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12.リュカの出会い
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ミラージュ様に初めてお会いしたのは、王宮の中庭でのお茶会だった。
薔薇の花が見事なことで有名な中庭だったけれど、
俺の目は薔薇ではなくミラージュ様にくぎ付けになった。
ミラージュ様はまだ七歳だったが、
お友達を選ぶというのは名ばかりの、婚約者候補を選ぶ場だった。
トワイア王国の貴族として生まれたものは、
その髪色でだいたいの家格がわかると言われている。
高位貴族のほとんどが金が銀の髪色で産まれてくるから。
その中でもミラージュ様の髪は白金色で、
肌も透き通るような白さで、ただ瞳だけははっきりとした赤。
浮かび上がるような真っ赤な瞳に見つめられると、誰もが落ち着かなくなる。
まだ七歳だというのに大人のような発言をする知性、
それなのに、あどけなさを感じさせる小さなくちびる。
間違いなく一目惚れだった。
公爵三家の下の侯爵家の中でも家格は下のほうで、
二歳年上の俺は特に取り柄もなく婚約者候補になれたとしても下のほうだろう。
それでも、婚約者候補の中に入れるなら入りたい。
お茶会が終わるときにミラージュ様は宰相にこう答えていた。
「ここでは婚約者候補を決めないわ。
私が女王になるとは決まっていないだから。」
ミラージュ様がそういうのも無理はなかった。
二か月前に側妃様が王子を産んだのだ。
ミラージュ様と王子のどちらを跡継ぎにするか決めるのは陛下だ。
二人が大きくなるまで決めることは無いだろうと思う。
「幼いころから交流したほうがいいという宰相の話もわかるわ。
でも、私はまだ七歳なの。今は勉強に専念していたいのよ。
だから、婚約者候補になりたいと思う令息は騎士団に入団するように。
三年後、心と身体ともに強いと認められたものを一人だけ私の侍従にするわ。
私の婚約者候補筆頭として。それでいいかしら?」
「はっ。」
ミラージュ様は宰相の考えを完全に否定することはせず、
婚約者候補を受け入れるけれど、そばに置くのは一人だと明言したのだ。
これには高位貴族令息だけでなく、伯爵家以下の令息たちもざわめいた。
心身ともに強い、という条件だけならば自分たちでも選ばれるかもしれないと。
逆に高位貴族の令息たちのほとんどは入団しないことにしたようだ。
侍従としてそばに置かれなくても、身分で選ばれるだろうと思ったのだろう。
確かに王配候補を選ぶときには身分がというよりも、血筋が問題とされる。
公爵家と侯爵家の中から三、四人選ばれるのが普通だった。
もし女王が気に入ったものがいれば、そこに追加できる。
そういう意味では、
伯爵家以下はミラージュ様に気に入られなければ王配にはなれない。
伯爵家以下の令息たちが話し合っているのを横目に、
俺はすぐさま王宮騎士団へと向かった。
侯爵家の令息だからということもあるだろうが、騎士団長に会うことができ、
その場で騎士団の一番下から修行させてほしいとお願いした。
ミラージュ様は、心身ともに、とおっしゃった。
身体だけ強ければいいというものではない。
心も鍛えなければいけない。
高位貴族だから選ばれるかもしれないなどという甘い考えは捨てて、
ただのリュカとして修行しようと決めた。
話を聞いた騎士団長は意外にも笑って受けいれてくれ、
「じゃあ、三年間、お前はただのリュカとして騎士団で過ごせ。」
そう許可を出してくれた。
侯爵家には手紙だけ出して、帰ることなく騎士団の寮に入った。
ただの九歳の俺にできることは少なかった。
一つずつできるようになるまで繰り返し、失敗すれば怒鳴られ、
蹴とばされても食いついていった。
一年たつと仲間だと認められるようになり、二年たつと人よりも動けるようになり、
ミラージュ様が言っていた三年がたつ頃には、
騎士団の中でも認められるくらいの強さにはなっていた。
俺と同じように騎士団に入った令息たちは多かったが、
貴族令息として入団した子どもにさせられる修行は少ない。
下手にけがをさせたら責任を取らなければいけなくなるからだ。
させられるのは走り込みや、危険のない作業ばかり。
それに嫌気をさしたのか、一年もしないうちに半分もいなくなっていた。
薔薇の花が見事なことで有名な中庭だったけれど、
俺の目は薔薇ではなくミラージュ様にくぎ付けになった。
ミラージュ様はまだ七歳だったが、
お友達を選ぶというのは名ばかりの、婚約者候補を選ぶ場だった。
トワイア王国の貴族として生まれたものは、
その髪色でだいたいの家格がわかると言われている。
高位貴族のほとんどが金が銀の髪色で産まれてくるから。
その中でもミラージュ様の髪は白金色で、
肌も透き通るような白さで、ただ瞳だけははっきりとした赤。
浮かび上がるような真っ赤な瞳に見つめられると、誰もが落ち着かなくなる。
まだ七歳だというのに大人のような発言をする知性、
それなのに、あどけなさを感じさせる小さなくちびる。
間違いなく一目惚れだった。
公爵三家の下の侯爵家の中でも家格は下のほうで、
二歳年上の俺は特に取り柄もなく婚約者候補になれたとしても下のほうだろう。
それでも、婚約者候補の中に入れるなら入りたい。
お茶会が終わるときにミラージュ様は宰相にこう答えていた。
「ここでは婚約者候補を決めないわ。
私が女王になるとは決まっていないだから。」
ミラージュ様がそういうのも無理はなかった。
二か月前に側妃様が王子を産んだのだ。
ミラージュ様と王子のどちらを跡継ぎにするか決めるのは陛下だ。
二人が大きくなるまで決めることは無いだろうと思う。
「幼いころから交流したほうがいいという宰相の話もわかるわ。
でも、私はまだ七歳なの。今は勉強に専念していたいのよ。
だから、婚約者候補になりたいと思う令息は騎士団に入団するように。
三年後、心と身体ともに強いと認められたものを一人だけ私の侍従にするわ。
私の婚約者候補筆頭として。それでいいかしら?」
「はっ。」
ミラージュ様は宰相の考えを完全に否定することはせず、
婚約者候補を受け入れるけれど、そばに置くのは一人だと明言したのだ。
これには高位貴族令息だけでなく、伯爵家以下の令息たちもざわめいた。
心身ともに強い、という条件だけならば自分たちでも選ばれるかもしれないと。
逆に高位貴族の令息たちのほとんどは入団しないことにしたようだ。
侍従としてそばに置かれなくても、身分で選ばれるだろうと思ったのだろう。
確かに王配候補を選ぶときには身分がというよりも、血筋が問題とされる。
公爵家と侯爵家の中から三、四人選ばれるのが普通だった。
もし女王が気に入ったものがいれば、そこに追加できる。
そういう意味では、
伯爵家以下はミラージュ様に気に入られなければ王配にはなれない。
伯爵家以下の令息たちが話し合っているのを横目に、
俺はすぐさま王宮騎士団へと向かった。
侯爵家の令息だからということもあるだろうが、騎士団長に会うことができ、
その場で騎士団の一番下から修行させてほしいとお願いした。
ミラージュ様は、心身ともに、とおっしゃった。
身体だけ強ければいいというものではない。
心も鍛えなければいけない。
高位貴族だから選ばれるかもしれないなどという甘い考えは捨てて、
ただのリュカとして修行しようと決めた。
話を聞いた騎士団長は意外にも笑って受けいれてくれ、
「じゃあ、三年間、お前はただのリュカとして騎士団で過ごせ。」
そう許可を出してくれた。
侯爵家には手紙だけ出して、帰ることなく騎士団の寮に入った。
ただの九歳の俺にできることは少なかった。
一つずつできるようになるまで繰り返し、失敗すれば怒鳴られ、
蹴とばされても食いついていった。
一年たつと仲間だと認められるようになり、二年たつと人よりも動けるようになり、
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騎士団の中でも認められるくらいの強さにはなっていた。
俺と同じように騎士団に入った令息たちは多かったが、
貴族令息として入団した子どもにさせられる修行は少ない。
下手にけがをさせたら責任を取らなければいけなくなるからだ。
させられるのは走り込みや、危険のない作業ばかり。
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