生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子

文字の大きさ
上 下
25 / 28

後日談②

しおりを挟む

今日はヤスの退院日である。
私は様々な人達に声をかけ、盛大な『お帰りなさい ヤス 会』を開いたのだ。……ネーミングセンスがないのはわかってる。
ぶっちゃけ、この会はただの宴会になってしまっているが……。

「お帰りなさい!ヤス!貴方が居ない3ヶ月は寂しかったわっっ!!」
「ギャアアアアアアア!!お嬢、近づかないでください!若がめっちゃ見てます!!!」

3ヶ月も会えなかったのだ。感動の再会であるはずなのにヤスは私から逃げ回る。
以前のような戯れ合いに、ヤスが帰ってきたのだと実感でき、嬉しくなった。
ついつい、半泣きのヤスを追いかける。

(泣くほど嬉しいのねっ!!)

*****

「……お、おい、陽。目がやばいぞ。」
「何を言っているのですか僕は普通ですよ姉さんが嬉しそうで僕も嬉しいのです。」
「息継ぎしないのが逆に怖い。」
「八島の兄さんこそ、飲み過ぎではありませんか?」
「まだまだ飲みたらないぐらいだ。」
「まぁ、失恋の傷を酒で癒すのも1つの手ですよね。あぁ、安心してください。姉は浮気なんてするような人ではないので。」
「ちくちょうっ!!」

このあと、忍は浴びるように酒を飲み、つかの間の幸せに浸かるのであった……。

*****

「俺が寝ていた間に、お2人が婚約していたとは……。驚きました。」

ヤスは苦笑いをしながら私と陽を見た。
私本人が一番驚いている。あの、陽と婚約をしたなんて……。

「僕は今すぐ結婚したいけど、まだ学生の身だからね。大学を卒業して姉さんの横に立つのに相応しい男になったら、姉さんに結婚を申し込むよ。」

熱っぽい眼差しを向けてくる陽に顔が赤くなってゆくのがわかる。

「陽……。」

陽は好きだと言ってきたあの時から、私に対する態度が柔らかくなった。
暇さえあれば私に触れてこようとする陽に最初はかなり戸惑ったが、今はだいぶ慣れた。

「だからね、姉さん。もう少し待っててね?」

私の手に口付けをする陽。
前言撤回。
だいぶ慣れたとか嘘だ。
恥ずかしさのあまり、固まってしまった。

「……お父さんの前でイチャつくのはやめなさい。」
「イチャ…っ!?」
「あぁ、父さん。居たのですか?まったく気づきませんでした。」
「この息子は、いけしゃあしゃあと……。ちぃ、本当にそいつでいいのかい?」

父は心配そうに私に声をかけた。
父に私と陽のことを伝えたとき、苦笑いはしたものの『お前が幸せなら、それで良い。』と言って認めてくれた。そんな父に胸が苦しくなる。本当に、優しい人。

「ふふふ。ありがとう、父さん。でも、私は陽じゃないと駄目みたい。」
「……そうか。」

穏やかに見つめる父の目は慈愛に満ちていた。

「姉さん…!」
「ちょ、陽。こんな所で抱きついてくるのはやめなさい!」

「うーん。改めて娘を嫁に出すと思うと、陽に殺意に似たものを感じるものなんだなぁ…。」
「親父、お飲みになりますか?」
「そうだなぁ、一杯貰おうか。すまないなぁ、ヤス。お前にも一杯やろう。」
「ありがとうございます。……大切に育ててきた妹が嫁にいくって、きっとこんな気持ちなんでしょうね……。」
「……あぁ。」

組長とその舎弟。
立場は違えど、似たような想いでお酒を喉に流し込んだ。
悔しいほど、その酒は美味であった。

*****

「はっ!!……ここは……。」

俺は苦しさに目を覚ました。ボンヤリする目で周りを見渡せば、どうやら宴の席らしい。

「あら、忍。目が覚めたの?」

頭上から、優しい声が降ってきた。
ぼんやりとした目で見上げれば、にっこりと微笑む椿が立っていた。

「お酒、飲み過ぎちゃ駄目よ?」

クスクスと笑い、目の前に上品に座る椿。

(あぁ、よかった。夢じゃない……。)

目を閉じ、心底ホッとする。そして、椿を抱き締めた。
ギュッ。
……。はて、椿はこんなに硬かったのだろうか。女性特有の柔らかさがない。これではまるで……

「……兄さん。ごめんなさい。貴方の気持ちには答えられません。」
「―っ!!!!?」

目をカッと見開けば、不愉快そうに眉をひそめる陽が俺の腕の中に居た。
そう、俺は椿ではなく陽を抱きしめていたのだ……。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「えっ。」

反射的に陽をぶん投げる。
酔も一気に覚め、今までの幸せな椿との家庭は夢であったことに気付く。
夢でも俺の邪魔をするのか!

「あらあら。陽、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。八島の兄さんに襲われて、身も心もボロボロだ。もう少し、このままでいさせて。」
「仕方が無いわねぇ。」

声をする方に目を向ければ、椿の豊かな胸に顔を埋める陽がいた。
俺が投げた際、偶然にも椿の胸にクリーンヒットしてしまったらしい。
何だその恋愛シミュレーション的展開は。
羨ましい。変われ。いや、やったのは俺だ。豆腐の角に頭をぶつけて死ね、俺。

「若……。」

舎弟達が憐れむような眼差しを俺に向けてくる。

「やめろ……。そんな目で俺を見るな……っ!」

俺はその視線から逃れるかのように、またもや酒を飲むのであった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...