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――…………
――……
「はぁ……はぁっ……!」
暫くして、片桐は異常なまでの高揚感に襲われた。
全身の血液がドクドクと強く脈打ち、先程までの気だるさが嘘のように身体が軽くなった。
「ふふ…… はははは!」
まるで自分が、全知全能の神になったような感覚……。
今はもう、何にも負ける気がしなかった。
何も怖いものなんてなかった。
執着していた神崎遊星のことも、なんだかもうどうでもいい。
とにかく自分が強くなった気がして、気持ち良かった。
片桐は興奮状態のまま倉庫から飛び出し、何処かへ走った。
別に行くあてなどなかった。
ただこんなに元気なのだからじっとしているのは勿体ないと思って、それだけの気持ちで片桐は走った。
何時間走っても疲れなかった。
今の自分には物凄いパワーがあるのだと、片桐は疑わない。
今ならなんでも出来る。
今なら全てが上手く行く。
――今の俺になら遊星だって振り向いてくれるだろうが、
――急に遊星がちっぽけな存在に感じた。
あんなに大好きだったのに、なんだか今はどうでもいい。
それよりも、この快感を、全能感を、いつまでもずっと味わっていたい。
そう思った片桐は、ひたすら走り続けた。
――…………
――……
走り続けたら、海に着いた。
何時間くらい走り、何処まで来たのか自分でもよく分からない。
「あ……ひゅ、はあっ、かはッ…………っ」
海に着いた時、片桐は一気に体調が悪くなった。
どっと疲れがやって来て、立って居られなくなった。
頭がクラクラして、吐き気がした。倦怠感が凄かった。
「ぁ…………」
――そして、片桐は恐ろしいものを目にする。
「維弦……」
「お、お母さん……?」
片桐の、母だった。
記憶の中の若いままの母の姿が片桐の脳に映る。
「私、維弦を許せないの」
「お、お、おか……っ」
「アンタのこと恨んでる」
「う、嘘だ……」
「アンタのことが憎いの」
「あ……あ……
嘘、だ、だって、遊星が言ってくれたんだ…… お母さんは維弦のこと恨んでないよって」
そう言ってくれたから…… 遊星が嘘つくはずない……」
「嘘だよ」
「あ……?」
片桐の前に今度は神崎遊星が現れる。
「維弦なんか大嫌い」
「え……あ…………」
「ずっとウザイって思ってた」
「あ、あ、あ、や、やだ……やめっ…………」
「俺は向井が好きだ、だからお前なんか嫌いだ」
「あ……ッ、あ、あ、あぅ、あううっ……あああぁあぁ…………」
「ああああああああああああああぁあああぁあぁあぁぁああぁあぁぁぁあぁ!!!!!!!!!!!」
――それはただの幻覚であったが、壊れた片桐にはその区別はつかなかった。
片桐は怯え、逃げるように走り、海へ入る。
「はっ、はあ……ッ」
服を着たまま、足を縺れさせながら、海の深い方へと進んで行く。
「がふっ、がえ゛ッ」
波が顔にかかり、口に海水が入っても片桐は進んだ。
やがて長身の片桐でも足が付かない場所まで身体がさらわれ、
片桐の全身は海へと沈んでいった。
全身を海に飲み込まれた片桐は、当然ながら息ができなくなった。
自分の意思に反して、息をする為に口を開き酸素を吸い込もうとする。
しかし口へ入って来るのは海水だけで……
肺の中まで水でいっぱいになり、片桐はもがき苦しんだ。
必死に手足をバタつかせ、助けを求めても、誰も助けてはくれなかった。
やがて完全に意識が途切れ、身体も動かなくなった。
――こうして、片桐維弦という人物は、死んだ。
誰にも見られずひっそりと、一人で狂い、もがき、死んだのだ。
――……
「はぁ……はぁっ……!」
暫くして、片桐は異常なまでの高揚感に襲われた。
全身の血液がドクドクと強く脈打ち、先程までの気だるさが嘘のように身体が軽くなった。
「ふふ…… はははは!」
まるで自分が、全知全能の神になったような感覚……。
今はもう、何にも負ける気がしなかった。
何も怖いものなんてなかった。
執着していた神崎遊星のことも、なんだかもうどうでもいい。
とにかく自分が強くなった気がして、気持ち良かった。
片桐は興奮状態のまま倉庫から飛び出し、何処かへ走った。
別に行くあてなどなかった。
ただこんなに元気なのだからじっとしているのは勿体ないと思って、それだけの気持ちで片桐は走った。
何時間走っても疲れなかった。
今の自分には物凄いパワーがあるのだと、片桐は疑わない。
今ならなんでも出来る。
今なら全てが上手く行く。
――今の俺になら遊星だって振り向いてくれるだろうが、
――急に遊星がちっぽけな存在に感じた。
あんなに大好きだったのに、なんだか今はどうでもいい。
それよりも、この快感を、全能感を、いつまでもずっと味わっていたい。
そう思った片桐は、ひたすら走り続けた。
――…………
――……
走り続けたら、海に着いた。
何時間くらい走り、何処まで来たのか自分でもよく分からない。
「あ……ひゅ、はあっ、かはッ…………っ」
海に着いた時、片桐は一気に体調が悪くなった。
どっと疲れがやって来て、立って居られなくなった。
頭がクラクラして、吐き気がした。倦怠感が凄かった。
「ぁ…………」
――そして、片桐は恐ろしいものを目にする。
「維弦……」
「お、お母さん……?」
片桐の、母だった。
記憶の中の若いままの母の姿が片桐の脳に映る。
「私、維弦を許せないの」
「お、お、おか……っ」
「アンタのこと恨んでる」
「う、嘘だ……」
「アンタのことが憎いの」
「あ……あ……
嘘、だ、だって、遊星が言ってくれたんだ…… お母さんは維弦のこと恨んでないよって」
そう言ってくれたから…… 遊星が嘘つくはずない……」
「嘘だよ」
「あ……?」
片桐の前に今度は神崎遊星が現れる。
「維弦なんか大嫌い」
「え……あ…………」
「ずっとウザイって思ってた」
「あ、あ、あ、や、やだ……やめっ…………」
「俺は向井が好きだ、だからお前なんか嫌いだ」
「あ……ッ、あ、あ、あぅ、あううっ……あああぁあぁ…………」
「ああああああああああああああぁあああぁあぁあぁぁああぁあぁぁぁあぁ!!!!!!!!!!!」
――それはただの幻覚であったが、壊れた片桐にはその区別はつかなかった。
片桐は怯え、逃げるように走り、海へ入る。
「はっ、はあ……ッ」
服を着たまま、足を縺れさせながら、海の深い方へと進んで行く。
「がふっ、がえ゛ッ」
波が顔にかかり、口に海水が入っても片桐は進んだ。
やがて長身の片桐でも足が付かない場所まで身体がさらわれ、
片桐の全身は海へと沈んでいった。
全身を海に飲み込まれた片桐は、当然ながら息ができなくなった。
自分の意思に反して、息をする為に口を開き酸素を吸い込もうとする。
しかし口へ入って来るのは海水だけで……
肺の中まで水でいっぱいになり、片桐はもがき苦しんだ。
必死に手足をバタつかせ、助けを求めても、誰も助けてはくれなかった。
やがて完全に意識が途切れ、身体も動かなくなった。
――こうして、片桐維弦という人物は、死んだ。
誰にも見られずひっそりと、一人で狂い、もがき、死んだのだ。
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