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大きいベッドの中で、アンヘルにしがみ付きながら眠りにつく。
暗闇の中で、アンヘルの優しい声を聞いていた。
「あのね、莉子さん。私、天界の学校でいじめられてたんです。
姿が消せない事を、いつも馬鹿にされてた。
卒業時はトップの成績でしたけど、勉強も最初は全然できなかったんですよ。
周りの子を見返したくて、頑張りました。天界には友達なんか一人もいません。
莉子さんは、私の初めての友達です。
…………私、やっぱり、天使の仕事向いてないみたいです。
私………私が、必ず…………」
――ついに七日目の朝が来た。
アンヘルと出会って七日。
私が死ぬ、運命の日。
「ねえ、外に出るの怖いよ」
「私的には室内に居られたほうが困るんです」
「なんでよ? 私、事故で死ぬんでしょ? じゃあ室内のほうが……」
「本来、天使が人間に死の運命を教える事はありません。天界の法律で禁止されています」
「法律て……」
「ですから、人間が死の運命を回避しようとした時、どうなるのかは全くの未知なのです。
もしかしたら心臓麻痺とかに変更されてしまうかもしれない」
「…………」
「とにかく、何が起こるかよく分からないんです」
「そう……
アンヘルはどうして私に言っちゃったの? 法律を破ってまで伝えたかったの?」
「…………はい。
だって莉子さん、死にたいだなんて言うから……
なんかそれって、天使として、放っておけなかったんです」
「そっか……」
「それから、莉子さんの死因は事故であって、交通事故とは限りません。
室内で転んで頭を打って死んでも、それは事故死です」
「ん、まあそうだな。でも、なるべく安全な所にいたいよ」
「いえ、駄目です」
「なんで」
「莉子さんには、交通事故に遭って貰います」
「やだよ。痛そう……だったら転んで頭打って死んだほうがいいよ」
「大丈夫」
「はぁ……何が大丈夫なの?」
「私を信じて、莉子さん」
そう言って、私の手がアンヘルに絡めとられる。
アンヘルに手をぎゅっと握られたまま、何もない田舎町を歩いた。
アンヘルの手は温かくて、柔らかい。
彼女に触れ合っていると、なんだか安心する。
不思議と死の恐怖も心細さも薄れて行くようだった。
天使に不思議な力があるのか、アンヘルが特別なのかは分からない。
温かい彼女の手を、そっと握り返した。
アンヘルと手を繋いだまま十五分ほど歩いた。
「!」
背後から車の音が聞こえる。
田舎だからか、一緒に歩いている最中車は一台も通らなかった。
嫌な予感がして、冷や汗が一気に噴き出して来る。
ここはちゃんと整備されていない、細い砂利道だ。
砂利道を通るにしては、車のスピードが速すぎる気がする。
視界が霞む。
目眩と吐き気に同時に襲われる。
「うっ……」
立っていられなくなって、アンヘルの手を握ったままその場に崩れるように座り込んだ。
「莉子さんっ……!?」
「……ッ……うぅ」
こんな所に座り込んで居たら駄目だ。危ない。
立って、もっと端っこに避けないと。
そう思うのに、目眩と吐き気のせいで上手く立てない。
視界がぐにゃぐにゃと歪んで、世界が回る。
アンヘルの手を振り払って、両手で頭を押さえた。
――なんで!?
どうして突然、こんな風になるの!?
私が死の運命から逃れようとしたから……!?
いやだ! 怖い!
強く、強く、目を瞑った。
耳に手を当てて、外の世界を拒絶した。
どうか、何も見えないうちに、
何も聞こえないうちに、
何も感じないように、終わらせてほしい。
グチャ、とも、パンッ、とも表現できるような音が耳に届いて、漸く死ねるのだと思った。
だけど、不思議な事に、痛みも衝撃もいつまで経っても襲って来ない。
――キキィ、というブレーキの後に、走り去って行く車が視界の横にちらついた。
やがて車が見えなくなる。完全に走り去って行ってしまったみたいだ。
暗闇の中で、アンヘルの優しい声を聞いていた。
「あのね、莉子さん。私、天界の学校でいじめられてたんです。
姿が消せない事を、いつも馬鹿にされてた。
卒業時はトップの成績でしたけど、勉強も最初は全然できなかったんですよ。
周りの子を見返したくて、頑張りました。天界には友達なんか一人もいません。
莉子さんは、私の初めての友達です。
…………私、やっぱり、天使の仕事向いてないみたいです。
私………私が、必ず…………」
――ついに七日目の朝が来た。
アンヘルと出会って七日。
私が死ぬ、運命の日。
「ねえ、外に出るの怖いよ」
「私的には室内に居られたほうが困るんです」
「なんでよ? 私、事故で死ぬんでしょ? じゃあ室内のほうが……」
「本来、天使が人間に死の運命を教える事はありません。天界の法律で禁止されています」
「法律て……」
「ですから、人間が死の運命を回避しようとした時、どうなるのかは全くの未知なのです。
もしかしたら心臓麻痺とかに変更されてしまうかもしれない」
「…………」
「とにかく、何が起こるかよく分からないんです」
「そう……
アンヘルはどうして私に言っちゃったの? 法律を破ってまで伝えたかったの?」
「…………はい。
だって莉子さん、死にたいだなんて言うから……
なんかそれって、天使として、放っておけなかったんです」
「そっか……」
「それから、莉子さんの死因は事故であって、交通事故とは限りません。
室内で転んで頭を打って死んでも、それは事故死です」
「ん、まあそうだな。でも、なるべく安全な所にいたいよ」
「いえ、駄目です」
「なんで」
「莉子さんには、交通事故に遭って貰います」
「やだよ。痛そう……だったら転んで頭打って死んだほうがいいよ」
「大丈夫」
「はぁ……何が大丈夫なの?」
「私を信じて、莉子さん」
そう言って、私の手がアンヘルに絡めとられる。
アンヘルに手をぎゅっと握られたまま、何もない田舎町を歩いた。
アンヘルの手は温かくて、柔らかい。
彼女に触れ合っていると、なんだか安心する。
不思議と死の恐怖も心細さも薄れて行くようだった。
天使に不思議な力があるのか、アンヘルが特別なのかは分からない。
温かい彼女の手を、そっと握り返した。
アンヘルと手を繋いだまま十五分ほど歩いた。
「!」
背後から車の音が聞こえる。
田舎だからか、一緒に歩いている最中車は一台も通らなかった。
嫌な予感がして、冷や汗が一気に噴き出して来る。
ここはちゃんと整備されていない、細い砂利道だ。
砂利道を通るにしては、車のスピードが速すぎる気がする。
視界が霞む。
目眩と吐き気に同時に襲われる。
「うっ……」
立っていられなくなって、アンヘルの手を握ったままその場に崩れるように座り込んだ。
「莉子さんっ……!?」
「……ッ……うぅ」
こんな所に座り込んで居たら駄目だ。危ない。
立って、もっと端っこに避けないと。
そう思うのに、目眩と吐き気のせいで上手く立てない。
視界がぐにゃぐにゃと歪んで、世界が回る。
アンヘルの手を振り払って、両手で頭を押さえた。
――なんで!?
どうして突然、こんな風になるの!?
私が死の運命から逃れようとしたから……!?
いやだ! 怖い!
強く、強く、目を瞑った。
耳に手を当てて、外の世界を拒絶した。
どうか、何も見えないうちに、
何も聞こえないうちに、
何も感じないように、終わらせてほしい。
グチャ、とも、パンッ、とも表現できるような音が耳に届いて、漸く死ねるのだと思った。
だけど、不思議な事に、痛みも衝撃もいつまで経っても襲って来ない。
――キキィ、というブレーキの後に、走り去って行く車が視界の横にちらついた。
やがて車が見えなくなる。完全に走り去って行ってしまったみたいだ。
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