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48.出された王命

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「なんだ。ルシアンもニナもあきらめるのが早いな」

「え?」

どこかのんびりした父様の口調に私とルシアン様は顔をあげた。

父様……いつもと同じ表情。少しも焦ってない。
こんな時にどうして。

「俺はこうなることも予想していた」

「ええ?」

「一度自分たちのものにしようとしたのに、そう簡単にあきらめるはずはない。
 精霊教会だって人をさらってくるくらいだ。
 まともな場所じゃない。王家が婚約式を無効だと言えば、そうするだろう」

それはそうかもしれないけど。
貴族たちも呼んで婚約式をしていた。
それをあっさりとなかったことにされるなんて思わなかった。
この国は誠実というものが失われてしまっている。

はぁぁとため息をついたら、父様に頭をなでられた。
そんなに心配しなくていいと。

「ルシアン、ニナとの婚約を認めた時に約束させたよな?
 ニナ以外のものをすべて捨ててもかまわないと。違うか?」

「いや、違わないよ。俺はニナが一番大事だから」

「じゃあ、俺の決定に従え。
 俺が公爵家当主だ。国王の言うことは聞かない。
 王命だろうとはねのける」

きっぱりとそう宣言した父様にルシアン様は不安そうな顔をしたまま。

「叔父上も精霊との契約は知っているはずでは?」

「知っているよ。だからこそ言うんだ。俺の決定に従え、と。
 俺はニナを選ぶと最初から言っている。
 だから、お前も迷うな。ニナが大事なら守ると言い切れ」

「……そういうことであれば。当主である叔父上に従う」

「それでいい」

ルシアン様もうなずいてしまったけど、いいのかな。
国王に従わないということは、処罰を受けるってことになるんじゃ……

「ニナ、何かあれば、お前を優先にする。
 そのことで起きるすべてを受け入れると約束したはずだ」

「……約束はしたけど」

「じゃあ、あとは父様を信じなさい。
 長年苦労をさせてしまったんだ。
 これくらいは父様がなんとかしてみせるよ」

「……うん」

すべてを受け入れることは、難しい。
私のせいで苦しむのをわかっていて、
ルシアン様のそばにいることを選んでいいのかなって。

だけど、あまりにも父様が平気そうな顔をしているから、
今は信じることにした。

ルシアン様の手を取って、馬車から降りる。
本宅では何も知らない母様が笑顔で迎えてくれる。
父様とルシアン様は母様に知らせる気はないようだったから、
私も何も言わないことにした。




それから一か月。
あのままアンドレ様は私のことなんて忘れてしまったのかと思ったら、
父様宛に国王からの手紙が届いた。

そこには公爵令嬢のニネットを王太子アンドレの正妃に内定すると書かれていた。
その王命を受けるために公爵は参上せよ、と。

「やっと来たか。
 ニナも一緒に行くか?」

「うん、行くわ。……あのね、父様。
 母様が男性を弾いてしまうのって、私にもかけられないの?
 精霊が守ってくれているのでしょう?」

「ああ、そういえばそうだな。
 エマは私の妻だから精霊に守られているんだ。
 というか、ニナは自分で精霊にお願いすれば守ってくれるはずだが、
 そんなことをしても無意味だから必要ない」

「え?」

アンドレ様が私に近寄れなくなれば、
正妃にしても意味がないとあきらめてくれると思ったのに、
父様には必要ないと言われてしまう。

「たとえ妃としての役割ができなかったとしても、
 王命を出してしまった以上、妃にするのをやめるとは言わない。
 ニナが形だけの妃になってしまうだけだよ」

「そっか……」

「がっかりしなくても、大丈夫だよ。
 今から王命を断るために行くんだからね」

「本当に断れるの?」

「可愛い娘と甥っ子を守るくらいしないとな。
 今まで何もできなかったんだ。
 これくらいは頼ってくれ」

「うん」

結局、王宮にはルシアン様も行くことになり、三人で馬車に乗る。
ルシアン様は私の手を離さなかった。

「ルシアン、覚悟を決めたようだな?」

「ああ。ニナは何があっても渡さない。
 絶対に連れて帰るから」

「よし、その意気だ。
 国王との会話は俺に任せて、ルシアンはニナのそばにいてやってくれ」

「ああ」

少しだけ強く手を握られると安心する。
何一つ解決していないのに、気持ちが落ち着いていく。

謁見室に入る時も手をつないだままだったからか、
国王とアンドレ様はそれを見て顔をしかめる。

私とルシアン様を隠すように父様が一人で前に出る。

「よく来たな、公爵。手紙に書いたとおりだ。
 ニネットをアンドレの正妃にしてやろう」

「断ります。ニネットはルシアンの婚約者です」

「その婚約は無効だ。
 婚約式に王族が出席していないからな」

「それでは、もう一度ニネットとルシアンの婚約式を行いましょう。
 今度は王族に出席してもらいます」

国王の言葉に、何一つうなずくことはなく、平然と返していく父様。
次第に国王がイラついてきたのがわかった。

「だから、ニネットはアンドレの正妃にすると言っているだろう!」

「ですから、それは断ると」

「王命だ!」

「王命であっても、ジラール公爵家当主として断ります」

「はぁ!?」

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