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6.婚約

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「婚約することにしました。」

「「は?」」

「今すぐ許可して、レミアスに申込みの書簡を転移してください。」

「ちょ、ちょっと待て?」

「そうだぞ、ちょっと待て。お前が婚約だと?本気で?」

「本気です。彼女を逃したら、俺は結婚できないと思ってください。」

「…え?本気で?」

よほど意外な申し出だったのか、陛下と宰相が目に見えて慌てている。
一国の代表二人がこんなに慌てることはめったにないだろう。
戦争はここ百年は起きていないし、陛下と宰相の仲の良さは有名で、
この国は陛下が二人いるとも言われているくらいだ。
その二人が同時に慌てるような事態なのだと思うと不安が募ってくる。


「陛下、俺が婚約したいと思った令嬢がいたら、
 どんな手を使ってでも婚約させてやるって言ってましたよね?」

「言った。」

「父上、レミアスの宰相殿は信用できる方ですよね?
 血筋も石榴姫の孫だし、問題ありませんよね?」

「ああ。問題ないどころか、これ以上ない相手だ。」

「じゃあ、今すぐ許可してください。」

「…ジル、どうして今すぐなんだ?」

陛下と呼ばれた大きな男性がため息つきそうな顔で聞いてくる。
宰相の息子が急に婚約を言い出したら、何かあるのかと疑いたくなるだろう。

「リアは今日留学してきたばかりなんだ。
 それなのに、シャハルがリアを個室に連れ込もうとした。」

「なんだと!」

リアは大事になって外交問題になっても困るので、
打ち明けるつもりは無かったのに、ジルがあっさりと話してしまった。
後ろで会話を聞いているだけのリアは遠い目になってしまっている。

「大人しくしていれば可愛がってやるし、婚約もしてやると。
 それを嫌がったリアは逃げたらしい。
 俺が偶然出会って助けたんだが、
 あいつが一度逃げられたくらいであきらめるとは思えない。
 リアは俺のものだ。二度と手を出さないようにはっきりしておきたい。」

「…そういうことか。わかった。宰相、いいな?」

「ええ、陛下。そういうことなら急ごう。書簡はすぐに用意できる。」

「よし、すぐ作ってくれ。文官に転移の準備をさせてこよう。」

シャハル王子の話を聞いて、急に陛下と宰相の顔つきが変わった。
疑問に思ってたはずの婚約話をあっさり許可し、
レミアスに送る婚約を申し込む書簡を用意し始めた。
ジルはそれを見て満足そうにうなずくと、リアの手を取って執務室から出た。


「手続きはすぐ終わると思うから、応接室でお茶でも飲んでいよう?」

「…私、一言も話してないどころか、挨拶もしてないけど、いいのかしら?」

「落ち着いたら話す時間あると思うから、今はあれでいいよ。」

そうなんだ。レミアスの王宮には度々行ってたけど、国によって違うのね。
こんな簡単に謁見というか、執務室に押しかけるとは思ってなかったわ。

空いている応接室に入ると、女官がお茶を運んできてくれた。
横に小さな焼き菓子とチョコレートをならべたお皿も置いて行ってくれる。

「慌ただしかったから喉乾いてるだろう?」

「ええ。嬉しいわ。ありがとう。」

昔からレミアスとこの国カルヴァインは交流が盛んで、
そのおかげで食文化に違いはほとんどない。
違いがあるとすればレミアスは経済が発展し、カルヴァインは魔術が発展している。
それも今のところ違いによる不便さは感じていない。
数代前から王族間で婚姻がなされていて、両国の王族は親戚関係にある。
同じ国になることは無いが、けっして裏切ることも無い信頼で成り立っている。

「少しは落ち着いた?」
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