4 / 30
相棒とパレード
しおりを挟む王都の中心に着けば、見渡す限り人で埋め尽くされており、建物は華やかに彩られ、全ての人を魅了していた。
まるで違う世界に迷い込んでしまったような、そんな感覚に陥る。
1年ぶりのパレードに気持ちはふわふわと昂揚していたが、足取りはしっかりしていた。
あの人を探さなければ……。
目立つ人なので、見付かる時はすぐに見つかるのだ。
見つけ方は簡単。
人だかりを探せばいい。
慣れない人混みに流されないよう、踏ん張りながら前を突き進む。
「おねーさん。」
少年の声が聞こえた。
立ち止まり、声がする方に顔を向ければ、果物を販売している男の子が私を笑顔で見つめていた。
「…私?」
「そうだよ。おねーさん見かけない顔だね、遠くの町から来たの?」
「えぇ…。」
別に遠くはないが、一応少年の言葉に頷く。
「やっぱり!おねーさんみたいに綺麗な人、絶対見たら忘れないもん。」
…見た感じ、10歳前後ぐらいの少年である。この歳にして、タラシの素質があるとは驚きだ。
苦笑いをするが、私の表情筋は既に死んでいるため、無表情のままだ。
「お世辞を言われても、お金がないから買えないわ。ごめんなさいね。」
「別に買って欲しいから声を掛けたわけじゃないよ。おねーさんが綺麗だから声を掛けたんだ。」
この子は将来、ナンパするような子になってしまうのではないか。少し、心配である。
「綺麗なおねーさん、パレード楽しんでいってね。はい、これ。」
少年の手には真っ赤な林檎が握られていた。
つい、まじまじと見てしまう。
「サービスだよ。受け取って。」
「だめよ。ただでなんて。貴方が怒られてしまうわ。」
少年は一瞬キョトンしたが、にっこりと微笑んだ。
「変なおねーさん。普通なら喜んで持っていくのに。今日はパレードだよ?これぐらい大丈夫さ。」
「でも…。」
「父ちゃんに綺麗なおねーさんにサービスしたっていったら、綺麗なら問題なしって言うさ。」
なるほど、カエルの子はカエルという訳か。
「ね?」
「……。」
私は渋々真っ赤な林檎を受け取った。
「こんなに立派林檎、本当にいいの?」
「心配症なおねーさんだね。いいよって言ったらいいんだよ。差し出された物を受け取るのは礼儀たよ。」
自分より10個ぐらい歳下の子に礼儀を教えられてしまった。
遠慮しているのが何だか馬鹿らしくなる。
「……ありがとう。」
「どーいたしまして。パレード楽しんでいってね。俺のオススメは最終日にやる締めのサーカスかな」
ピクリと死んでいるはずの表情筋が動く。
ほんの微かな変化であるため、少年は気付かない。
「そう、楽しみだわ。じゃ、またね。」
小さく手を振り、また前を向く。
さっきよりも人が増えている。
林檎を胸の前で包み込み、足を踏み出す。
赤く小さい存在が、少しだけ心強いと思ってしまった私は、心の中で苦笑いするしかなかった。
小さな相棒と共にあの人に会いにいく……。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる