ピエロと伯爵令嬢

白湯子

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裏道とピエロ優しさ

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「……っ。も、もういいから、やめて。」

私が悲願しても、彼は止めずに行為を続ける。

「あっ……ぅ触らないで……っ。」

私の足はピクピクと震え、限界を訴えた。

彼は何の迷いもなく、そこに触れる。

「ひっ、いたっ……。」

触れられた所は鋭い刺激を生み、私に襲いかかる。

「もう少し優しくして…。」

彼は済まなそうに、さっきより優しく包帯を膝に巻いていくのであった。


***

やっとの思いで、探していたピエロを見つけ出すことができた。

男の小さなショーが終わると私は男に手を引かれ、裏道へ連れていかれた。

賑やかな大通りとは違い、裏道は人一人見当たらず、世界を切り離したような静かさを持っていた。

男は私に樽に座るよう促した。
慣れない人混みに疲れ果てていた私は、遠慮なく樽に腰をおろす。

遠くにパレードの楽しそうな声をボンヤリ聞いていると、男は私の足元にかしずいた。

何だろうと、男の様子を伺えば私のスカートをおもむろに掴みあげた。

ドスッ!!

私は反射的に男を蹴りあげる。
内心怒りで煮えくり返っていたが、私の表情筋は(略)ため無表情で、再び男に断罪を喰らわそうと構える。

男は地面に手をつき、首をぶんぶん左右に振り続ける。

どうやら『違う』と、言っているらしい。

「じゃ、一体何がしたかったのよ。」

腕を組み男を見下ろす。

すると男は一人芝居を始めた。
男の奇行は毎年のことなので、動じない。

男は立ち上がり、両手を広げ私に深々と頭を下げた。

「そんな前振りなんていいら。」
「……。」

男は大袈裟に肩を落とす。

そんな男をあえて無視し、私は再び樽に腰を下ろして男を睨む。

「早く。」

男は背筋をピシッと伸ばし芝居を始めた。

その場で足踏みをする男。
急に何かに躓き、転倒してしまった。

「だ、大丈夫?」

驚き、声を掛けるが演技だったようで『大丈夫。』と言っているかのように手を大きく振った。

ホッとし、また男を眺めると男は自分の膝を撫でていた。
転んで膝を怪我した、という演技なのだろう。

そして、ピンと来てスカートを捲り、自身の膝を見た。

「…手当をしようとしてたのね。」

私の膝はかすり傷が出来ていた。

「…!…!」

男は私の言葉に何度も頷くのであった。



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