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35.夜会の準備

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夜会当日、私とジルは王宮内の離宮で準備を始めていた。
別邸で準備してから移動するのも難しく、ドレスがしわになったりしないように、
ジルの持つ離宮で着替えて準備することになった。

ジルはもうすでに準備を終え、陛下とお義父様と打合せをしてくると出ていった。
私の準備が全て終わる頃に戻って来て、一緒に広間に移動することになっていた。


「お待ちください!」

「この先へお通しすることはできません!」

部屋の外で衛兵が騒いでいる声が聞こえる。
誰かが離宮に入ってきた?この部屋に入ろうとしている?
ドレスは着替えているけれど、まだ髪を結っている途中だった。
こんな状態の部屋に来ようとするなんて、どれだけ礼儀知らずな人だろう。

「ミト、誰が来ているのかわかる?」

「聞いてきましょうか。」

近くでお茶を用意しようとしていたミトに声をかけると、
部屋の入口まで行って少しだけ扉を開ける。
外にいる護衛に小声で確認しようとして顔を出した途端、
ガッと扉を大きく開かれてしまった。

「え?」

その音に驚いて見ると、
おそらく侍従だと思われる少年を二人連れた令嬢が入ってきていた。
薄紫色のドレス。白銀色の髪に薄紫の瞳。小柄だけど、サハル王子に似た面影。
…ジャニス王女だわ。

「ようこそ、とは言いませんわ。ジャニス王女かしら?」

身分の上の者から話しかけるという礼儀を知った上で話しかける。
今日ここにいるのはレミアスの第一王女として。
同じ友好国の王女同士なら、歳が上の私の方が身分が上になる。
それをわからせるためにあえて私から声をかけた。

それに気が付いたのだろう。ジャニス王女の顔が一瞬歪んだ。
侍従たちも身分に気が付いたのか、顔色が悪い。
もしかして公爵家令嬢だと思っていた?

「何か大事な用があって、このような無礼な真似をしたのでしょう?
 早く話してくれないと準備が間に合わないわ。」

「…あなたがジルアークの婚約者だって本当?」

怒りなのか震えながらジャニス王女が絞り出すような声で聞いてくる。
そのくらいの確認なら夜会でしてくれればいいのに…。

「そうよ。それで、あなたは誰です?
 ジャニス王女であっているのかしら?」

「ジャニス・カルヴァイン。第一王女よ。あなたは?」

「レミアス国第一王女リアージュよ。リアージュ・イルーレイド・レミアス。
 ジルアークの婚約者で恋人でもあるわ。それで、用件はそれだけ?」

「うそ…レミアスに王女はいないわ。それに恋人だなんて嘘つくなんてひどい。」

「イルーレイド公爵家に産まれたけど、第一王女として王族でもあるの。
 ジルが王族なのと一緒よ。
 それに恋人なのも嘘じゃないわ。ジルに聞けばいいじゃない。」

どうせ私が何言っても信じないのだろうから、
せめてジルがいる時に聞いてくれれば良かったのに。
目の前で真っ青な顔して震えている王女に、どうしようか困ってしまう。
カミーラと年齢は同じくらいかしら。
カミーラの礼儀知らずにも困ったけど、
王女として生まれ育っていてこのような真似をするとは。
陛下から話を聞いていたけど、本当にこんなことになるとは思っていなかったわ。

「ねぇ、ジャニス王女。
 あなたこそ、本当に王女なの?
 友好国の王女が夜会の準備中なのに先触れもなく訪ねて来て、
 許可も無く無理やり押し入るって。
 私は王女としてこのような無礼が許されるとは思えないのだけど?」

ちらっと衛兵を見ると頷かれる。
どうやら王女が訪ねてきた時点で陛下に知らせがいったようだ。
陛下と一緒にいるジルにも伝わっているだろう。
すぐにこちらに戻って来てくれるとは思うが、この後始末どうするのだろう。
髪も結い終わっていないから、さっさと帰ってほしいのだけど、
ただ帰らせて終わりにはならないわよね。
そんな風に冷静にジャニス王女をながめていたのが悪かったのだろうか。
まったくジャニス王女を気にもしない態度が、よけいに苛立たせてしまったようだ。

「もう!こんな嘘つきな女がジルアークの婚約者なわけ無い!
 この女を捕まえて王宮から追い出しなさい!早く!私の言うことが聞けないの!?」

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