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――恋は、俺に性的なものを一切求めなかった。
恋が同性愛者で、俺を愛人にしたいのかと思ったこともあった。
それだったら俺を『飼いたい』なんていう意味不明な提案にも少しは納得できるから。
だけどそれは違ったようで、恋が俺にそういう意味で手を出す事は一向になかった。
「恋って恋人居るのか?」
「居ないよ。ボクあまり性欲ないんだ。
女の人に興味がないしセックスとかオナニーとか気持ちいいと思わない。
今の会社に入る前は身体売ったりして生活してたから男の人とセックスしたコトもあるけど、
別に楽しくも気持ち良くもなかったなー。
セックスより自分の腕切ったほうがずっとずっときもちぃよ。
だからキミのコトは好きだけれどキミに性欲はこれっぽっちも抱いてないよ。
ボクはノンセクシュアルやアセクシュアルなのかもしれないね。
ボクのキミに対する思いはきっと恋愛感情でもないしね。
でも別に性嫌悪ではないからキミがボクとセックスがしたいと言うなら相手になるよ」
「いやいい! いい! したくないから!
俺だってお前に感謝はしてるけど恋愛的に好きとかじゃないんだ」
「ふーん、そう」
――でも、じゃあ、俺たちの関係ってなんなんだろう。
分かりやすく恋人関係にでもなれたらいいのにと思わなくもない。
俺が養われている立ち場である以上、普通の友達でもないし、なんなんだ俺達は。
「ボクね、ボーイズラブ漫画を読むんだ」
「は?」
「飲み屋の店員の女の子にオススメされて読んでみたんだ。
そしたら結構楽しくてね。ボクは自分のセクシュアリティーがよく分からないのだけれど、
例えばBL漫画でよくあるノンケ受けとか、
異性愛者でありながらある特定の男を好きになってしまったらその人のセクシュアリティーってどうなるんだろうね?」
「知らんよ。なんだいきなり」
「ボクは別にセクシュアリティーってわざわざ分類しなくてもいいって思うんだ。
実際LGBTの中に、Q…… クエスチョニングっていうのがあってね。
クエスチョニングは、自分の性のあり方をハッキリと決められなかったり、
迷ったりしている人、または決めたくない、決めないとしている人のことを言うんだってさ。
ボクもどちらかというとその考え方がしっくり来るんだよね。
勿論はっきりこうと決まっているのならそれでいいのだろうし、
決めておかないとすっきりしないって人もいるのだろうけれど」
「そ、そうだな」
恋は時折早口で饒舌になる。
ぺらぺら喋って止まらなくなる。
自分の意見を述べる時とか、興奮してる時とかにそうなるみたいだ。
「職業柄結構夜の街を歩く事が多くて、セクシュアルマイノリティーの人の話とかも聞く機会が多いんだよねー。
ボクは恋愛感情と友情の区別が付いてないし、そもそも猫が好きという気持ちとキミが好きという気持ちの区別すら出来てないんだ。
『恋』なんていう名前なのに、恋を知らないなんておかしいよね。
キミも名前に『愛』が付くけれど、キミも愛なんてものは分からないでしょ」
「お、俺は……」
「キミは今までたくさんの女の人に自分の欲望をぶつけて来ただろうけど、
本気で人を愛したコトはないだろ?」
「し、失礼だなっ、俺だって恋愛くらい……か、彼女居たことあるし……」
思い返せば、恋の言う通り俺は人を本気で愛した事なんかなかったかもしれない。
好きなタイプの女の子と軽い気持ちで付き合ったり、セックスをしたり……
そんな事を繰り返していたけど、それは決してまともな恋愛なんかじゃなかった。
恋は猫が好きな気持ちと俺を好きな気持ちの区別が付かないと言ったが、
俺は性欲と恋愛感情の違いが分からない。
俺の中にはいつだって性欲があって、欲望抜きで女を好きになったことは一度もなかったように思える。
俺は今まで、性欲を伴う『好き』が恋愛感情なのだと思っていた。
でも、さっき恋が言ったノンセクシュアル……。
非性愛の定義は『他者に対しての恋愛感情は有り得たとしても、性的欲求を持たないこと』だ。
それはつまり、性欲を伴わない『恋愛感情』もあるということで。
それならば、恋の言う通り、他の『情』と『恋愛感情』の明確な違いも分からなくなる。
歓楽街に通っていた時、俺も様々なセクシュアリティーの人達と出会ってきたけど……。
きっと、哲学と同じで、答えのないものなんだろうな。
考え出したらキリがない。
「あ、そうだ。今日ね、仕事は休みなんだけど、夜に出掛けるんだ」
「ああ、うん、分かった」
恋が夜に出掛けるのは珍しくない。頻繁に夜に出掛けて居る。
夜中に何をしているのかは知らないが、詮索はしないでいた。
「キミも来るんだ」
「え?」
「上司と飲む約束してるんだけど、キミに会ってみたいってその人が」
「え、いや……お前の上司ってヤクザなんじゃ……」
「まあ似たようなものだね」
「怖ぇよ! 会いたくないって!
しかもお前の上司ってことは俺が金借りてた会社の人だろ!?
俺、殺されるんじゃ……!?」
「キミは馬鹿だなぁ。
キミなんか殺したってメリットがないよ。
殺人なんてデメリットのほうが大きいんだから、そんな簡単に一般人を殺したりしないさ」
「そ、そうなのか……
でも普通に気まずいし怖いもんは怖ぇよ! 俺は行かないっ!」
「だめ。来るの。来てくれないと怒られちゃう。
どうしても来ないと言うならキミを殺してボクも死ぬ」
「ひいいっ、わ、分かった! 分かったから殺さないで!!」
恋が同性愛者で、俺を愛人にしたいのかと思ったこともあった。
それだったら俺を『飼いたい』なんていう意味不明な提案にも少しは納得できるから。
だけどそれは違ったようで、恋が俺にそういう意味で手を出す事は一向になかった。
「恋って恋人居るのか?」
「居ないよ。ボクあまり性欲ないんだ。
女の人に興味がないしセックスとかオナニーとか気持ちいいと思わない。
今の会社に入る前は身体売ったりして生活してたから男の人とセックスしたコトもあるけど、
別に楽しくも気持ち良くもなかったなー。
セックスより自分の腕切ったほうがずっとずっときもちぃよ。
だからキミのコトは好きだけれどキミに性欲はこれっぽっちも抱いてないよ。
ボクはノンセクシュアルやアセクシュアルなのかもしれないね。
ボクのキミに対する思いはきっと恋愛感情でもないしね。
でも別に性嫌悪ではないからキミがボクとセックスがしたいと言うなら相手になるよ」
「いやいい! いい! したくないから!
俺だってお前に感謝はしてるけど恋愛的に好きとかじゃないんだ」
「ふーん、そう」
――でも、じゃあ、俺たちの関係ってなんなんだろう。
分かりやすく恋人関係にでもなれたらいいのにと思わなくもない。
俺が養われている立ち場である以上、普通の友達でもないし、なんなんだ俺達は。
「ボクね、ボーイズラブ漫画を読むんだ」
「は?」
「飲み屋の店員の女の子にオススメされて読んでみたんだ。
そしたら結構楽しくてね。ボクは自分のセクシュアリティーがよく分からないのだけれど、
例えばBL漫画でよくあるノンケ受けとか、
異性愛者でありながらある特定の男を好きになってしまったらその人のセクシュアリティーってどうなるんだろうね?」
「知らんよ。なんだいきなり」
「ボクは別にセクシュアリティーってわざわざ分類しなくてもいいって思うんだ。
実際LGBTの中に、Q…… クエスチョニングっていうのがあってね。
クエスチョニングは、自分の性のあり方をハッキリと決められなかったり、
迷ったりしている人、または決めたくない、決めないとしている人のことを言うんだってさ。
ボクもどちらかというとその考え方がしっくり来るんだよね。
勿論はっきりこうと決まっているのならそれでいいのだろうし、
決めておかないとすっきりしないって人もいるのだろうけれど」
「そ、そうだな」
恋は時折早口で饒舌になる。
ぺらぺら喋って止まらなくなる。
自分の意見を述べる時とか、興奮してる時とかにそうなるみたいだ。
「職業柄結構夜の街を歩く事が多くて、セクシュアルマイノリティーの人の話とかも聞く機会が多いんだよねー。
ボクは恋愛感情と友情の区別が付いてないし、そもそも猫が好きという気持ちとキミが好きという気持ちの区別すら出来てないんだ。
『恋』なんていう名前なのに、恋を知らないなんておかしいよね。
キミも名前に『愛』が付くけれど、キミも愛なんてものは分からないでしょ」
「お、俺は……」
「キミは今までたくさんの女の人に自分の欲望をぶつけて来ただろうけど、
本気で人を愛したコトはないだろ?」
「し、失礼だなっ、俺だって恋愛くらい……か、彼女居たことあるし……」
思い返せば、恋の言う通り俺は人を本気で愛した事なんかなかったかもしれない。
好きなタイプの女の子と軽い気持ちで付き合ったり、セックスをしたり……
そんな事を繰り返していたけど、それは決してまともな恋愛なんかじゃなかった。
恋は猫が好きな気持ちと俺を好きな気持ちの区別が付かないと言ったが、
俺は性欲と恋愛感情の違いが分からない。
俺の中にはいつだって性欲があって、欲望抜きで女を好きになったことは一度もなかったように思える。
俺は今まで、性欲を伴う『好き』が恋愛感情なのだと思っていた。
でも、さっき恋が言ったノンセクシュアル……。
非性愛の定義は『他者に対しての恋愛感情は有り得たとしても、性的欲求を持たないこと』だ。
それはつまり、性欲を伴わない『恋愛感情』もあるということで。
それならば、恋の言う通り、他の『情』と『恋愛感情』の明確な違いも分からなくなる。
歓楽街に通っていた時、俺も様々なセクシュアリティーの人達と出会ってきたけど……。
きっと、哲学と同じで、答えのないものなんだろうな。
考え出したらキリがない。
「あ、そうだ。今日ね、仕事は休みなんだけど、夜に出掛けるんだ」
「ああ、うん、分かった」
恋が夜に出掛けるのは珍しくない。頻繁に夜に出掛けて居る。
夜中に何をしているのかは知らないが、詮索はしないでいた。
「キミも来るんだ」
「え?」
「上司と飲む約束してるんだけど、キミに会ってみたいってその人が」
「え、いや……お前の上司ってヤクザなんじゃ……」
「まあ似たようなものだね」
「怖ぇよ! 会いたくないって!
しかもお前の上司ってことは俺が金借りてた会社の人だろ!?
俺、殺されるんじゃ……!?」
「キミは馬鹿だなぁ。
キミなんか殺したってメリットがないよ。
殺人なんてデメリットのほうが大きいんだから、そんな簡単に一般人を殺したりしないさ」
「そ、そうなのか……
でも普通に気まずいし怖いもんは怖ぇよ! 俺は行かないっ!」
「だめ。来るの。来てくれないと怒られちゃう。
どうしても来ないと言うならキミを殺してボクも死ぬ」
「ひいいっ、わ、分かった! 分かったから殺さないで!!」
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