上 下
21 / 61

21.解体の説明

しおりを挟む
一年後に解体することは竜王様が決めたけれど、
そのことを後宮にいる妃候補だけでなく、
すべての同盟国と属国に通告しなくてはいけない。

各国に書簡を発送した後、まずは一年後に後宮を出る予定の妃候補に、
後宮の解体を説明しにいくことにした。

面会の約束を取り付け、後宮に向かうと、
妃候補のクリスタ様はにこやかに迎え入れてくれた。

ふわふわの白髪に真っ白な肌。
目と唇は赤く、浮き上がるように見える。
華奢な身体のせいもあって、壊れそうなほど繊細で美しい。

思わず見とれてしまっていたら、
クリスタ様は私たちに向かって深々と礼をする。

「クリスタ嬢、今日は大事な話があってきた。
 座って話したいがかまわないか?」

「はい」

まずは座ってからと、クリスタ様の向かい側にルークと座る。

「新しく竜王様の側近になったリディよ。
 私も後宮担当になったの。よろしくね」

「クリスタと申します。
 よろしくお願いいたします、リディ様」

「リディは私の婚約者でもある」

「まぁ!婚約されたのですね。おめでとうございます」

とても礼儀正しい令嬢のようで、座ったままでも綺麗にお辞儀をする。

クリスタ様は私がルークの婚約者だと知っても幼いと馬鹿にすることはなかった。
最初に会った妃候補がコリンヌ様だったからか、
少し警戒していたけれど、そんな必要はなかったみたい。
貴族令嬢でまともな人に初めて会ったかもしれない。

「実は、この後宮は一年後に解体されることになった。
 クリスタ嬢はもともと一年後に出ることになっていたから、
 あまり影響はないだろうが、一応は説明しなければならない」

「まぁ、後宮が解体ですか。
 驚きましたが、でもそうですわよね。
 竜王様にお目通りもない妃候補ですもの。
 後宮なんて必要ありませんわ」

「そういうことだ。
 クリスタ嬢は予定通り、ババーリ国から迎えが来次第、後宮を出ることになる」

「そうですね……あと一年」

そうつぶやいたクリスタ様の微笑がさみしそうで、
何かあるのかと疑問に思う。
後宮を出るのを嫌がっているのではなさそうだ。

「クリスタ様、何か憂うことがあるの?」

「え……あ。申し訳ありません。
 少しババーリ国に帰った後のことを思っておりました」

「帰った後で心配なことがあるのなら、言ってほしい。
 後宮の妃候補をつとめてもらったのだ。
 多少のことはババーリ国に要求できると思う」

ルークがそう申し出たが、クリスタ様はゆっくりと首を横に振った。

「そうではないのです。
 私は国に戻ったら幼馴染と結婚することが決まっています」

「まぁ、それはいい話なのね?」

「はい」

その幼馴染を思い出したのか、うっすらと頬を染めるクリスタ様に、
結婚が決まっているのに妃候補になってしまったのは可哀そうなことだと思う。

「いい話なのに、心配なのか?」

「……もう四年も会っていません。
 私が妃候補になることは産まれた時に決まりました。
 白髪の令嬢は貴重だから竜王様に献上するとババーリ国王が決められて」

「産まれた時に……」

「そのこと自体は光栄なことですし、形だけの後宮なのだとわかっていました。
 戻ってきたら結婚しようと幼馴染が求婚してくれて……。
 幸せだと思っていたのですが、四年も会えず手紙も出せないとなると、
 ババーリ国に戻った時、幼馴染が待っていてくれるのかと不安で」

「それは……不安にもなるわね」

後宮に入ってしまえば、後宮の外と手紙のやり取りをすることはできない。
ババーリ国に報告の手紙を送ることはできるが、
貴族個人に手紙を送ることは許されない。

十五歳から四年間。
一度も手紙を送ることもできないまま待つのは苦しいはず。
信じてる気持ちと、疑う気持ち、揺れ動いているのがわかる。

「ねぇ、ルーク。
 竜王様にお願いして手紙を解禁にしてもらえないかしら」

「手紙を解禁?」

「だって、解体が決まっているのよ。
 手紙のやり取りを禁じる意味もないじゃない。
 後宮を出た後のことを話し合ってもらうためにも、
 手紙のやり取りは認めてもいいんじゃないかなって」

「それもそうか。
 クリスタ嬢は出る予定だから国で準備を始めているだろうが、
 残りの二人は突然帰ることになる。
 帰った後のことを国と相談する必要はあるだろう。
 竜王様に願い出てみるか。ダメだとは言わないと思う」

「良かった!
 クリスタ様、竜王様の許可が出たら手紙を送ってみたらどう?
 後宮を出るまでの間、手紙のやり取りだけでもできたら安心できるのでは」

「あぁぁ……ありがとうございます!」

よほどうれしかったのか、クリスタ様の赤い目からぽろぽろと涙がこぼれる。
周りにいる侍女たちもつられて、目元をハンカチで拭う。
クリスタ様は侍女たちに慕われているようだ。

もともとクリスタ様はもめると思っていなかったが、
すんなりと解体を受け入れてもらえて話は終わった。
手紙の許可が出たらすぐに知らせると約束して後宮を出る。

問題は残りの二人。
コリンヌ様は前回のことがあるので、最後にしようと決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵
恋愛
 一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。  それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。  リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。  そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。  でも、次に目を覚ました時。  どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。    二度目の人生。  今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。  一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。  そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか? ※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。  7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

聖女候補の転生令嬢(18)は子持ちの未亡人になりました

富士山のぼり
恋愛
聖女候補で第二王子の婚約者であるリーチェは学園卒業間近のある日何者かに階段から突き落とされた。 奇跡的に怪我は無かったものの目覚めた時は事故がきっかけで神聖魔力を失っていた。 その結果もう一人の聖女候補に乗り換えた王子から卒業パーティで婚約破棄を宣告される。 更には父に金で釣った愛人付きのろくでなし貧乏男爵と婚姻させられてしまった。 「なんて悲惨だ事」「聖女と王子妃候補から落ちぶれた男爵夫人に見事に転落なされたわね」 妬んでいた者達から陰で嘲られたリーチェではあるが実は誰にも言えなかった事があった。 神聖魔力と引き換えに「前世の記憶」が蘇っていたのである。 著しくメンタル強化を遂げたリーチェは嫁ぎ先の義理の娘を溺愛しつつ貴族社会を生きていく。 注)主人公のお相手が出て来るまで少々時間が掛かります。ファンタジー要素強めです。終盤に一部暴力的表現が出て来るのでR-15表記を追加します。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました?

gacchi
恋愛
隣国からの留学生のリアージュは、お婆様から婚約者を探すように言われていた。リアージュとしては義妹のいない平和な学園で静かに勉強したかっただけ。それなのに、「おとなしく可愛がられるなら婚約してやろう」って…そんな王子はお断り!なんとか逃げた先で出会ったのは、ものすごい美形の公爵令息で。「俺が守ってやろうか?」1年間の婚約期間で結婚するかどうか決めることになっちゃった?恋愛初心者な令嬢と愛に飢えた令息のあまり隠しもしない攻防。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

業 藍衣
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...