

「それでいいわ。
 エミリアのことはレイニードが守っているようだけど、認識が甘いの。
 この国の貴族だけに警戒していればいいってものではないわ。
 ジンも心配なのよ、二人のこと。許してやって?」

ハンカチを出して私の額の汗をぬぐいながら言うアヤヒメ先輩の顔がとても真剣で。
それだけ私のことを心配してくれているのだとわかった。

「はい…心配してくださってありがとうございます。」

「ジングラッド先輩…後で、もう少し詳しく話を聞かせてもらえませんか?
 俺の考えが甘かったようです…。」

「ああ、いいよ。
 可愛い後輩たちのためだからな。いくらでも聞きに来い。」
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