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――恋と再会したのも、この派手なネオンカラーに染まった歓楽街だった。
「久しぶりだね。宮口愛貴クン。ボクのコト覚えてる?
高校時代に一回だけ同じクラスになったコトがある、高見恋だよー」
「……高見?」
「高校生の時、キミにお弁当を貰った恩返しをしに来たんだ。
キミの借金、ボクが代わりに払ってあげる。
それにキミは今、住むところもないだろ? ウチにおいで」
「意味が分からん」
「? じゃ、もいちど言うよ?」
「キミの借金代わりに払ってあげるから、ボクのペットになって」
ビビッッドカラーのライトをバックに語る恋が、神様みたいに思えた。
ネオンの光に照らされた恋を見て、ロマンチックだと思った。
恋には埼玉の田舎より、この騒がしい夜の都会が似合っていた。
冷静に考えたら、他にいくらでも方法はあったのかもしれない。
自己破産だとか、生活保護だとか、身体を売るだとか、実家に泣きついてみるだとか……
だけど俺は、恋に『飼われる』という選択をしてしまった。
それは、きっと、この眠らない街の魔力のせい。
ネオンの光は、思考を鈍らせ、冷静な判断が出来なくなる。
俺を狂わせる、夜の街……。
それはまるでお酒のようでもあり、麻薬のようでもあり、
――そして、恋のようでもあった。
でも、いつまでも恋に飼われてるわけにはいかない。
だって俺は人間なんだから。
犬や猫じゃない、大人の男だ。
いくら恋が俺の事を猫みたいに思っていても、俺は本物の猫にはなれない。
どうあがいても、人間である事に変わりはないんだ。
だから一生恋のペットでいるわけには行かない。
かと言って、ここまで落ちぶれた俺が今更まともな仕事に就ける気もしなかった。
大学を中退してそれからずっとバイトもしていなかった俺を、雇ってくれる会社があるだろうか。
俺が自立するなら、シムカさんから仕事を紹介して貰うしかないんじゃないか?
この人が紹介する仕事なんて、きっとろくでもないものなんだろうけど。
だけど普通に働く能力がない人間は、『そういう仕事』をやらなければいけないんじゃないか?
ああ、頭がくらくらする。
思考が上手く働かないのは、酒のせいかな。
また冷静な判断が出来なくなってるかもしれない。
……誰か助けて。
「ね、仕事欲しいでしょ?
レンの会社より稼ぎ良いよー?」
「は、話だけ、聞いても、いいですか……?」
「もちろん」
「あ……」
シムカという男に、顎をぐいと持ちあげられる。
顔を動かされ、無理矢理視線を合わせられる。
「うん、君なら割と稼げると思うよ」
「はあ……」
じろじろと顔面を観察される。
舐めまわす様に見られて、不快なのと同時に恐ろしかった。
このシムカと名乗る人は、怖い。恐ろしい。
なよなよして見えるけれど、本当に裏社会の人なんだ。
俺とは住む世界の違う人。
本来ならば交わることのない、俺と、この人……。
そんな人とも簡単に出会ってしまうから、だからこの街は恐ろしいんだ。
「ちょっと。ソレ、ボクのですよ。触らないでください」
いつの間にか戻って来た恋に、肩を引っ張られる。
強制的にシムカさんとの距離を離された。
「あはは、ごめんごめん。
レンは本当にその子がお気に入りなんだね」
「はい。超お気に入りです。
なのでシムカさんのところでは働かせられません。ボクのなので。ゴメンナサイ」
「……ふーん。愛貴くんはそれでいいの?」
「お、俺は……」
「キミに選択権なんてないよ。
キミはボクの所有物なんだから、キミのコトはボクが決める。
シムカさんと一緒に働くなんて絶対ダメだからね」
「ふふ、気持ち悪いね。
本当に気持ち悪い関係だ。見てると吐きそうになる。
正常な愛でもなければ友情でもないし、君たちの間にあるものは一体なんなんだろうね。
レンは僕と同じで他人に情を持てない人間だと思っていたけれど、
そこまで執着できる人が出来て良かったね。ま、レンが飽きたらその子僕にちょうだいね」
「飽きません。さ、もう帰るよ」
「あ、ああ……」
「まったねー」
ひらひらと手を振るシムカさんをカウンター席に置いて、俺達は店を出た。
「久しぶりだね。宮口愛貴クン。ボクのコト覚えてる?
高校時代に一回だけ同じクラスになったコトがある、高見恋だよー」
「……高見?」
「高校生の時、キミにお弁当を貰った恩返しをしに来たんだ。
キミの借金、ボクが代わりに払ってあげる。
それにキミは今、住むところもないだろ? ウチにおいで」
「意味が分からん」
「? じゃ、もいちど言うよ?」
「キミの借金代わりに払ってあげるから、ボクのペットになって」
ビビッッドカラーのライトをバックに語る恋が、神様みたいに思えた。
ネオンの光に照らされた恋を見て、ロマンチックだと思った。
恋には埼玉の田舎より、この騒がしい夜の都会が似合っていた。
冷静に考えたら、他にいくらでも方法はあったのかもしれない。
自己破産だとか、生活保護だとか、身体を売るだとか、実家に泣きついてみるだとか……
だけど俺は、恋に『飼われる』という選択をしてしまった。
それは、きっと、この眠らない街の魔力のせい。
ネオンの光は、思考を鈍らせ、冷静な判断が出来なくなる。
俺を狂わせる、夜の街……。
それはまるでお酒のようでもあり、麻薬のようでもあり、
――そして、恋のようでもあった。
でも、いつまでも恋に飼われてるわけにはいかない。
だって俺は人間なんだから。
犬や猫じゃない、大人の男だ。
いくら恋が俺の事を猫みたいに思っていても、俺は本物の猫にはなれない。
どうあがいても、人間である事に変わりはないんだ。
だから一生恋のペットでいるわけには行かない。
かと言って、ここまで落ちぶれた俺が今更まともな仕事に就ける気もしなかった。
大学を中退してそれからずっとバイトもしていなかった俺を、雇ってくれる会社があるだろうか。
俺が自立するなら、シムカさんから仕事を紹介して貰うしかないんじゃないか?
この人が紹介する仕事なんて、きっとろくでもないものなんだろうけど。
だけど普通に働く能力がない人間は、『そういう仕事』をやらなければいけないんじゃないか?
ああ、頭がくらくらする。
思考が上手く働かないのは、酒のせいかな。
また冷静な判断が出来なくなってるかもしれない。
……誰か助けて。
「ね、仕事欲しいでしょ?
レンの会社より稼ぎ良いよー?」
「は、話だけ、聞いても、いいですか……?」
「もちろん」
「あ……」
シムカという男に、顎をぐいと持ちあげられる。
顔を動かされ、無理矢理視線を合わせられる。
「うん、君なら割と稼げると思うよ」
「はあ……」
じろじろと顔面を観察される。
舐めまわす様に見られて、不快なのと同時に恐ろしかった。
このシムカと名乗る人は、怖い。恐ろしい。
なよなよして見えるけれど、本当に裏社会の人なんだ。
俺とは住む世界の違う人。
本来ならば交わることのない、俺と、この人……。
そんな人とも簡単に出会ってしまうから、だからこの街は恐ろしいんだ。
「ちょっと。ソレ、ボクのですよ。触らないでください」
いつの間にか戻って来た恋に、肩を引っ張られる。
強制的にシムカさんとの距離を離された。
「あはは、ごめんごめん。
レンは本当にその子がお気に入りなんだね」
「はい。超お気に入りです。
なのでシムカさんのところでは働かせられません。ボクのなので。ゴメンナサイ」
「……ふーん。愛貴くんはそれでいいの?」
「お、俺は……」
「キミに選択権なんてないよ。
キミはボクの所有物なんだから、キミのコトはボクが決める。
シムカさんと一緒に働くなんて絶対ダメだからね」
「ふふ、気持ち悪いね。
本当に気持ち悪い関係だ。見てると吐きそうになる。
正常な愛でもなければ友情でもないし、君たちの間にあるものは一体なんなんだろうね。
レンは僕と同じで他人に情を持てない人間だと思っていたけれど、
そこまで執着できる人が出来て良かったね。ま、レンが飽きたらその子僕にちょうだいね」
「飽きません。さ、もう帰るよ」
「あ、ああ……」
「まったねー」
ひらひらと手を振るシムカさんをカウンター席に置いて、俺達は店を出た。
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