ピエロと伯爵令嬢

白湯子

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『数日後。 


彼女は手を取りながら笑顔でその彼を連れてきました。


どうやらピエロの励ましにより勇気を出した彼女は、その彼を射止めることに成功したようです。 


嬉しそうにお礼を言う彼女に、ピエロは笑いながら一言、「良かったね」と伝えました。


ピエロは最後まで弛まぬ笑顔を送り続けました。


そして、自分の気持ちを胸にしまい、次の日から一粒の涙をメークするようになりました・・・・』




「ただの弱虫じゃないか。」
「え?」

女の子はキョトンとし、可愛らしく首を傾げた。

「だってそうでしょ?こいつ、告白を断られるのが怖かったんだ。だから、逃げた。ね、弱虫でしょ?」

僕は自信たっぷりに言うが、女の子はそんな僕を見てため息をついた。

「貴方の考え方は屈折してるわ。素敵なお話なのにどうして屁理屈を言うのかしら?」
「素敵なお話し?これのどこが。」
「彼女の幸せを願って自分の気持ちを隠したのよ?素敵だと思わない?」
「…思わない。それじゃ、彼女が可愛そうだ。」
「彼女が?ピエロじゃなくて?」

女の子は不思議そうに僕を見つめる。

「彼女はきっとピエロが好きだったんだ。」
「そんなこと何処にも書いてないわ。」
「書いてなくても好きだったんだよ。」
「わかったわよ。彼女は実はピエロが好きだった、それで?」
「彼女はピエロに引き止めて欲しかったんだ。」
「うーん、ややこしいわね。じゃ、なんで彼女は片思いしている男性が居るなんて言ったのよ。」
「言ったでしょ、彼女はピエロのことが好き。片思いの男性はピエロだったんだよ。」

得意げに僕が言うと、女の子は考え込むように手を顎に添えた。
しばらくの間考え込んだらしいが、お手上げといった風に両手を挙げた。

「分からないわ。」
「彼女はピエロが自分に脈があるかどうか試したんだ。なのに、ピエロは彼女を励ました。つまり、」
「脈なし、と彼女は思ってしまった。」
「そう。」
「……ややこしいわ。」
「そうだね。」

僕と女の子は何だか疲れてしまい、木に背を預ける。

「じゃあ、ピエロは自分の気持ちを伝えたら彼女と結ばれていたのかしら。」
「きっとそうだよ。」
「そう…。」

しばらくすると女の子の微かな寝息が聞こえてきた。
どうやら疲れて眠ってしまったらしい。
そんな女の子を見て思う。

(馬鹿なピエロ……。)

彼女が相談に来た時点で、連れ去ってしまえば良かったんだ。

そうすれば、こんなにややこしくならずに済んだんだ。

「そう思わない?チェルシー。」

チェルシーは答えない。
寝ているから当たり前だ。
起きたら話せばいい。

僕はチェルシーに寄り添い、目を閉じた。

「おやすみ、チェルシー。」




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