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第7章「温室栽培」
117話
しおりを挟むユリウスside
「君は誰よりも〝青い血〟を色濃く受け継ぎ、この世界に生まれ落ちた奇跡の子。」
「だが、その代償なのか、君の中身は空っぽだった。そう、君は誰よりも不完全で可哀想な子。」
「喜び、怒り、悲しみ、驚き、嫌悪、愛しさ……君にとって、それら全ての感情は所詮、人間の真似事。」
「君はどう足掻いても人間になれない。だからこそ、求めてしまう。心がないくせに、愛がわからないくせに。誰よりも貪欲に求め、そして奪う。慈悲もなく、容赦もなく、空っぽの中身を埋めるかのように君は手を血で染め続けた。…心がない生き物ほど、残酷なものはない。」
「……さて、そうやって求めた結果、君の手には何が残った?」
「何も残っていないだろう?あんなにも欲していたのに、その手には肉片の一欠片すら残っていない。」
「君は全てを持っている気でいたが、本当は何も持っていなかった。」
「君の小さな手では、何も持てない。何もすくえない。何も守れない。誰も、愛せない。だって君は―――」
「………。」
「…己を受け入れられない哀れな子。そんな君を待っているものは身の破滅しかない。…だが、それもまた運命。」
「朕は傍観者。それ以上でもそれ以下でもない。愚かで愛おしい我が子供たちの運命を見届けるのが、朕の役目。朕の罰。」
「奪うことしか出来ぬ哀れな×××。君がどのような最期を迎えるのか、朕は見届けよう。」
「世界が終わる、その時まで。」
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「―っ、」
魂が再び黄泉の泉へと堕ちる寸前、はっ目を覚ました。
一瞬、自分が何処にいるのか分からなかったが、見覚えのある天井と家具を見て「…あぁ、またか。」と身体の力を抜いた。
安堵すると今度は身体にまとわりつく不快感が気になってくる。全身がじっとりと濡れていて気持ちが悪い。まずは、この大量の汗を洗い流さなければ。
僕はぼんやりとする頭を支えながら、のそりと上体を起こした。すると、額から何かがずり落ち、ぺちゃりと掛け布団に落ちた。
ぼんやりとする視界に映ったそれは、濡れタオルだった。
何故、こんなものが…。
「…うっ…」
その時、ぐらりと目眩がした。
ぐわぐわんと頭が揺れ、いつもよりも呼吸が早い。身体は燃えるように暑いのに、末端は凍るように冷たい。すぐに自分が発熱していることに気が付いた。
―…薬…
いつも服用している解熱剤の存在を思い出した僕はベッドから降りようとした―――その時、扉の向こうから足音が聞こえてきた。
「…。」
その足音は迷いなく、この部屋に向かってくる。
この屋敷に僕以外の生き物が居るはずがない。もし居るとすればそれは招かれざる客だ。
僕は息を殺し、その足音の人物を迎え撃とうと身構える。いつでも魔法が発動できるよう、意識を血液に流れる魔力に集中させた。
ガチャリと扉が音を立てて、ゆっくりと開いた。
先手必勝。僕は親指の腹を噛みちぎり、その傷口から滴る血で造形したダガーナイフを扉の隙間めがけて投げ放った。ナイフは空気を切り、吸い込まれていくかのように扉へと向かっていく。扉が完全に開かれた時、訪問者の鮮血が飛び散るだろう。
扉が半分開かれ、訪問者と目が合った。
「―っ!?」
僕達は同時に驚愕の声を上げた。僕は咄嗟に魔法を解く。
だが、間に合わなかった。
魔法を解き形を失った僕の血液は、バシャッ!と彼女の顔面に叩きつけられた。
「………。」
まるで、世界が止まってしまったかのような静寂があたりを支配する。
真っ赤な鮮血が彼女の頬を伝い、ポタ…ポタ…と彼女が持っている洗面器に落ちてゆく。
赤く濡れた前髪から覗くエメラルドの瞳には、憤怒の炎が静かに揺れていた。
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