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6.二人きり

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「私の部屋で?」

「ああ、どうしても二人で話がしたいと言われてな。
 お前たちは仲もいいし、これからのことを話すくらいなら問題ないだろう。」

お父様からそう言われて、首をかしげてしまう。
確か、婚約の挨拶の時は中庭で会ったはず。
周りには両親の他に侍女たちもいて、
騎士の誓いをするレイニードをみんなが嬉しそうに見ていた。
それが私の部屋で、二人で話したい?


カミラがお茶の準備をしてくれると、レイニードが屋敷に着いたことが知らされた。
緊張して待っていると、部屋の扉が開かれ、レイニードが入ってきた。

最後に見たレイニードはお父様よりも大きく、鍛えた身体がたくましくて、
いつも眉間にしわが寄っているような表情だった。
久しぶりに見た12歳の幼いレイニードに、少しだけ胸が痛む気がした。

騎士になってすぐに切ってしまった銀色の髪も、今はまだ長く後ろで結んでいる。
私とそれほど変わらない身長のレイニードが、とても懐かしく感じられた。
ただ、なぜか表情は暗く、12歳の頃のいつもの笑顔は無かった。


「人払いを…。」

レイニードがそう言うと、部屋からカミラたちは出ていってしまった。
扉を開けたままにするかと思ったのに、きちんと閉めて出ていってしまう。
いいのだろうか?
婚約者だから?まだ12歳だから?
混乱していると、レイニードは無言で近づいてくる。
目の前まで来たと思ったら、ぎゅっと抱き着かれ、驚きのあまり声が出なかった。


「エミリアッ!エミリアッ!すまなかった。
 怖かっただろう…俺がもっと早くに気が付いて助けられたら…。」


これは…もしかして…


「助けに来てくれたんですか?
 最後に、レイニードの声が聞こえた気がしました…。」


「…俺が気が付いて追いついた時には、エミリアは落ちていくところだった。
 すまない。神の審判でやり直しが認められたからと言って、
 怖かったのが無くなったわけじゃないだろう。
 本当にすまない。
 こんなことになるなら、
 あいつらの言うことを聞いてエミリアのそばを離れるんじゃなかった…。」


「…私に興味が無かったから離れていたのでは?」


「そんなわけ無いだろう!
 俺が、ずっと大事に思っているのはエミリアだけだ…。
 顔を見せてくれないか…生きてるってちゃんと実感したい。」


そっとレイニードの両手が頬にふれてくる。
壊れそうなものを扱うみたいにそっと。
レイニードの目から涙があふれ、ぽたぽたと落ちてきた。


「あぁ、エミリアだ。
 ずっと近くに行きたかった。
 こうしてふれて、ずっとそばで守りたかった。
 俺は、もう二度と間違えない。
 エミリアが俺を許さなくても、俺をそばに置いてくれ。」

「そばに?」

そばに置いてって、離れていったのはレイニードなのに。
私はずっとここにいて、待っていたのに来なかったのはレイニードだ。


「信じられないなら、それでもいい。
 せめて、時が戻る17歳の夜会まで守らせてくれ。
 もうあんな思いをするのは嫌だ。エミリアを死なせたくない。
 頼む。いいって言ってくれないか?」


これ以上ないほどの真剣な声に、とりあえず頷いた。
もうすでに婚約しているし、今すぐ離れてと言っても無理だろう。
それに、離れていったのはレイニードの方だ。
レイニードが言う信じては、何を信じてほしいのかわからないけど、
そばにいるというなら、それを願うのは私の方だった。


「…ありがとう。」

まだ泣いているレイニードにハンカチを渡すと、素直に涙を拭いた。
その顔を見て、何か違うと思った。

「レイニード…目の色が変わってる。
 灰色がかった青から、灰色がかった紫になってる。」

「え?本当に?
 …あ、エミリアの目の色も違う。
 紫が赤紫になっている。」

お互いに赤が混じったってことだろうか。
神の審判のせい?それに感じる違和感がもう一つ。

「それに、レイニードから魔力を感じるんだけど?」

「あぁ、そうなんだ。
 それも相談したくて二人で話をさせてもらったんだ。」

「相談?」

「うん、俺、騎士にならなくてもいいかな?」

「は?」
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