ピエロと伯爵令嬢

白湯子

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捕らえられた右手

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美女が去り、部屋は静かさを取り戻した。
現在、私と男はベッドに座っている。

『……。』
「……。」

静かさに加えて隣からビシバシ寒気を感じるのは何故だろう。
そして、男と無言で居るのはこんなにも気まずいものだっただろうか。

どうして良いのか分からず、身体を硬直している私の隣で男は突然紙にペンを走らせた。
何を見せてくるのだろうか、もはや恐怖しか感じない。

男はペンを止めた。
どうやら書き終えたらしい。
一瞬、見せるかどうか迷った仕草を見せたが意を決して私に見せてくる。
私は恐る恐るそれに目を向けた。

『あいつと知り合いなの?』

あいつ…?あぁ。

「フィディさんのこと?」
『……。』

部屋の温度は更に下がった。
机に並べた料理が冷めてしまう。

「えっと…、貴方に会う前に偶然ぶつかってしまったの。」
『本当に?』
「本当よ。嘘ついてどうするの。」

男の動きは止まってしまった。
信じてくれただろうか。
…てか、何で疑われなくてはならないのだろう。

「ねぇ、フィディさんってサーカスの団員なの?」
『何であんなのに興味持つの?』
「…貴方、そんなに面倒くさい性格だったかしら?」
『……!』

男は肩をしょんぼりと下げた。

この人は、フィディさんのことが嫌いなのだろうか。
さっきからフィディさんの話になると刺を感じる。

男は仕方が無いといった感じにペンを走らせた。

『あいつは、サーカスの猛獣使いだよ。』
「猛獣使い…!かっこいいわね。」

フェロモン指数が高いフィディさんのことだ。きっと素晴らしいショーに違いない。

『……。』

フィディさんの猛獣使いの姿に心躍らせていると、肩をポンポンと叩かれる。
振り無えば、ずいっと男は紙を突き出してきた。
驚き少し反り返る。

『ウサギのポーズは?』
「は?」

突然何だ。なぞなぞだろうか。
頭の中にウサギを思い浮かべる。
ウサギといえば耳が長いのが特徴だ。
つまり、この答えは

「こう?」

手を耳に見立てて頭の上に乗せた。

ガチャッ!

頭の上から物騒な音が聴こえた。
何故か、右手がずしりと重い。
恐る恐る自分の右手を見れば、冷たく固い鉄の輪が右手に嵌めてあった。
―手錠だ。
輪はもうひとつあり、鎖に繋がれている。
それを男は自分の左手に嵌めた。

「何よ、これ?」

私は男を睨む。
手錠を嵌めるなんて私に対する侮辱以外の何ものでもない。

男は毎度お馴染み、紙を見せてきた。

『手錠。』
「見ればわかるわよ。」

私は男を思いっきり蹴りつけた。




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