狂い狂って狂わせて

粒豆

文字の大きさ
上 下
1 / 13

1

しおりを挟む
――5月10日 自宅
へんてこな着信音が、暗い部屋に響き渡る。
憂欝な気持ちで携帯を手に取り、電話に出る。

「もしもし」

『くーちゃん?』

聞きなれた幼馴染みの声だった。
男にしては高いけど、決して女性そのものではない絶妙な声。
電話越しのその声が、震えているのが分かった。

『あのね、オレね……』

「…………」

『今から……』

『…………死ぬ』

「…………すぐ行くから、ちょっと待ってろ」

『…………今、家』

「分かった」



俺の家からあいつの家まで、ほんの数分の距離を、全力で走った。
時刻は深夜0時。
当然ながら外には俺以外、人は見当たらない。
インターフォンを鳴らさず、いきなり玄関を開けて、
一目散に風呂場へ駆けつける。

「浬!」

「くーちゃん……」

――音無 浬(おとなし かいり)。
俺の家の近所に住む、中学三年生の少年だ。
こいつの事は、小学校へ入る前から知っている。
いわゆる幼馴染みというヤツだが、年が離れている為か、友達というよりは弟のように思っている。
俺の事(本名は空也(くうや)だ)をくーちゃんなんて呼んできて、可愛い奴なのだが、少々問題がある。


「大丈夫か」

「あ、うん。くーちゃんが来てくれたから、大丈夫」

「大丈夫じゃないだろ」


――浬は、とにかく狂っている。
浬の手首からは、生々しい傷口から鮮血が溢れだしていた。
脂肪が見えるほどぱっくりと割れた、綺麗な白い肌。
浴槽に溜められたお湯は、ほんのりと赤く染まっている。

「ほら」

俺は浬の腕を掴んで、シャワーを捻る。
冷たい水を乱暴にぶっ掛けて、血を洗い流した。

「いたっ……痛いよ……」

「病院行ったほうがいいかもしれねぇな」

「別に、平気。大袈裟だよ」

「血が止まらん」

「そうだね」

吐きかけた溜め息を、ぐっと飲み込んで押し殺す。
浬は日常的にリストカットを続けている。
最早習慣と化したこの行為には、何か意味があるのか。

浬は、親の居ない夜には必ずと言っていいほど毎回「今から死ぬ」と俺に電話をしてくる。
死ぬ、というのが、本気でない事は分かっている。
こいつは、ただ寂しいだけなのだ。
死にたいわけじゃない。
そう電話して、手首を切って待っていれば五分もしないうちに俺が来る。
俺が来て、心配して、甘やかして貰える。
それら全てを分かっていて来てしまう俺は、駄目な大人なのだろうか。
だけど正解が分からない。
「死ぬ」と言ったこいつをほったらかして、何もしないのが正しいとは思えない。
突き離す事も、叱る事も、正しいと思えない。
それなら俺は、こいつの側に居て、我儘を聞いてやりたいと思うんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

水泳部合宿

RIKUTO
BL
とある田舎の高校にかよう目立たない男子高校生は、快活な水泳部員に半ば強引に合宿に参加する。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...