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3.叶えられなかった想い
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ローズマリー・シンフォルが亡くなったと知らせを聞いて、ぎゅっと目を閉じた。
恐れていたことが現実になってしまったことに悲しみしかない。
卒業まであとわずかというこの時期、
ローズマリーは公爵家に住まいを移すことになっていた。
公爵夫人としての教育を受けるためだった。
その公爵家へと向かう馬車を大きな橋の近くで止めたと思ったら、
馬車で酔ってしまったから少し休憩したいと降りた。
降りた後、橋のほうに向かって歩いていたのは見ていたが、
侍女はローズマリーが川をのぞきたいのだと思っていた。
後ろから侍女と護衛もついていったが、少し離れていた。
ローズマリーは橋の上まで行くと、
そのまま川へ飛び降りてしまったという。
その川は深く流れが速いことで有名な大きな川だった。
橋の上からはかなりの高さもあり、とても助かるとは思えなかった。
馬車の中には遺書が残されていた。
これほど公爵家にふさわしくない自分がいつまでも婚約者でいてはいけない。
公爵家に行って、誰も味方がいない場所で生活する自信がない。
子爵家の私から婚約解消を申し出ることもできないので、こうするしかなかった。
この無礼は私の命をかけて償わせてください。
できるだけ子爵家にお咎めがないようにお願いします、そんなことが書かれていた。
知らせを聞いて急いで公爵家に向かうと、
玄関前にはどこかに行こうとするシャルルがいた。
顔色は真っ青で、どう見ても正常な判断ができているとは思えない。
服も乱れたままで出て行こうとしているのを使用人たちが必死で止めていた。
「ミラージュ!!」
「シャルル、どこに行く気なの?」
私を見つけたシャルルが走ってきて、すがるように抱き着かれた。
後ろで侍従が止めようと動いたのがわかったが、目でそれを止めた。
「ローズマリーが!助けに行かなきゃ…!!」
「助けにって、どこに行くのよ。」
「川に落ちたんだろ!?探しに行くんだ!!」
「…無理よ。落ちたのは昨日の昼よ。
丸一日かけて、騎士団も動員して探したのよ。
もう見つかりっこないわ。」
「…だって、だって、それじゃ…ローズマリーが死んじゃう…。」
ボロボロと泣き出したシャルルに、同情はするが助けることはできない。
「遺書は読んだの?」
「…。」
「今さら助けに行っても遅いの。
もっとずっと前に助けなきゃいけなかった。
ローズマリーを追い詰めたのはシャルル、あなたよ。」
「…ぅうぁぁあああああああ!!」
泣き崩れたシャルルに公爵家の使用人たちが駆け寄った。
狂ったように泣き叫んで暴れているシャルルに、
声をかけて正気に戻そうとしている。
「あなたたち使用人も同じよ。
誰もローズマリーを助けなかった。
あなたたちが将来の公爵夫人を殺したのよ。」
「「「…。」」」
使用人たちの顔には後悔というよりも困惑が見て取れる。
どうしてシャルルがこれほどまで動揺し、泣き叫んでいるのかが理解できていない。
まさか本当は大好きすぎて素直になれなかっただけだなんて思わないだろう。
…それに気が付いた時、この使用人たちは後悔するのだろうか。
「シャルルは部屋に戻して。
このことは公爵へとすぐに報告しなさい。
…シャルルを外に出してはダメよ。
万が一のことがないように、部屋の中でも必ず誰か付き添うように。」
「「「…はい。」」」
抱きかかえられるように中へと連れられて行くシャルルを見送り、
馬車へと戻ろうとする。
後ろについていた侍従が手を貸してくれる。
さらりと流れた銀髪の向こうに、心配そうな碧い目がのぞいている。
「もう帰ってよろしいのですか?」
「用事は済んだわ。
万が一のことがないようにと指示しに来ただけだから。」
「…お優しいことで。」
「帰るわよ。」
恐れていたことが現実になってしまったことに悲しみしかない。
卒業まであとわずかというこの時期、
ローズマリーは公爵家に住まいを移すことになっていた。
公爵夫人としての教育を受けるためだった。
その公爵家へと向かう馬車を大きな橋の近くで止めたと思ったら、
馬車で酔ってしまったから少し休憩したいと降りた。
降りた後、橋のほうに向かって歩いていたのは見ていたが、
侍女はローズマリーが川をのぞきたいのだと思っていた。
後ろから侍女と護衛もついていったが、少し離れていた。
ローズマリーは橋の上まで行くと、
そのまま川へ飛び降りてしまったという。
その川は深く流れが速いことで有名な大きな川だった。
橋の上からはかなりの高さもあり、とても助かるとは思えなかった。
馬車の中には遺書が残されていた。
これほど公爵家にふさわしくない自分がいつまでも婚約者でいてはいけない。
公爵家に行って、誰も味方がいない場所で生活する自信がない。
子爵家の私から婚約解消を申し出ることもできないので、こうするしかなかった。
この無礼は私の命をかけて償わせてください。
できるだけ子爵家にお咎めがないようにお願いします、そんなことが書かれていた。
知らせを聞いて急いで公爵家に向かうと、
玄関前にはどこかに行こうとするシャルルがいた。
顔色は真っ青で、どう見ても正常な判断ができているとは思えない。
服も乱れたままで出て行こうとしているのを使用人たちが必死で止めていた。
「ミラージュ!!」
「シャルル、どこに行く気なの?」
私を見つけたシャルルが走ってきて、すがるように抱き着かれた。
後ろで侍従が止めようと動いたのがわかったが、目でそれを止めた。
「ローズマリーが!助けに行かなきゃ…!!」
「助けにって、どこに行くのよ。」
「川に落ちたんだろ!?探しに行くんだ!!」
「…無理よ。落ちたのは昨日の昼よ。
丸一日かけて、騎士団も動員して探したのよ。
もう見つかりっこないわ。」
「…だって、だって、それじゃ…ローズマリーが死んじゃう…。」
ボロボロと泣き出したシャルルに、同情はするが助けることはできない。
「遺書は読んだの?」
「…。」
「今さら助けに行っても遅いの。
もっとずっと前に助けなきゃいけなかった。
ローズマリーを追い詰めたのはシャルル、あなたよ。」
「…ぅうぁぁあああああああ!!」
泣き崩れたシャルルに公爵家の使用人たちが駆け寄った。
狂ったように泣き叫んで暴れているシャルルに、
声をかけて正気に戻そうとしている。
「あなたたち使用人も同じよ。
誰もローズマリーを助けなかった。
あなたたちが将来の公爵夫人を殺したのよ。」
「「「…。」」」
使用人たちの顔には後悔というよりも困惑が見て取れる。
どうしてシャルルがこれほどまで動揺し、泣き叫んでいるのかが理解できていない。
まさか本当は大好きすぎて素直になれなかっただけだなんて思わないだろう。
…それに気が付いた時、この使用人たちは後悔するのだろうか。
「シャルルは部屋に戻して。
このことは公爵へとすぐに報告しなさい。
…シャルルを外に出してはダメよ。
万が一のことがないように、部屋の中でも必ず誰か付き添うように。」
「「「…はい。」」」
抱きかかえられるように中へと連れられて行くシャルルを見送り、
馬車へと戻ろうとする。
後ろについていた侍従が手を貸してくれる。
さらりと流れた銀髪の向こうに、心配そうな碧い目がのぞいている。
「もう帰ってよろしいのですか?」
「用事は済んだわ。
万が一のことがないようにと指示しに来ただけだから。」
「…お優しいことで。」
「帰るわよ。」
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