ネオンサインとサイコパシー

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「お前、本当にあの時の恩返しってだけで俺を助けたの?」

「ふふ、どうかなー?
 ボクは気まぐれだからね。キミみたいなダメ人間を飼うのも楽しいかなって思ったのさ」

「変なやつ…… ほんとに変だよ……」

「犬や猫もいいけれど、人間を飼うのも楽しそうじゃない?
 実際キミがウチに来てくれてボクは楽しいよ」

「でもさ、やっぱりこんなの不健全だよな…… 異常だよ。
 結婚できるわけじゃないから俺は主夫にもなれねーし。
 そもそも恋人同士でも愛人でもなければ、血の繋がりも縁もないのに、
 それなのに借金代わりに払って貰って生活の面倒見て貰ってさ。
 これじゃほんとにペットだよ…… 俺人間なのに……
 シムカって人の言う通り、俺達めちゃくちゃ気持ち悪いんじゃないかな……」

「…………」

「なあ、恋、俺やっぱり………………って、んぅ!?」



一瞬、何が起こったのか分からなかった。
少し経ってから、キスされたのだと気付いた。
唇に唇を押しつけるだけの、軽いキス。
そのキスは深くなることはなく、すぐに恋は俺から離れた。



「な、なにすんだああああああ!?」

「ん? なんとなくそういう雰囲気かなって」

「おえええええっ! 気色悪ぃ!!」

「酷いリアクションだな……
 でも、ほら、見てごらんよ」

「え……?」

「誰もボクらのコトなんか気にしてないだろ?」


男同士で街中でキスをしたと言うのに、俺達を気に止める人は誰も居なかった。
道行く人は、好き勝手に騒いだり、早足で歩いたりして、皆が皆、通行人としての役目を果たしている。
そして俺も、この街を構成する一般人の中のひとりでしかなくって。
東京の雑踏の一部でしかなくって。
あーあ、俺はなんてちっっぽけなんだろうか。
なんだか全てがどうでもよくなってきた。


「ボクらの関係が一般論で見たら気持ち悪かろうと、ボクらがソレでいいならいいんじゃないかな?
 勿論、キミがボクに身体を渡したほうが気が楽なのならボクはキミとセックスをしてもいいよ。
 愛人やセフレという関係の記号が欲しいのなら、そのほうが落ち着くのなら、そうしよう」

「昼間にも言ったけどそれはいいです! 結構です!」

「ふーん、そう。
 じゃあたまにさ、今朝みたいにボクの『遊び』に付き合ってよ」

「え゛……あの血、混ぜるやつ……?」

「うん、そう。僕へのお返しはそれでいいよ」


……やっぱコイツ、キチガイだ。



「…………ねえ、キミは、死にたい?」

「…………分からない。何度も死のうって思ったよ。
 このまま生きてても仕方ないって。音楽で生きていけないなら…… 才能がないなら……
 死んだほうがマシだって思った。でも死ぬの怖いよ。
 だからと言って生きてるのも嫌でさ、はは、我儘だな、俺……」

「じゃあもしさ、キミが本気で死ぬコトを決めた時にはさ…………」






「…………ボクにキミを殺させておくれよ」

「………………いいよ」

「アリガトウ。その頃にはきっとボクも生きるコトに飽きてるだろうから、
 そしたら一緒に死のうよ。腹を引き裂いて割ってキミとボクの腸をリボン結びにするのさ。
 なんだか赤い糸で結ばれてるみたいでロマンチックだろ? きっとキモチイイよ。
 ボクらの間に運命の赤い糸はないのだろうけど。
 そうして血も肉も内臓もどちらのものか分からなくなるまでぐちゃぐちゃになって交わって溶けてひとつになろう」

「……うん、いいよ」

「じゃあそれまでボクと一緒に生きてくれ。
 ボクもソレを楽しみに、頑張ってこのウルサイ街で雑踏を構成する一人として生きてゆくから」

「ああ」





「約束だよ? ゆーびきりげんまーん♪」

「……約束だ」


差し出された小指に、自分の指を絡ませる。
恋を照らすネオンの光は、俺には眩しすぎた。
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