私は貴方を許さない

白湯子

文字の大きさ
上 下
20 / 212
第2章「芽吹く」

19話

しおりを挟む


―どれもこれも似たようなものしか載っていないわね。


軽く溜息をつき、分厚い歴史書を閉じた。

突然ユリウスの留学が決まり慌ただしく過ぎていった休日の次の日、私は学校の第1図書館に来ていた。何故ここに居るかと言うと、話は今日のお昼まで遡る…。

学校の中庭でいつもの様にユリウスと昼食を摂っていると、ユリウスの担任の教師が私達の元へとやって来た。
留学の件で書いてもらいたい書類があるため今日の放課後に教員の研究室へ来て欲しい、とのこと。ユリウスは私をチラリと見てから「分かりました。」と返事をした。


「姉上、先程 先生が言っていたように僕は放課後残らないといけないみたいです。なので今日は先に帰ってて下さい。」
「終わるまで図書館で待っているわ。」
「ですが…」
「ちょうど調べたいものがあるの。第1図書館に居るから終わったら迎えに来てね。」
「…分かりました。できる限り早く終わらせてきますので。」
「そんな無理しなくていいのよ。私、待つのってそんなに苦にならないから。」
「いえ、僕が早く姉上に会いたいからです。」
「グハッ」


******


「…。」


…お昼の時の会話を思い出し、思わず苦笑いをした。巷ではああいうのを確か…シスターコンプレックス…シスコンと呼んでいるんだっけ?ユリウスの場合、悲惨な幼少期を過ごしたことが原因なためシスコンとは少し違うかもしれないが…。
純粋に姉を敬愛してくれる義弟に、満更でもない自分が居るのも確かだ。私も巷で言うところのブラコンというやつなのだろう。
お互い、姉離れ、弟離れの道は遠いようだ。だからこそ、ユリウスの留学の件は私たち姉弟にとっていい機会かもしれない。ぬるま湯のような関係にいつまでも甘えていたいが、いつか現れるユリウスのパートナーの為にも弟離れは確実に必要だ。いきなりは難しいかもしれないが、少しづつなら義弟から自立が出来るようになるだろう。


私は新しい歴史書を本棚から選びその場で開いた。だがこれも先程の本と同じような内容だったため眉をよせ溜息をついた。


―どうして300年前の歴史だけがこんなにも薄いの?


どの文献を読み漁っても書いてあることは皆一緒。酷い時は1行で終わっている本もあった。


―今から300年前…“帝国歴××年。アルベルト=ブランシュネージュ=ノルデンは23歳で皇帝陛下に即位。その後、自害する。“か…。


300年前はあの聖女が現れた年なのだ。まずはその事が歴史に乗るはずなのに聖女については一切書かれていない。だがマリーは皇后に選ばれ、皇族となったのだ。皇族達の名前は必ず歴史に残るようになっている。それなのにマリーの名前が残っていないのは何故なのだろう。

マリーだけでなく、エリザベータ=コーエンの名も何処にも載っていなかった。私は歴史に名を残すほどの大罪を犯したことになっているはずだ。負の歴史として残っていてもおかしくはないのだが…。コーエン家自体が消えている。

それに最後の“自害する”という文章。これが1番信じられない。あの人が自ら命を絶つなんてことありえない。あの人らしくない。
私が死んだ後、一体何が起こったのだろう。その真相が知りたくて書物を漁るも有意義な情報は何一つ出てこなかった。


―おかしいわ。一体何なの…?


調べれば調べるほど奇妙さが浮き彫りになる。
私は文献を読み漁ることに没頭していった。調べても何も変わらないのに、無意味なのに、止められなかった。ひたすら自分だけの世界に閉じこもる。

だから、私は自分の背後に誰か居るなんてこと考えもしなかった。

1番上にある本が取りたくて背伸びをするも、あと僅か届かない。何か踏み台を、と思っていたら後ろから何が伸びてきた。これは腕?もちろん、自分のでは無い。しなやかに伸びた腕は服の上からでもわかるほど、筋肉質だ。その腕は上に延び、私が取りたかった本を易々と捕らえスっと本棚から抜いた。その動作を無意識に追いかけるようにして後ろを振り返った。振り返ってしまった。


―深い海のようなサファイアの瞳…。


『深く考えすぎて周りが見えなくなってしまうのは姉上の悪い癖です。』と、いつの日だったか、義弟が言った言葉が脳裏を過った。


「…欲しかったのはこれか?」


記憶にある声よりも少し若い声。だって、彼はまだ18歳なのだから。

テオドール=ブランシュネージュ=ノルデン。

このノルデン帝国の皇太子殿下であり、次期皇帝陛下である尊き方。

私を殺したアルベルト様と同じ顔を持つ男。


世界が音を立てて動き出した。





しおりを挟む
感想 431

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

処理中です...