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14.連れて行かれたアリアンヌ(リオネル)
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さっきまであんなに幸せな気持ちだったのに。
やっとアリアンヌに気持ちを伝えることができて、
精霊に祝福までしてもらえた。
父上たちもアリアンヌとの婚約を喜んで認めてくれるはず、
そんな気持ちでいっぱいだった。
つないでいた手を引き離されて、アリアンヌが連れて行かれる。
追いかけて奪い返したかったけれど、それを止めたのは父上だった。
どうして止めるんだと父上に言っているうちに、
叔父上はアリアンヌを無理やり押し込めるように馬車に乗せて、
あっという間に連れ去っていった。
「どうして……どうして止めたのですか」
「さっきも言っただろう。
アリアンヌはバルテレス伯爵家長女で、ジョスランの娘だ。
それは変えることのできない事実だ」
「だけど、これまでアリアンヌのことを放っておいたのに、
今さら父親だと言われても納得できますか!」
「納得できるわけないだろう。
だが、俺やお前が納得しなくても、それが事実なんだ」
頭ではわかっている。アリアンヌは預かっていただけで、
正式にデュノア公爵家に迎え入れたわけではない。
いつ伯爵家に戻されるかわからない、アリアンヌだってそう思っていたはずだ。
だけど、こんな急に叔父上が連れて帰るなんて思っていなかった。
しかも第二王子ラザールの婚約者になっただなんて、何が起きているんだ。
「これから陛下のところに行って確認してくるが、
おそらく第二王子の婚約者になったのは本当だろう」
「俺とアリアンヌは精霊に誓ったんです。
学園に入学する前に婚約しようって。ほら、精霊の祝福も受けました!
ラザールとの婚約の話は無かったことにできませんか」
この国に住む者なら精霊の祝福がどれだけ素晴らしいかわかるはず。
それを無理に引き離して違う者と婚約させるだなんて、ありえない。
きっとすぐにアリアンヌは俺のところに戻ってくる。
そう思って父上に訴えたのに、首を横に振られる。
「……無理だな」
「どうしてですか!第二王子だなんて言っても形だけの」
「そのせいだよ」
第二王子ラザールの母は第二妃だが、元は子爵家の出だった。
生家のファロ子爵家は大きな商家で、十年ほど前に大雨が続いた時に、
被害があった他の領地に金や物資、人を貸し出したという。
ファロ家のおかげで領民を死なせずにすんだ領地は両手で余るほどだった。
先代国王はそのことを讃え、報奨を出そうとファロ子爵に言った。
自分ができることなら、なんでも一つ願いを叶えようと。
子爵は嫁ぐことができなくなった長女の嫁ぎ先を紹介してほしいと願い出た。
二女が姉の婚約者を奪ってしまい、そのせいで婚約解消されたという。
奪い取ったのが姉妹だったために大ごとにはしなかったのだが、
噂が広まってしまい、妹に寝取られた姉と有名になってしまった。
その願いを聞いた先代国王はその娘に同情し、嫁ぎ先を紹介すると約束した。
ちょうど王太子妃が二人目を産んだ後、
これ以上子を望むのは難しいとわかった時期だった。
本来なら側妃にも選ばれない身分の子爵令嬢が、特例で王太子の第二妃となった。
それがカリーヌ妃で、一年後に産まれたのがラザールだ。
褒賞で側妃になったことも異例だが、
王子妃教育を受けていないものが側妃になったのも異例だった。
おそらく、もうすでに第一王子と第一王女が生まれていたこともあり、
予備としての王子が必要であっても、
王太子を選ぶ時に争いにならないように身分の高い側妃を娶るのは避けたのだ。
「ラザール王子ならそれほど権力もないから、
筆頭公爵家の嫡男である自分ならアリアンヌを取り返せると思ったのか?」
「それは……そうですが、なぜいけないのですか?」
「たとえ、それが事実であったとしても、
公爵家が王子を見下すようなことはしてはいけない。
デュノア公爵家は王家に忠誠を誓っている。
お前がラザール王子を見下すようなことをすれば、
この国の貴族たちはそれに倣うだろう。
そんな事が許されると思っているのか?」
「……許されません。ですが!」
「あきらめきれないのはわかっている。
だが、下手に動けば不利になるのはこちらだ。
アリアンヌのことをあきらめたわけではない。
今はまずいと言っているだけだ」
「いつなら奪い返せるのですか」
アリアンヌは泣いていた。
今までまともに会いに来ることもなかった父親。
伯爵家に帰って、どんな扱われ方をしているかもわからない。
「まずは何が起きているのか調べる。
バルテレス伯爵家とファロ伯爵家、そしてカリーヌ妃。
動くのはそれからだ。わかったな?」
「……わかりました」
今すぐにでも助けに行きたかった。
ぐっとこらえて、いろんな感情を飲み込む。
つらいのは自分じゃない。きっとアリアンヌは一人で泣いている。
だからこそ、もどかしくて、行き場のない怒りだけがつのっていく。
それから十日ほどして、アリアンヌの状況がわかった。
デュノア公爵家に仕える家令のジャンからの報告だった。
父上と母上はアリアンヌのことを調べるために不在だったため、
先に俺が聞くことにした。
ジャンからの報告では、アリアンヌは離れにいるという。
無理やり連れて帰った癖に、その日のうちに閉じ込めたと聞いて、
飛び出していきそうになったがジャンに止められた。
「アリアンヌ様は無事です。バルテレス伯爵家の家令は私の弟です。
閉じ込めているだけで、食事は三度出しているそうです。
それ以上のことは伯爵の目があって難しいようですが、命の危険はありません」
「どうしてアリアンヌを閉じ込めるんだ」
「これは弟から聞いた話から想像したことですが、
伯爵はアリアンヌ様と第二王子の婚約を解消させようとしているのかと」
「婚約を解消?あの婚約は叔父上が望んだことではないと?」
「婚約の申し出は第二妃とファロ伯爵からあったようです。
バルテレス伯爵家はファロ伯爵家に多額の借金があります。
それを帳消しにすると言われ、承諾するしかなかったと」
「借金か…バルテレス伯爵領も大雨の影響があったんだったな」
「影響どころか、バルテレス伯爵領は大雨の中心地でした。
あの大雨の原因はアリアンヌ様ですから」
「は?」
やっとアリアンヌに気持ちを伝えることができて、
精霊に祝福までしてもらえた。
父上たちもアリアンヌとの婚約を喜んで認めてくれるはず、
そんな気持ちでいっぱいだった。
つないでいた手を引き離されて、アリアンヌが連れて行かれる。
追いかけて奪い返したかったけれど、それを止めたのは父上だった。
どうして止めるんだと父上に言っているうちに、
叔父上はアリアンヌを無理やり押し込めるように馬車に乗せて、
あっという間に連れ去っていった。
「どうして……どうして止めたのですか」
「さっきも言っただろう。
アリアンヌはバルテレス伯爵家長女で、ジョスランの娘だ。
それは変えることのできない事実だ」
「だけど、これまでアリアンヌのことを放っておいたのに、
今さら父親だと言われても納得できますか!」
「納得できるわけないだろう。
だが、俺やお前が納得しなくても、それが事実なんだ」
頭ではわかっている。アリアンヌは預かっていただけで、
正式にデュノア公爵家に迎え入れたわけではない。
いつ伯爵家に戻されるかわからない、アリアンヌだってそう思っていたはずだ。
だけど、こんな急に叔父上が連れて帰るなんて思っていなかった。
しかも第二王子ラザールの婚約者になっただなんて、何が起きているんだ。
「これから陛下のところに行って確認してくるが、
おそらく第二王子の婚約者になったのは本当だろう」
「俺とアリアンヌは精霊に誓ったんです。
学園に入学する前に婚約しようって。ほら、精霊の祝福も受けました!
ラザールとの婚約の話は無かったことにできませんか」
この国に住む者なら精霊の祝福がどれだけ素晴らしいかわかるはず。
それを無理に引き離して違う者と婚約させるだなんて、ありえない。
きっとすぐにアリアンヌは俺のところに戻ってくる。
そう思って父上に訴えたのに、首を横に振られる。
「……無理だな」
「どうしてですか!第二王子だなんて言っても形だけの」
「そのせいだよ」
第二王子ラザールの母は第二妃だが、元は子爵家の出だった。
生家のファロ子爵家は大きな商家で、十年ほど前に大雨が続いた時に、
被害があった他の領地に金や物資、人を貸し出したという。
ファロ家のおかげで領民を死なせずにすんだ領地は両手で余るほどだった。
先代国王はそのことを讃え、報奨を出そうとファロ子爵に言った。
自分ができることなら、なんでも一つ願いを叶えようと。
子爵は嫁ぐことができなくなった長女の嫁ぎ先を紹介してほしいと願い出た。
二女が姉の婚約者を奪ってしまい、そのせいで婚約解消されたという。
奪い取ったのが姉妹だったために大ごとにはしなかったのだが、
噂が広まってしまい、妹に寝取られた姉と有名になってしまった。
その願いを聞いた先代国王はその娘に同情し、嫁ぎ先を紹介すると約束した。
ちょうど王太子妃が二人目を産んだ後、
これ以上子を望むのは難しいとわかった時期だった。
本来なら側妃にも選ばれない身分の子爵令嬢が、特例で王太子の第二妃となった。
それがカリーヌ妃で、一年後に産まれたのがラザールだ。
褒賞で側妃になったことも異例だが、
王子妃教育を受けていないものが側妃になったのも異例だった。
おそらく、もうすでに第一王子と第一王女が生まれていたこともあり、
予備としての王子が必要であっても、
王太子を選ぶ時に争いにならないように身分の高い側妃を娶るのは避けたのだ。
「ラザール王子ならそれほど権力もないから、
筆頭公爵家の嫡男である自分ならアリアンヌを取り返せると思ったのか?」
「それは……そうですが、なぜいけないのですか?」
「たとえ、それが事実であったとしても、
公爵家が王子を見下すようなことはしてはいけない。
デュノア公爵家は王家に忠誠を誓っている。
お前がラザール王子を見下すようなことをすれば、
この国の貴族たちはそれに倣うだろう。
そんな事が許されると思っているのか?」
「……許されません。ですが!」
「あきらめきれないのはわかっている。
だが、下手に動けば不利になるのはこちらだ。
アリアンヌのことをあきらめたわけではない。
今はまずいと言っているだけだ」
「いつなら奪い返せるのですか」
アリアンヌは泣いていた。
今までまともに会いに来ることもなかった父親。
伯爵家に帰って、どんな扱われ方をしているかもわからない。
「まずは何が起きているのか調べる。
バルテレス伯爵家とファロ伯爵家、そしてカリーヌ妃。
動くのはそれからだ。わかったな?」
「……わかりました」
今すぐにでも助けに行きたかった。
ぐっとこらえて、いろんな感情を飲み込む。
つらいのは自分じゃない。きっとアリアンヌは一人で泣いている。
だからこそ、もどかしくて、行き場のない怒りだけがつのっていく。
それから十日ほどして、アリアンヌの状況がわかった。
デュノア公爵家に仕える家令のジャンからの報告だった。
父上と母上はアリアンヌのことを調べるために不在だったため、
先に俺が聞くことにした。
ジャンからの報告では、アリアンヌは離れにいるという。
無理やり連れて帰った癖に、その日のうちに閉じ込めたと聞いて、
飛び出していきそうになったがジャンに止められた。
「アリアンヌ様は無事です。バルテレス伯爵家の家令は私の弟です。
閉じ込めているだけで、食事は三度出しているそうです。
それ以上のことは伯爵の目があって難しいようですが、命の危険はありません」
「どうしてアリアンヌを閉じ込めるんだ」
「これは弟から聞いた話から想像したことですが、
伯爵はアリアンヌ様と第二王子の婚約を解消させようとしているのかと」
「婚約を解消?あの婚約は叔父上が望んだことではないと?」
「婚約の申し出は第二妃とファロ伯爵からあったようです。
バルテレス伯爵家はファロ伯爵家に多額の借金があります。
それを帳消しにすると言われ、承諾するしかなかったと」
「借金か…バルテレス伯爵領も大雨の影響があったんだったな」
「影響どころか、バルテレス伯爵領は大雨の中心地でした。
あの大雨の原因はアリアンヌ様ですから」
「は?」
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