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34.ラディの番

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「ルーク、もしかしてラディの番って」

「……まさか」

「やっぱりリディなのか?」

私とルークが顔色を悪くしたのを見て、ラディが困った顔をする。
ラディにしてみても、私が番というのは不本意なんだろう。
ルークと争うことになれば、どちらも無傷ではいられない。

私とルークの心配は、まったく違うことだったけれど。

「……呼んでみるわ。出てこないかもしれないけれど」

「そうだな。たとえ違ったとしても、
 ラディならクレアを守ろうとしてくれるはずだ」

「何の話をしているんだ?」

「ラディに会わせたい人がいるの」

「会わせたい人?」

説明は後でしようと、首にかけていたネックレスを外す。
赤い竜石を目の前に出すと、ラディは驚いていた。

「その石って、まさか竜石なのか!?」

「そうよ。……クレア、出て来てくれない?
 あなたに会わせたい人がいるの」

「…………なあに?」

少しは元気になってきたのか、呼びかけに応じてクレアが出てきた。
私の方を向いているから、後ろにいるラディには気がついていない。

ラディは竜石から出てきたクレアを見て、固まっていた。

「ラディの話はしたよね?
 私をレンデラ国から連れ出してくれた人」

「ええ、覚えているわ。リディのお兄様でしょう?」

「そうよ。お兄様だと思っているの。
 強くて優しくて、とっても頼りになるお兄様。
 クレアにも会わせたくて。後ろを向いてくれる?」

「後ろ?」

小さなクレアがくるりと後ろを向く。
ラディとクレアの視線があって、二人とも動かなくなる。

少しして、ラディはゆっくりとクレアに手を差し出した。
クレアは差し出された手にどうしていいかわからず、
悲しそうな顔をして私を見た。

あぁ、クレアは自分では言いたくないんだ。

「ラディ、……クレアはさわれないの」

「俺の番はクレアというのか?
 さわれないって、どういうことなんだ?
 こんなに小さくなっているのも」

ああ、やっぱり。ラディの番はクレアだった。
どうしよう。クレアはもう亡くなっているのに。

「とりあえず、座ってから話しましょうか。
 少し落ち着いた方がいいと思うわ」

「あ、ああ」

ソファに移動して、ラディの向かい側に座る。
私が番かもしれないという疑いが消えたからか、
ルークはラディを威嚇するのを止め、おとなしく私の隣に座る。

クレアはテーブルの上に竜石を置いた。
ラディはクレアに近づきたいようだったけれど、
クレアは困っているようだったから、
ラディに竜石を持たせることはしなかった。

「それで、どうして俺の番は竜石に閉じ込められているんだ?」

「その理由はわからない。この竜石はアーロンのよ」

「アーロン様の竜石!?」

「クレアはアーロンの長女なの」

「アーロン様の長女……処刑されたって。……嘘だろう」

クレアが何者なのか知ったラディが絶望した顔になる。
それに気がつかないふりをして、クレアのことを話した。

話し終えた後、まだ顔色は悪かったけれど、
ラディはクレアが亡くなっていたとしても番だと認めたようだ。

まだ打ち解けられないクレアに、
ラディは少しずつ自分のことを話し始めた。

その時、ドアがノックされ、騎士から伝言がされる。

「ラディ様に竜王様とハンス様からの伝言です。
 戻ったのならすぐに報告に来るようにと」

「わかった」

「もしかして竜王様に報告もせずにここに来たの?」

「……リディが番かもしれないと思って、確かめたくて」

どうやら竜王様に戻ってきた報告もなしにここに来たらしい。
レンデラ国の後片付けがどうなったのか、
竜王様も気になっているだろう。

「早く行って来たら?」

「……だが、クレアと離れたくない」

「でも、ラディに竜石を渡すわけにはいかないわ。
 クレアにとってはまだ会ったばかりの人なのよ」

「わかってる。竜石に閉じ込められてる不安定な状態で、
 初対面の俺に身体を預けるわけにはいかないって思うのは。
 だけど、ようやく番に会えたのに、離れるのは無理なんだ……」

「ええぇ。どうしよう、ルーク」

「番だと認識した直後っていうのは、一番執着が強いんだ。
 何を言ってもダメだよ。離れられるわけがない。
 仕方ないから俺たちも一緒にクライブ様のところに行こう。
 このことはクライブ様とハンスに相談したほうがいいと思うし」

「相談……そうだね」

ラディの番が見つかったことは喜ばしいけれど、
相手はもう亡くなって竜石に閉じ込められているクレア。
これからどうしたらいいのか、竜王様とハンスならわかるかもしれない。

全員で竜王様の執務室に移動すると、
竜王様は私が竜石を持っているのに気がついた。

「戻ってきたならすぐに報告に来い。……ん?
 リディ、その竜石は?それに浮かんでるのはなんだ?」

「クレア、自分で挨拶できる?」

「ええ。伯父様、初めまして。
 アーロンの娘、クレアと申します」

「……アーロンの娘?」

竜王様も小さなクレアを見て動きを止める。

クレアは竜王様に向かって優雅な所作で礼をした。
レンデラ国の侯爵令嬢として育ったクレアだから、
小さくても指先まで動きが美しい。

そんなクレアに見惚れたのかラディが顔を赤らめている。
ラディのこんな顔は初めて見た。本当にクレアが番なんだ。

「私が知っていることを説明しますね」

「ああ、説明してくれ」

クレアがどうしてこうなったのかを説明し、
さきほどラディの番だと言われたことも話す。
竜王様は静かにクレアの話を聞いていた。

「事情はわかった。ハンス、調べてくれないか?」

「竜石に竜人を閉じ込める魔術と、
 それの解術方法ということでしょうか」

「そうだ。竜石を使って行う魔術は秘術とも呼ばれる。
 自分の竜石を取り出すなんて、普通はしないからな。
 めったにないため、調べるのは難しいだろうが……」

「いいえ、調べなくてもわかります」

「は?」

「アーロン様に竜石のことを教えたのは私ですから」

「っ!?」

ハンスは奥の本棚から古い魔術書を一冊取り出して、竜王様の前に置いた。



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