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57.使者の訴え

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後宮には誰もいなくなり、ラディもクレアもいない。静かな夜だった。
次の日の昼前、外宮でベントソン国の使者たちが騒いでいると報告が来た。

「来たようだ」

「思ってたよりも早かったわね」

「俺だけで行くよ」

「ううん、私も行く」

「じゃあ、危ないから俺の後ろにいて。わかった?」

心配するのも当然だから素直にうなずいて、ルークの後ろをついていく。

外宮の玄関前には昨日見送った馬車。
そして警備の者に何かを訴えている使者たち。

その一人が私たちに気がついて、こちらに駆けてこようとしたが、
警備の者にしっかり止められていた。

同盟国ではなくなったと昨日も警告したのに。
わかってなかったんだなぁ。

「ルーク様!お助けください!」

「助ける?何があったんだ?」

「デリアと侍女たちがいなくなったのです!」

「……それで?」

だからどうしたという態度で返事をすれば、
使者たちはあきらかに傷ついたというような顔をする。

「令嬢が三人も消えたのですよ!早く探してください!」

「探す?なんで俺が?」

「なんでって、竜人なら空から探せるでしょう!?」

「そりゃ探せるけど、どうして俺が探しに行かなきゃいけないの?」

「……は?」

当然探してもらえるとでも思っていたのか、
使者たちは目と口を開けたまま固まってしまう。

「昨日も言ったけど、ベントソン国はもう同盟国じゃない。
 デリア嬢も妃候補ではなくなり、後宮から出た。
 帰り道で何が起きようと我が国の責任ではない」

「ですが!……リディ様!
 リディ様ならわかってくださいますよね?
 令嬢がさらわれたのです!助けてくださいますよね!」

「え?私?」

「同じ令嬢なら、デリア様を助けようとしてくださるでしょう?」

すがるように言われても、そんな気はない。
というよりも、勘違いしている?

「ねぇ、さらわれたのではなく、逃げたんじゃないの?」

「逃げた?」

「だって、ずっとベントソン国から物資も資金も届いてなかったでしょう?
 最初に連れてきた侍女のほとんどは逃げたみたいだし、
 自分を大事にしてくれない国に帰るの嫌になったんじゃないの?」

「なんてことを言うのですか!」

「だって、さらうって言われても。誰がさらうの?
 今、この国に奴隷以外の竜族はほとんどいないのよ?
 同盟国の使者ですら許可なく竜王国に入れなくなってるのに、
 盗賊団とかいるわけないでしょう」

「で、ですが!?」

「逃げたにしても、さらわれたにしても、
 どっちにしても私たちには関係ないけどね」

「……もしや、ここに匿ったりはしてないでしょうね?」

私たちが探す気がないとわかったからか、今度は疑いだした。
たしかに王宮内で匿うことはできなくもないけど。

「匿うって、デリア様たちは馬車を盗んで逃げたの?」

「いいえ……馬車の中で眠ったはずなのに、朝になったら消えていました」

「じゃあ、徒歩よね?
 どこまで行って野営していたのかわからないけれど、
 令嬢ってそんなに長距離歩けるものなの?
 あなたたたちが馬車で戻ってくるよりも早く、
 ここに逃げ込めると思っているの?」

「………いえ。無理でしょうな」

本当に匿ってるとは思ってなかったけれど、
無茶なことを言えば一緒に探すとでも思ってたのかな。
冷静に返されて、使者たちはもう何も言えなくなったらしい。

「俺の予想なら、逃げたとしても馬車の近くで隠れてたんじゃないかな。
 馬車がこちらに戻ってきている間に、竜王国から外に逃げるつもりで」

「……逃がすものか。すぐに戻るぞ!」

ルークに言われて、はっとした顔になった使者は、
慌てて馬車に乗ってまた出て行った。
野営していた場所から竜王国の外へと探しに行くんだろう。

……どれだけ探したって見つからないけど。

対応していた警備の者に、次来たらすぐに追い返すように言って、
私たちは本宮へと戻る。

竜王様の執務室に行って報告すると大笑いしてくれた。

「完全にお前たちの勝ちだな。よくやった」

「ふふふ。ありがとうございます」

「考えたのはリディです。俺は何も」

デリア様を逃がすことに決めたのは夜会の後だった。
あまりにもひどいと思い、修道院に入る気はないかとデリア様に聞いた。

ジーナたち四人が入るはずだった修道院。
四人は二つ隣の国にある修道院に何度か寄付をし、
手紙のやり取りをして受け入れを許可されていた。

そこの院長に話をしに行き、四人の代わりに、
デリア様たち三人を受け入れてもらえないかとお願いをした。
今後、定期的に寄付をすることも約束して。

ただ、後宮にいる間に逃がせば竜王国の責任になる。
デリア様を迎えに来た使者たちの目を盗んで逃がすことにした。

昨日の夜、王都の外れで野営をし始めた使者たちは、
デリア様たちには携帯食料を少しだけ渡して馬車から出ないよう命じ、
自分たちは焚火を囲んで酒を飲んで笑っていた。

三人は帰ったら豚公爵に売り飛ばされる、
その報酬をわけてもらえるのが楽しみだと。

飲んで騒いでる使者たちに気がつかれないようにデリア様たちを連れ出し、
二つ隣の国の修道院までルークの背に乗せて運んだ。

ベントソン国とは逆方向の国の修道院に逃げたとは思うまい。

「これで後宮の問題も終わったし、
 ベントソン国も使者が帰る前には消えているかもしれんな」

「ベントソン国の属国にも竜人を派遣したんですね?」

「ああ。オリアン国の時にはすぐ終わってしまったからな。
 出番がなかった竜人たちが行きたがった。
 すぐに結果が出るだろう」

「そうですか。その結果を知れば、
 もう他の国は同盟を破棄しようとは思わないでしょうね」

普通の国ならオリアン国が消えた時点で考え直すと思うのだが、
オリアン国はルークや私の件でもめていたことも知られている。
もともとつぶすつもりだったのだと思われたせいで、
他の国への警告としては弱かったらしい。

何ももめていなかったベントソン国が消えたとわかれば、
他の国も同様につぶされるとわかってもらえると思う。



竜王様の予想通り、使者たちがデリア様を探すのをあきらめて帰国した時には、
ベントソン国の王族と高位貴族の一部は捕らえられた後だった。
属国の一つに国を奪われた形でベントソン国は消え、
使者たちも同じように捕らえられたと報告された。

これでもうデリア様たちが恐れる存在はいなくなった。
一応はその旨を手紙で伝えたけれど、
デリア様たちは修道院での生活が気に入ったようで、
このまま一生ここに住み続けますと返事がきた。

後宮内でも修道院のような生活をしていた三人には、
ぴったりの場所だったらしい。
心穏やかに暮らしているのなら、それでいいと安心した。


そして、ラディとクレアが三か月ぶりに戻ってきた。
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