私は貴方を許さない

白湯子

文字の大きさ
上 下
113 / 212
第7章「温室栽培」

109話

しおりを挟む


『ねぇ、エーミール。』
『な、なに?』
『私、帝都に行く用事が出来たの。』
『え……?』
『エーミールも一緒にどうかしら。』
『………。』


エーミールは、たっぷりと間をとってから『えぇ!?』と、素っ頓狂な声を上げた。思いもよらぬ提案だったのだろう。困惑しているエーミールを横目に、ビアンカが『蛙ちゃんの用事って?』と聞いてきた。


『ここに来て、1週間が過ぎたでしょう?元々、準備不足だったせいもあるけど、色々と足りないものが出てきてしまったの。だから一度家に帰って必要なものを持ってこようかと思って。』


長期滞在を見越して、邸で改めて荷造りをしてきたいし、1週間も付き合ってくれたベルたちも、そろそろ家に帰してあげたい。

それに……


『君の家って…』
『帝都にあるのよ。』
『!帝都に…!』


こうして友達に会うために国境を渡ってきたエーミールの勇気を、こんな所で摘み取りたくはなかった。

ビアンカに一通り説明して、一度帝都に帰っても良いかと聞けば『別に良いんじゃない?カールにはアタシから言っておくわ。』と、あっさり許可がおりた。ビアンカいわく、謹慎処分の身ではあるが、一時的な帰省なら問題はないだろう、とのこと。


『…俺も一緒に行ってもいいの…?』
『勿論。そうじゃなかったら、誘わないわ。』
『!あ、ありがとう…!』


こうして、エーミールと一緒に帝都に行くことが決まった。


*****


次の日。
帝都行きの準備を終えた私たちは、ビアンカにお別れの挨拶し、馬車に乗り込もうとしていた。


「蛙ちゃん。これを持っていきなさい。」


先にエーミールを馬車に乗せ、彼の後に続こうとしている私に、ビアンカが小さな紙袋を差し出してきた。
私は首を傾げつつ、それを受け取る。


「ビアンカ、これは?」
「護身用のナイフよ。」
「………え、」


紙袋の中を覗き込めば、小ぶりなナイフとそのナイフを収納するレッグホルスターが入っていた。
ビアンカからの物騒なプレゼントに、思わず目を見開いたまま固まってしまう。


「最近、物騒だから念の為に、ね。」
「…そ、そうね。」
「護衛もちゃんと付けたんだから、そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫よ。深く考えずに、お守りだと思っていれば良いわ。」
「……。」


思い付きで帝都行きを決めてしまったが、今になって考えなしの行動だったかもしれないと思い始めてしまった。
行動の制限はないとはいえ、未だに謹慎処分の身である私が、このまま帝都に行っても大丈夫なのだろうか。

それに、帝都にはが……


「命短し恋せよ乙女。」


聞き慣れない言葉に顔を上げれば、ビアンカは「アタシの座右の銘なの。」と言って、にっこりと微笑んだ。


「蛙ちゃんが思っているよりも人生は短いわ。こんな所で立ち止まっていたら勿体無わよ。」
「ビアンカ…。」
「アタシみたいに、手当り次第当たって砕けた方が、人生得なんだから。」
「…砕けたら駄目じゃないかしら?」
「あら、大丈夫よぉ。後でアタシが拾って、あ・げ・る♡」


そんな骨を拾うみたいに言われても…。
だが、どんな言葉よりも頼もしかった。

私は紙袋をギュッと胸に抱き、くすりと笑った。


「…ありがとう、ビアンカ。」
「どういたしまして。…気を付けてね。」


いつになく真剣な眼差しのビアンカに、私は深く頷いてみせた。


「お嬢様ー。そろそろ出発しますよー!」


荷馬車の方からベルの声が聞こえた。ベルに返事をし、私は馬車に乗り込む。
そして、私とエーミールを乗せた馬車は、雪に鎖された冷たい帝都に向けて颯爽と走り出した。
しおりを挟む
感想 431

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

処理中です...