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10.レイニードのお願い

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「魔力があることもわかったので、侯爵にお願いがあります。」

馬車に乗り侯爵家に戻ると、レイニードは人払いをしてからお父様に話し始めた。
そう言えばお願いがあるって言ってた。

「それは、やり直しに関することかい?」

「はい。俺は騎士にならずに、エミリアと魔術師を目指そうと思います。」

「え?騎士になるんじゃなかった?」

「はい。やり直す前は婚約の後すぐに騎士団に入りました。
 そのせいでエミリアと会えなくなったんです。」

「そのせい?」

「はじまりは騎士と姫さまという本でした。
 その本を読んで騎士を気に入ってしまったビクトリア王女が、
 俺を専属の護衛に指名しました。
 断ったのですが、エミリアに危害を加えると脅され…仕方なく受けました。」

「脅されて?」

ビクトリア王女に気に入られて護衛になったのは知っていたけど、
それが脅された結果だったなんて思わなかった。

「最初は俺を護衛にするだけで満足したビクトリア王女ですが、
 次第に俺と婚約したいというようになり、
 エミリアに少しでも優しくすれば、
 誰かに頼んでエミリアを襲わせて結婚できない身体にしてやると。」

「なんだと?あのビクトリア王女がか?」

お父様が驚くのはわかる。
この頃のビクトリア王女の評判は、民のことを心配する優しい王女だった。
そんな人が騎士を脅して護衛にするなど思わないだろう。

ビクトリア王女が15歳になって夜会に出席するようになると、
取り巻きの令息を使って令嬢に乱暴させたらしいと噂が立つようになるのだけど。
それでもその噂を信じないで王女を崇拝するような令嬢たちも多かった。

「陛下と第一王子には、ビクトリア王女は隣国へと嫁がせるから、
 それまでの間だけ我慢してほしいと頼まれていました。
 もちろん脅されたことは口外しないようにと言われていたので、
 エミリアに話すこともできず…。
 俺が我慢してビクトリア王女の護衛をやっていればなんとかなる、
 そう思った結果があれです。
 俺はもう二度と騎士になんてなりません。」

「…それは、そうなるか。
 だが、デレニオンはそれで納得するのか?」

「父を説得するのに時間はかかるでしょう。
 そのためにもお願いしたいのです。
 今日から侯爵家に置いてもらえませんか?」

「うちに?」

「公爵家に戻ったら、騎士が何人も出入りしています。
 俺が騎士を目指さないとわかったら、無理にでも連れて行かれるでしょう。
 さすがに…この身体では抵抗できません。」

両手を広げて身体を見ているが、
おそらくレイニードは17歳の時の身体と比べて考えているんだろう。
確かに17歳の時なら、無理に連れて行かれるようなことは無いと思う。
だけど今の身体は12歳で、まだ私と背丈が変わらない。
筋肉はついているけれど、騎士たちにはかなわないだろう。
お父様は少し考えていたけれど、私を一度見てからレイニードに向き直って答えた。


「わかった。デレニオンの説得は俺に任せてくれ。
 エミリアを救うためなら、そのくらいはしよう。
 部屋は客室だとまずいだろう。
 エミリアの隣に、次の子どもが出来たらと使わないで取っておいた部屋がある。
 そこをレイニード君の部屋にしよう。
 いや、もううちの婿として住まわせるから、レイニードと呼ぶよ。
 私のことは父と呼ぶように。それでいいね?」

「はい。義父上。よろしくお願いします。」

「うん。エミリアもそれでいいね?」

「ええ。私もそれでいいわ。
 ねぇ、お父様。レイニードと一緒に魔術師の勉強を始めたいの。
 図書室…開けてもいい?」

「ああ、もちろんだ。好きに使いなさい。」

我が侯爵家には魔術書だけおさめられた図書室がある。
魔術師になるための本なので、私が図書室に入ることは無かったし、
鍵はかかったままだった。

魔力が無いお父様のことをあきらめるように、お祖父様が鍵をかけたと聞いている。
私とレイニードが魔術師を目指すのなら、その図書室を開ける必要があった。

一度も入ることが無かった図書室。だけど、本当は入ってみたかった。
魔力が無いと入ることすらできないと言われている図書室。
中はどんな感じなんだろう。
お父様から鍵を渡され、これから本当に魔術師を目指すんだってわくわくしてきた。

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