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32.王女と王子

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「ありがとう。歩けるなんて何年ぶりだろう。」

サハル王子が起きたというので体調を確認しに行った先は執務室だった。
数年ぶりに歩けた息子に、陛下は驚きつつ喜んでいるようだ。
椅子をサハル王子に譲っているお義父様も嬉しそうで、
うまく回復できて良かったと思う。

「この状態はどのくらい持つと?」

「さっきケニー先生に診てもらったら、身体は一時的に全回復しているようだと。
 魔力量がこれ以上増えなければ一年は大丈夫だそうです。
 その前にケニー先生が魔術具を開発してくれると言ってるからそれに期待します。
 学園に復学してもいいですよね?」

「そうだな…二週間後の夜会に出て、問題なければ復学を許可しよう。」

「わかりました。」

「あ、リアージュ王女。
 王族扱いなのがわかったから、王女として夜会に出てもらうから。
 それで問題ないよね?」

「はい、わかりました。」

「うん、うちには困った王女がいるから、そのほうがいい。
 同じ立場ならそれほど困ることも無いと思うしな。」

あ、ジャニス王女はジルを王配にして女王になりたいんだった。
夜会に出たら気をつけなきゃいけないとは思ってたけど、
同じ王女の立場ならさすがに文句も言ってこない?

「…陛下、多分困るとは思いますが、王女扱いについては賛成。
 うちのリアージュはその辺の令嬢とは違うからね。
 ジャニスは問題起こす前にちゃんと厳しい女官つけておいて。」

お義父様…買いかぶりすぎです、って、どうしてジルとサハル王子がうなずいているの。
そこは誰か止めてください…。
本当の王女…ではないのだけど、仕方ない。夜会では我慢しますか。

「で、ジルが王族なのは話せたのか?」

「はい。それについては受け止めてもらえました。
 このまま婚約は続けて、卒業後に結婚する予定です。
 ですが、王太子の話はしばらく待ってください。サハルが元気になりましたし。」

「まぁ、それについては急いでないからいいよ。
 卒業後にまた考えようか。」


「あぁ、そういえば報告がまた来たよ。
 どうやらシャハルはカミーラ嬢と魔力交換したようだ。」

「え?」

「レミアスに連れ帰られる前に何とかしたかったのだろう。
 …愚かなことだ。」

「…陛下、カミーラは王族ではありませんが、公爵家の養女ではあります。
 シャハル王子とは結婚できませんか?」

「それについては問題ないよ。
 ただ、おそらくシャハルがカミーラ嬢と結婚したかった理由は、
 カミーラ嬢が石榴姫の孫だと思っていたせいだろう。
 それが違うとわかった時に、まだ結婚したいと思っていればいいのだがな。」

「…石榴姫はそんなに大事ですか?」

「この国では宝物のような姫だ。あこがれる気持ちはわからないでもないがな。
 実際の石榴姫にも会っているが、あれは並大抵の男では無理だ。
 …そうだな。リアージュ王女も並大抵の男では無理だったろうな、ジル?」

「そうですね。俺がこんな怪物で良かったと初めて思いましたよ。」

「それは良かった。」

あらためて言われると…なんだか私がとても異質なものに思えてくる。
確かにジルが相手なら、私が石榴姫で良かったとは思うのだけど。

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