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48.新しい仲間

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夜会の次の日、執務室に行ったら、
クレアとラディの他にもう一人の女性がいた。

竜族だと思うけど、見たことのない顔だ。
こげ茶色の髪を一つにまとめ、茶色の目の落ち着いた雰囲気の女性。
年齢は私と同じくらいに見える。

「おはよう、リディ。昨日は誰かに捕まらなかった?」

「ひどいわ。気がついたら二人ともいないんだもの」

「次期竜王だと公表したからラディに話しかけようとする者が多かったのよ。
 捕まったら大変だと思ってすぐに退出したの」

「それはそうだろうけど。それでこの女性は?」

「ええ、ジーナよ。私たちの専属侍女にしようと思うの」

「専属侍女?」

「ジーナと申します」

綺麗にお辞儀するジーナは貴族令嬢に見える。
だが、家名を名乗らないというのは、
もうすでに侍女として扱ってほしいということなのか。

いろいろと疑問がある私とルークに、クレアは昨日のことを話す。
それを聞いて、クレアがここに連れてきたのがよくわかった。

「なるほどね。ジーナは家を捨てて働くってことでいいのね?」

「はい」

「まぁ、家を捨ててとは言うけど、
 ほとんどの竜族は竜王国から出ていくことになる。
 この場合、捨てたのはジーナのほうかもしれないな」

ルークの言うとおり、竜族は竜王国から追い出されることになる。
竜族の貴族には迷惑をかけられたことしかないから、
いなくなっても困らないのだけど。

家族が追い出されると聞いても表情を変えないジーナに、
よほど虐げられていたのだなと思った。

「ねぇ、ジーナ。友人に荷物を預けていたと言ってたわね。
 もしかして、その友人たちも似たような境遇なの?」

「そうです。私を含め、四名で修道院に行く予定でした。
 さすがに女性の一人旅は危険です。
 全員に声をかけ、そろったら移動することになっていました」

「ねぇ、クレア。その三人も侍女にしようよ」

「そうね。昨日のうちに気がつかなくてごめんなさい。
 その三人も家族に虐げられているの?」

「はい。他の三人は先妻の子や妾の子で居場所がないのです。
 私の場合は両親も妹も血のつながった家族ですが」

「まぁ、血がつながっていても愛されるとは限らないものね」

「え?」

あっさり納得した私に、ジーナは初めて表情を崩した。

「何かおかしいことでも言った?」

「あ、いえ。こういう話をすると、
 血のつながった家族に愛されないなんておかしい、
 私の被害妄想じゃないのか、とかよく言われるので」

「あぁ、なるほどね」

自分だけは血のつながった家族だとわざわざ言ったのは、
同じように非難されたくなかったから。
後で嫌な思いをするくらいなら先に言われた方がいいと思ったんだろう。
まだ私たちは信用されていないらしい。

「血がつながっていたとしても虐げる者はいるわ。
 血がつながっていなくても、家族だと思うものもいるし、
 あまり関係ないんじゃないかしら」

「そう、ですか」

ほっとするようなジーナに、少しは安心できたかなと思う。

私はそれほど血のつながりを信じていない。
私の父だと言われていた公爵は、
生贄になった後の私を汚すのを楽しみにしていた。
公爵は私を実の娘だと思っていたのも関わらずだ。

それを思えば、虐げるくらいするものはいるだろう。
家族だろうとなかろうと、人を虐げるのが好きな人間がいる。
ただそれだけのことなんだと思う。

「ジーナ、他の三人の家と名前を教えてくれ。
 ジーナからの手紙を持たせて迎えに行かせるよ。
 その三人も侍女にならない場合は修道院に送る。
 そのことも手紙に書いてくれ」

「わかりました。よろしくお願いいたします」

ジーナが行こうとしていた修道院がどういうところなのか気になったけれど、
それよりも聞きたかったのは、

「どうして竜王国と竜族の国には修道院がないの?」

「ああ、簡単な話だ。
 竜王国に住める竜族というのは選ばれたものだけらしい。
 もとは五家とその分家の十二家だけだったんだが、
 分家の分家の分家……ってな感じで増えていって。
 どのくらいの竜族がいるかわからない。
 だが、選ばれたものだけが住めるというのは変わらない。違うか?」

ラディの説明が正しいか確認されたジーナはすぐさまうなずいた。

「あっています。
 ですので、私のような家族からはみ出すものは居場所がなくなり、
 追い出されるのです。孤児や未亡人も同じです。
 必要ないものは竜王国にいられなくなり、竜族の国にいっても嫌がられます。
 二つ隣の国までいかないと、生きていくことすら難しいのです」

「いらないものは排除される……か。
 じゃあ、なおさら出ていってもらってもいいよね。
 自分たちがそうしているのなら、されてもいいってことだもの」

「そうだな。
 とりあえず、竜族の代表五家に通達する前に、
 その女性たちを保護してこさせよう」

「そうね。ジーナ、便箋はこれね。
 使いのものを信じてもらえるように手紙を書いてちょうだい」

「はい。まかせてください」

はりきって手紙を書きだしたジーナを見て、
私は希望が見えた気がした。
それはもう少し落ち着いてからでもいい。
ジーナの手が空いた時に、修道院の話を聞こうと思った。

ジーナの友人の三名はジーナからの手紙を読み、
そのまま使いの者と一緒に王宮に来た。
必要最低限の荷物を持ち、家族に捕まらないようにと、
急いで王宮に来たらしい。

皆、同じような感じに見えた。
ぼさぼさの手入れのされていない髪。
しばらく湯を使えていないような体の汚れ。
とても貴族令嬢とは思えない古びた服。

ジーナもこうだったと言われ、保護したクレアが大正解だと思う。

とりあえず四人には部屋を与え、身支度を整え、
エレナから侍女になるための指導をしてもらうことになった。

まともに食事もできていなかったのか、
食事と部屋が提供されただけで感動していたらしい。

侍女が嫌なら修道院に送る予定になっていたが、
四人ともこのまま専属侍女を目指すと決めた。

それならば正式に引き取らなければならないと、
各家の当主に連絡を送る。
そちらの娘を働かせるが良いか、と。

その連絡に慌てて王宮に来た家族は、
とてもじゃないけれど、娘に会いに来たようには見えなかった。


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