まいすいーとえんじぇる

粒豆

文字の大きさ
上 下
9 / 15

9

しおりを挟む
――5日目……


今日は久しぶりに母親が休みで、朝から家に居た。
なんだか顔を見るのすら、久しぶりな気がする。

「お、お母さん……」

綺麗にラッピングしたカップケーキを後ろ手に隠し、おそるおそるソファに座っている母親に声を掛ける。

「莉子……」

「あの、ね……」

「はあ…………分かってるわ」

「……へ?」

「学校の事でしょ?」

「え? ち、違ッ……」

「学校、辞めるの?
 お友達と上手くいってないとか、勉強が辛いとか、莉子も色々あるんだろうから今まで事情は聞かないでいたし、聞くつもりもないわよ。莉子の人生だしね」

「…………」

「とにかく行きたくないなら、無理に行かなくてもいいわ。
 でもね、辞めるならちゃんと働きなさい。
 今のまま家でだらだらしてるだけってのはダメよ」

「…………ッ、私だって、好きで家に居る訳じゃない!!」

母親の言葉にカッとなって、怒鳴り声をあげる。
無意識に手に力が入って、せっかく作ったカップケーキが潰れるのが分かった。


「好きで学校行かない訳じゃない! 好きでバイトすら出来ないようになった訳じゃない!!
 誰もがみんな、お母さんみたいに普通に生きていける訳じゃないんだよ!!」

「莉子、学校で虐められてるの?」

「違う! 別にそういうわけじゃない」

これは本当だ。
私はただ、世間から「浮いている」。
まともな友達がいない。独りぼっち。それだけだ。
それだけなのに、それがひたすら辛かった。
一層の事いじめられている方がマシだとすら思う。
そうすれば、いじめられている、という事を言い訳にできるから。

「莉子、正直に言いなさい。
 いじめられてるなら、転校とか……」

転校したって同じだ。
私は他人と仲良くなれないんだから。
私は根本的に、人間という生き物が嫌いなのだ。
人間はみんな、自分勝手でエゴイスト。
例外なくそうだ。私自身だってそうだ。
私は、人間が嫌いな癖に、誰かに好かれたくて、嫌われたくなくて、
自分の意見を押し殺して、他人に合わせて生きている。
ずっとそうして、良い人のふりをしてきた。
ひねくれものの私が、良い人になんてなれるわけがないのに。
そんな人間を誰も信用してくれるわけがない。
好きになってくれるわけがない。
浮いて当然だった。

「莉子」

「うるさい! もういいよ! 大嫌いだ!
 なんで私なんか産んだの!?
 私、普通に生きれないなら、産まれて来ないほうがマシだった!
 産まなきゃよかったんだよ!!」

「莉子……!!」

私は母に背を向け、自室へ駆け込んだ。




自室に鍵をかけ、閉じこもる。
外の世界から逃げ出す。

「はぁ……はぁ……」

「莉子、さん……」

「クソッ……!」

手に持っていたカップケーキを、床に思いっきり叩きつける。

「莉子さん……!?」

「こんなものっ……!」

「…………っ!?」

潰れかけていたケーキを足で踏みつけて、完全に潰す。
全てのストレスをぶつけるように、何度も何度も踏みつけた。

「莉子さん、やめて!莉子さん!」

「うるさいな!!」

柔らかいケーキがぐちゃぐちゃになっていく。
綺麗だったラッピングが、醜く歪んでいく。
自分でやった癖に、その潰れたケーキを見て涙が止まらなくなった。

「お母さんには分かんないんだッ! 私の気持ちなんか!
 もうやだよ! さっさと殺してよ! アンヘル!」

「莉子さん……」

「なんで私はこんななの? なんでこんなに苦しいの!?
 どうして臆病なの! どうして素直に生きれないの!?
 なんで、私は……!!」

ケーキを何度も踏みつけながら、滅茶苦茶に叫んだ。
自分が自分で制御できない。
頭が痛い。気分が悪い。

「はぁ……はっ……っ」

叫び疲れて、その場にへたり込む。

アンヘルが泣きそうな顔で私を見ている。

――そんな顔をさせてごめんね、アンヘル。

そんな些細な言葉すら、口に出せない自分が嫌だった。
どうでもいい事、言っちゃいけない事は簡単に口にできるのに、
言わなきゃならない事を口に出すのは、どうしてこんなに難しいのだろう。
布団の中でアンヘルにしがみ付いて、目を閉じる。
涙が止まらない私を、まるであやす様にアンヘルは優しくしてくれた。
その優しさに素直に甘える事にした。
私は、アンヘルになら素直になれる。
それはきっと、アンヘルに対しては変に取り繕う必要がなかったからだ。
アンヘルが怪しくて変な奴だったから。電波だと思ったから。
そんな奴に好かれる必要はないと思ったから。
だから、素の自分で接する事が出来たんだ。



――ドンドン


さっきから、部屋のドアを叩く音がうるさい。


「莉子、開けなさい」


――お父さんの声だ。

父とは、母以上に顔を合わせていない。
久しぶりに声を聞いた気がする。

「莉子、話をしよう」

無視して、アンヘルの柔らかい胸に顔を埋める。
アンヘルは何も言わずに私を抱きしめてくれた。
温かくて、柔らかい。良い匂いがする。
私を迎えに来てくれたのが、アンヘルで良かった。
アンヘルの腕の中で死ねるのなら、本望だ。
心の底から、そう思う。
こいつには嫌われたって構わない。
仲良くしたって得がなさそう。どうでもいい。
そう思って適当に接していた相手を、今は凄く愛しく思っている。
皮肉なもんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語 ~その後~

菱沼あゆ
ライト文芸
「不眠症の上司と―― 千夜一夜の物語」その後のお話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

処理中です...