私は貴方を許さない

白湯子

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第3章「後退」

48話

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モニカside


凄まじい唸り声をあげて、中庭が炎に包まれていた。

中庭に咲いていた美しい花々は全て焼き尽くされ、一面火の海となった中庭で私はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。


「いゃぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」


少女の悲痛な叫びにハッとする。
この炎の中で、逃げ遅れた少女が居るのだろうか。
私は少女を探すべく、炎に気を付けながら声が聞こえてくる奥の方へと足を進めた。
奥へと進めば進むほど、火の勢いは増していく。この炎の中では、少女は助からないかもしれない、と諦めかけていたその時、赤い炎の中に揺らめく人影が見つけた。

ストロベリーブロンドの髪が炎に煽られ、宙を舞う。

あれは…


「やめてぇぇえ!!本当に死んじゃうからぁぁ!!」


悲痛な叫び声を上げていたのは、ここに居るはずのない聖女マリーだった。

デューデン国へ旅行中であるはずの彼女は、火刑台に身体を括り付けられ、断末魔の叫び声をあげている。

何故彼女がこんな所に!?

視界から入り込む目を疑うような情報に、脳の処理が追いつかず、私は目を見開いたまま、炎にその身を焼かれる聖女を見つめていた。


「ねぇ、助けてよっ!こんなのおかしいって!アルベルトってばっ!!」


この時初めて、アルベルトの存在に気づく。彼は燃え盛る炎をものともせず、火刑台に縛られている聖女を静かに見上げていた。
最愛の聖女が燃やされているというのに、何故彼は助けずに、ただ眺めているだけなのだろうか。

そんなアルベルトの顔を見てゾッとした。人間味を感じない、まるで仮面を被っているような冷たい表情で聖女を見上げていたのだ。たが、その顔を見た私は現状を理解することができた。

――暴動が起こったわけじゃない。アルベルトが聖女を火をつけたのだ。

だが、一体なぜ?

アルベルトはあれほどまでに、聖女を寵愛していたのだ。そんな聖女を、帝国で行われている処刑の中で、1番罪が重いとされている火刑を執行するだなんて、考えられない。


「アルベルト、ね、今なら許してあげる!だから助けてよっ!!神様も言ってるよ、こんなの間違っているって!私を、聖女を火あぶりにするだんて、許せないって!!あぁ、神様が怒ってる!!」


柱に縛られ身動きが取れない聖女は、今まで見せたことのない苦痛の表情を浮かべ、ストロベリーブロンドの髪を振り乱している。その姿は、炎の中でのたうち回る悪魔のようだった。


「黙れ。」


身が凍りそうなほど冷たい声を発したアルベルト瞳は、淡く煌めき出した。


「ぎゃああああ!?」


その瞬間、聖女の断末魔の叫びがあたりに響き渡る。

赤い炎から青い炎に変わったことにより、炎の威力が増したのだ。私はその勢いに押され、地面に倒れ込む。
熱い、熱いっ!訳もわからず、涙が溢れ出した。息をする度、喉と肺が燃えるような痛みを感じる。まるで、溶岩を喉に流し込まれているようだ。

苦しい、息が、できない。

私は本能で酸素を求め、地面に這い蹲る。だが、脳に十分な酸素が行き渡らなくなった身体は徐々に力が抜け、意識が遠のくのを感じた。


「アルベルトォォォオ!!あんなにも、愛してやったのにっ!!お前なんか、神様に、呪い殺されてしまえっ!!!…ぐえぁ!?」


聖女は火刑台の上で炎に包まれながら、天に向かって最期の呪いの言葉を叫んだが、何やら様子がおかしい。目を見開いている聖女の口から。だが、それは一瞬で燃え上がり、灰へと姿を変えた。聖女は奇声を上げながら、青い炎へと包まれていく。そして、とうとうその姿は見えなくなってしまった。


私の意識も限界を迎える。


『ねぇ、モニカ聞いて。アルベルト様の瞳ってとっても綺麗なのよ。深い海のようにキラキラと輝いてるの。ほら、見て…』


お嬢様…。


幼いお嬢様が、はしゃいだ声で私に語り掛ける。私はお嬢様の言う通りに、アルベルトの方へ視線を向けた。


『お嬢様、あれは…』


燃え盛る青い炎のように、不穏げに揺れ動くサファイアの瞳を最後に、私は意識を手放した。



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