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45.当主のお披露目
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父様のお披露目のためだけに開かれた夜会は、
前回の夜会よりも人が大勢集まっていた。
「それだけ喜んでいるんだろう。
力が使える精霊の愛し子が手に入って」
「陛下ならそうだろうね」
「もしかして、すべての貴族家が招待されているんですか?」
「そうみたいだ」
前回の夜会ですら人が多くて大変だったのに。
侯爵家までの入場を待つ時間が長い……。
「そういえば、父様は貴族たちの前に出ても大丈夫?」
「ん?どういう意味だ?」
「急に平民から貴族になって、意地悪なこと言われない?」
私が養子に入った後、侯爵家でのお茶会に来た夫人と子どもたちには、
かなり意地悪なことを言われたのを思い出した。
父様は平民だったのに、公爵家当主になるなんて大丈夫なのかな。
「心配しなくても大丈夫。貴族家の情報も礼儀作法も問題ない。
兄上と同じだけ教育は受けているんだ」
「貴族じゃないのに?」
「父上と母上は俺が成人する時に選べと言ったんだ。
このまま平民として生きていくか、貴族となって生きるか。
精霊の愛し子だから隠したのは俺を助けるためだったとしても、
俺自身がそれを望むかはわからないだろう?
だから貴族に戻りたければ戻れるように、教育だけはきちんとされていた」
「そうだったの」
「まぁ、成人した時に平民のままでいいと言って、
他国への旅に出たんだけどさ。
教育を受けておいて良かったな」
なんてこともないように父様は言うけれど、
公爵家の令息としての教育は私が受けてきたものより、ずっと厳しいと思う。
そのまま役に立つことなく、平民として生きたかっただろうけど。
また私のせいでごめんと言いそうになって、我慢する。
すべてのことを受け入れるように約束したから。
申し訳ないと思うのは仕方なくても、謝ることはもうしない。
入場の時間になったのか、ドアがノックされる。
会場に入ると、もうすでに王族の入場まで終わっていた。
国王が満面の笑みで父様を迎え入れる。
「さぁ、皆の者。新しいジラール公爵家の当主だ」
大広間にいた誰もが、父様の銀色の髪と紫の目を見て声をあげる。
素晴らしい、なんてことだ、精霊の愛し子だなんて。
さまざまな驚きの声が聞こえるが、全員が喜んでいるのがわかる。
そっか。私の髪色を隠せと言われたのはこうなるからか。
隠さなければ、貴族たちの争いに振り回されただろうと思う。
父様が壇上にあがり、国王の隣に立つ。
「ノエル・ジラールだ。
怪我をした兄上に代わり当主になることになった」
わぁぁと歓声と拍手が沸き起こる。
父様は挨拶もそこそこに、私とルシアン様を呼んだ。
隣にいる国王が怪訝そうな顔になる。
「家族のルシアンとニネットだ。
ここで公表しておこうと思う。
ニネットは私の娘だ」
「公爵!?な、何を言うんだ!」
「いやぁ、公爵家に帰ってみたら、行方不明だった実の娘がいたんです。
それはもう、驚きましたよ。どうしてここにニネットが?って。
まぁ、ルシアンと婚約しているのは、このままでいいですが」
「ニネットが公爵の娘?それは本当なのか?」
「ええ。見ていてください」
父様の手が私の髪にふれる。
精霊術は解けて、銀色の髪と紫目に戻る。
それを見た貴族たちが呆気に取られているのがわかる。
今まで馬鹿にし続けてきた平民の愛人の子。
それが公爵家の新当主の実の娘だとわかっても敬いたくはないだろうな。
「私にそっくりでしょう?
そうそう、陛下にはお礼を言わなければいけませんね」
「礼とは?」
「娘から話は聞きました。
私の妻を保護してくれているのでしょう?
精霊教会でお世話になっているとか。
今日はこちらには来ていますか?」
「つ、妻とは!?」
貴族たちが全員見ている前なのに、父様は平然と聞いている。
少しずつざわつき始める。
「あの平民の母親って、バシュロ侯爵の愛人じゃなかったのか?」
「だが、実の娘って」
「精霊教会が保護しているって、どういうことだ?」
少しずつ疑問の声が大きくなる。
これはまずいと思ったのか、精霊教会の司祭が声を張り上げる。
「あの女性は出ていかれました!」
「出て行った?」
「ええ、行きたいところがあるからと……」
「そう。では、国に帰ったのかもしれないな」
その言葉に、国王が問いただす。
「その妻という女性はどこの国の者なんだ?」
「精霊の森に住む、森の民ですよ。
初代ジラール公爵家当主の出身国です」
「は?」
「私の妻は、そこの長の娘です。
出会った時は妻の祖父が長でしたが、十年前に代替わりしましたから」
「森の民の……王族だと?」
そういえば、ジラール公爵家の初代当主は他国からきた旅人だって言ってた。
王族だったから王女と結婚できたんだって。
母様も長の孫だって言ってた気がする。そっか。王族と同じなんだ。
「まぁ、心配はいりません。
気まぐれな人ですから、またすぐに戻ってくるでしょう。
ここに娘がいるのですから」
「そ、そうか」
あきらかに顔色が悪くなった国王と精霊教会の司祭に気がつかないように、
父様は楽しそうに微笑む。
その笑顔に夫人たちが見惚れるのがわかった。
母様が留守番なのは仕方ないけど、父様は守らなきゃ。
意気込んでいたら、ルシアン様に大丈夫だとささやかれる。
「……でも、心配で」
「平気だから。黙ってみていて」
「……はい」
本当に大丈夫なのかなと思いつつ、ルシアン様に言われてしまえば黙るしかない。
夜会が始まると予想通り、父様に女性たちが殺到する。
だが、不思議とそばには寄れないみたいで、父様の周りには隙間が見えた。
前回の夜会よりも人が大勢集まっていた。
「それだけ喜んでいるんだろう。
力が使える精霊の愛し子が手に入って」
「陛下ならそうだろうね」
「もしかして、すべての貴族家が招待されているんですか?」
「そうみたいだ」
前回の夜会ですら人が多くて大変だったのに。
侯爵家までの入場を待つ時間が長い……。
「そういえば、父様は貴族たちの前に出ても大丈夫?」
「ん?どういう意味だ?」
「急に平民から貴族になって、意地悪なこと言われない?」
私が養子に入った後、侯爵家でのお茶会に来た夫人と子どもたちには、
かなり意地悪なことを言われたのを思い出した。
父様は平民だったのに、公爵家当主になるなんて大丈夫なのかな。
「心配しなくても大丈夫。貴族家の情報も礼儀作法も問題ない。
兄上と同じだけ教育は受けているんだ」
「貴族じゃないのに?」
「父上と母上は俺が成人する時に選べと言ったんだ。
このまま平民として生きていくか、貴族となって生きるか。
精霊の愛し子だから隠したのは俺を助けるためだったとしても、
俺自身がそれを望むかはわからないだろう?
だから貴族に戻りたければ戻れるように、教育だけはきちんとされていた」
「そうだったの」
「まぁ、成人した時に平民のままでいいと言って、
他国への旅に出たんだけどさ。
教育を受けておいて良かったな」
なんてこともないように父様は言うけれど、
公爵家の令息としての教育は私が受けてきたものより、ずっと厳しいと思う。
そのまま役に立つことなく、平民として生きたかっただろうけど。
また私のせいでごめんと言いそうになって、我慢する。
すべてのことを受け入れるように約束したから。
申し訳ないと思うのは仕方なくても、謝ることはもうしない。
入場の時間になったのか、ドアがノックされる。
会場に入ると、もうすでに王族の入場まで終わっていた。
国王が満面の笑みで父様を迎え入れる。
「さぁ、皆の者。新しいジラール公爵家の当主だ」
大広間にいた誰もが、父様の銀色の髪と紫の目を見て声をあげる。
素晴らしい、なんてことだ、精霊の愛し子だなんて。
さまざまな驚きの声が聞こえるが、全員が喜んでいるのがわかる。
そっか。私の髪色を隠せと言われたのはこうなるからか。
隠さなければ、貴族たちの争いに振り回されただろうと思う。
父様が壇上にあがり、国王の隣に立つ。
「ノエル・ジラールだ。
怪我をした兄上に代わり当主になることになった」
わぁぁと歓声と拍手が沸き起こる。
父様は挨拶もそこそこに、私とルシアン様を呼んだ。
隣にいる国王が怪訝そうな顔になる。
「家族のルシアンとニネットだ。
ここで公表しておこうと思う。
ニネットは私の娘だ」
「公爵!?な、何を言うんだ!」
「いやぁ、公爵家に帰ってみたら、行方不明だった実の娘がいたんです。
それはもう、驚きましたよ。どうしてここにニネットが?って。
まぁ、ルシアンと婚約しているのは、このままでいいですが」
「ニネットが公爵の娘?それは本当なのか?」
「ええ。見ていてください」
父様の手が私の髪にふれる。
精霊術は解けて、銀色の髪と紫目に戻る。
それを見た貴族たちが呆気に取られているのがわかる。
今まで馬鹿にし続けてきた平民の愛人の子。
それが公爵家の新当主の実の娘だとわかっても敬いたくはないだろうな。
「私にそっくりでしょう?
そうそう、陛下にはお礼を言わなければいけませんね」
「礼とは?」
「娘から話は聞きました。
私の妻を保護してくれているのでしょう?
精霊教会でお世話になっているとか。
今日はこちらには来ていますか?」
「つ、妻とは!?」
貴族たちが全員見ている前なのに、父様は平然と聞いている。
少しずつざわつき始める。
「あの平民の母親って、バシュロ侯爵の愛人じゃなかったのか?」
「だが、実の娘って」
「精霊教会が保護しているって、どういうことだ?」
少しずつ疑問の声が大きくなる。
これはまずいと思ったのか、精霊教会の司祭が声を張り上げる。
「あの女性は出ていかれました!」
「出て行った?」
「ええ、行きたいところがあるからと……」
「そう。では、国に帰ったのかもしれないな」
その言葉に、国王が問いただす。
「その妻という女性はどこの国の者なんだ?」
「精霊の森に住む、森の民ですよ。
初代ジラール公爵家当主の出身国です」
「は?」
「私の妻は、そこの長の娘です。
出会った時は妻の祖父が長でしたが、十年前に代替わりしましたから」
「森の民の……王族だと?」
そういえば、ジラール公爵家の初代当主は他国からきた旅人だって言ってた。
王族だったから王女と結婚できたんだって。
母様も長の孫だって言ってた気がする。そっか。王族と同じなんだ。
「まぁ、心配はいりません。
気まぐれな人ですから、またすぐに戻ってくるでしょう。
ここに娘がいるのですから」
「そ、そうか」
あきらかに顔色が悪くなった国王と精霊教会の司祭に気がつかないように、
父様は楽しそうに微笑む。
その笑顔に夫人たちが見惚れるのがわかった。
母様が留守番なのは仕方ないけど、父様は守らなきゃ。
意気込んでいたら、ルシアン様に大丈夫だとささやかれる。
「……でも、心配で」
「平気だから。黙ってみていて」
「……はい」
本当に大丈夫なのかなと思いつつ、ルシアン様に言われてしまえば黙るしかない。
夜会が始まると予想通り、父様に女性たちが殺到する。
だが、不思議とそばには寄れないみたいで、父様の周りには隙間が見えた。
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