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15.コリンヌ様

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では、先日入ってきたコリンヌ嬢は十八歳、私と同じ年ということだ。
揉めたと聞いてたけれど、何があったんだろう。

「ルークがコリンヌ様を相手国まで迎えに行ってから、
 帰ってくるまで大変だったと聞いたけれど、何があったの?」

「はぁ……話しておいたほうがいいか。
 実は後宮に入るのはコリンヌ嬢の予定ではなかった。
 コリンヌ嬢はその国の第二王子の婚約者だったんだ」

「変更になったの?」

「ああ。それも直前でだ。
 後宮に入るはずだったジュリア嬢に第二王子が求婚し、
 ジュリア嬢もそれを受け入れて後宮に入ることを辞退した。
 ここまでなら別に何の問題もなかったんだ。
 婚約解消されたコリンヌ嬢が後宮に入ると言い出した」

「ええぇ……それは婚約解消されて国に居づらいとか、
 そういう理由だったりする?」
 
「居づらいというよりかは、
 第二王子よりも高貴な人の妃になってやるという野望だと思う。
 こちらとしては後宮に入ってもらわなくても困らないと言ったのだが、
 王家やら議会がコリンヌ嬢の味方をして押し切られてしまった」

「同盟国としては他の国の令嬢に先を越されたら困るとか?」

普通はそんなことになれば、一旦白紙に戻してから検討し直すのではないだろうか。
迎えにきた使者に失礼だとしても、第二王子の元婚約者を寄越すというのは、
竜王国としてどう思うんだろう?

「いや……そういうことじゃないな。
 厄介払いに使われた感じがする」

「それだけコリンヌ様がめんどくさい人だってこと?」

「ああ……すごく。すごくめんどくさい令嬢だ。
 わがまま令嬢だということだけなら放っておくんだが、
 竜人なら誰でもいいと思っているのか、俺の寝所に入り込んでこようとした」

「は?一応は後宮の妃候補なのよね?」

それって浮気にならないんだろうかと聞いてみたら、
ルークは嫌そうに相手が俺だからだと答える。


「後宮の管理をするのが百歳前の竜人に決められているのは、
 百歳前の竜人なら後宮の妃候補を下賜できるからなんだ」

「つまり、コリンヌ様はルークと結婚することができる?」

「結婚はしないよ。愛妾の扱いだ。
 竜人と竜族の違いは学んだんじゃないの?」

「まだ途中までしか読んでないの。
 百歳までの竜人なら竜族と子が作れるというのはわかったわ。
 それって、結婚できるってことだと思ったんだけど、違うの?」

わからなかったので素直に聞くと、ルークは深くため息をついた。

「そんないいものじゃないよ。
 子が作れるというだけで、竜人が産まれるわけじゃない。
 産まれてくるのは竜族だから、たとえば俺が子を産ませたとしても、
 その子は俺よりも先に死ぬんだ」

「あ……」

そうだ。竜族の寿命は百歳程度。
五百歳以上生きる竜人よりも先に亡くなってしまう。

「そういう理由もあって、竜人の子として認められるのは竜人だけだ。
 竜族は子として数えられない。
 竜人が竜族や人間と結婚するのは番だった時だけ。
 番であれば、生まれてくるのは竜人だから」

「そういう違いなんだ……」

「だから竜人で竜族相手に子を作るようなものは、
 かなりの女好きか押しに弱いかだと思う」

「ルークは押しに弱そうだわ」

「……だから、リディと婚約するように命じられたんだろうね」

「納得したわ」

ここで執務室のドアがノックされる。
入ってきたのは、竜族の女性だった。

「ルーク様、コリンヌ様からです」

「また呼び出しか」

ルークが呼び出しの手紙を受け取りたくないという顔をするから、
代わりに私が受け取ろうとする。
すると、竜族の女性はそれを拒否しようとした。

「これはルーク様宛のものです」

「知ってるけど、正式にはルークにじゃなく、
 後宮担当の者宛よね?」

「え?」

「後宮内から個人宛に手紙を出すことは禁じられているわ。
 後宮担当のルークだから受け取れるのよ。
 同じ後宮担当の私も内容を確認しなくてはいけないもの。
 それを寄越してちょうだい」

「え?……あの、ルーク様?」

「リディの言うとおりだ。早く渡して」

ルークも言ったからか、渋々手紙を差し出してくる。
中身を確認すると、今すぐ後宮に来てくれという手紙だった。

「後宮に呼ぶ理由は?」

「わかりません」

「では、呼ぶ理由まで書いて寄越すように言って」

「は?」

「コリンヌ様が後宮にルークを呼び出すのは、これで何度目?
 どうせ同じ理由で呼び出しているのではないの?
 会いたいからという理由なら今後は断ると伝えておいて」

「そんな勝手なことを!」

竜族の女性はコリンヌ様の味方なのか、
断った私に反発して言い返そうとした。
だが、途中でルークに遮られた。

「勝手なことをしているのはどちらだ。
 リディに歯向かうのであれば、ここから去れ。
 後宮との連絡係は他の者に命じることにする」

「ルーク様!?それは困ります!」

「コリンヌ嬢が後宮に入ってからずっと、
 お前は手紙を運ぶだけで、コリンヌ嬢をいさめようとしない。
 お前の仕事は俺を呼ぶことではないはずだが」

「それはコリンヌ様がお可哀そうだから、
 せめてルーク様に会いたいという願いだけでもと」

「今後、俺は一人で後宮に行くことはない。
 ここにいるリディと一緒でなければコリンヌ嬢とも会わない。
 それを伝えておけ」

「ですが!」

「最後の仕事くらいきちんとつとめていけ」

「っ!」

仕事を辞めさせるというのが本気だったと伝わったようで、
竜族の女性は私をにらみつけて出て行った。

「はぁぁ」

「今のように言い返していれば、問題ないんじゃないの?」

「疲れていると、めんどうになってしまうんだ。
 断っても俺が行くまで手紙を寄越してくるし。
 一度行けばその日は大人しくなるだろうと思って」

「なるほど」

「でも、さすがにそろそろ何とかしないと。
 リディがいてくれて助かるよ」

たしかに今も私を防御として使っていた。
私と一緒でなければ会わないと言われて、コリンヌ様はどう反応するのか。
急に女性の私が同席すると言われて、怒るんじゃないだろうか。

次に手紙が来たのは二日後だった。
コリンヌ様からの手紙は意外なものだった。
私と一緒でもいいから会いに来てほしいという。

「ちょうどいいから行きましょうか。
 ほら、一年後に後宮を解体すると告げなくてはいけないし」

「それを伝えたら暴れそうだな……」

「問題ないわ。暴れるようなら、それを理由にして送り返しましょう」

「それもそうか……よし、行こう」

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