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従兄弟の気持ちは
しおりを挟む救急箱を持ち、急いで忍の元へ向かうと「この世の春っ!!」と叫んでいた。……大丈夫だろうか。少し心配になる。そして、春という単語から漢字は違えど弟の名を連想してしまう自分に笑えた。この歳にもなって弟離れが出来ないんなんてね。
「じゃ、手当をするわね。すぐ終わるわ。」
私は素早く手当をする。傷は多いが大した傷ではなかったので、あっという間に終わった。
こんなもんかしら?
道具を片付けている私に忍は意外そうに声をかけた。
「手馴れてるな。」
「えぇ。仕事上手当することが多いの。」
主に運動部の男子中学生にだ。毎日若さよねぇ、と思いつつ微笑ましい気持ちで手当をする。無我夢中に駆け回る姿はその時一瞬の思い出だ。大切にして欲しいし、その思い出を少しでも手伝えることに喜びを感じる。
「そうか。……すまない……。」
「いえいえ。」
忍は何とも気恥しそうにお礼をいう。体の大きい男性には失礼かもしれないが、その姿は可愛く見える。少し笑ってしまった。
「な、何だ?」
「なんでもないわ。」
いい男に育ったようだ。だからこそ、こんないい子が私の伴侶になるのは忍に申し訳ない。
「……結婚のことなんだけど、忍は聞いているの?私が相手だってことを……。」
「あぁ、もひろん。」
……噛んだ。
……噛んでしまった……。
「……親が勝手に決めたこととはいえ、巻き込んでごめんなさい。」
私は深く頭を下げる。頭上から忍の焦った気配を感じだ。
「あ、謝る必要はない。そ、それに……。」
忍は語尾を濁らせ下を向いてしまう。とても言いにくそうだ。私はなるべく優しく声をかける。
「焦らなくてもいいから、ゆっくり話してね。」
私の言葉に忍はぎこちなく顔をあげる。そのほどよく焼けた肌はほんのりと赤みがかっていた。
「おおお俺は……、ゲホゲホォォッ!!」
むせた。いきなり激しく忍はむせた。
「え!?み、水を持ってくるわっ!!」
「だ、大丈夫だ!問題ないっ!」
涙目に言われても全然説得力がない。
「わかったわ。とりあえず深呼吸してみて?」
忍は私の言葉を素直に実行する。どうやら落ち着いたようだ。
「俺は!……そ、その……っ、貴女が、妻になってくれるなら、凄く嬉しい……………し、幸せにしたい……。」
そう言った忍の顔は目が潤むほど真っ赤なり、声にならない唸り声を上げ、再び下を見てしまった。膝の上に乗っている手は、強く握られて震えている。
拙い言葉はまるでプロポーズだ。その言葉に驚くがそれは一瞬のことだ。嬉しい気持ちでいっぱいになる。例えるならあれだ。親戚の子から「大きくなったら俺のお嫁さんになってください。」的なことを言われたオバちゃんの気持ちだ。
「ありがとう、気持ちは嬉しいわ。でも、私には」
「椿。」
勿体無い話よ。
私は最後まで言えなかった。忍が私の両手をその手で包んだからだ。
「難しく考えなくていい。」
触れた肌から忍が震えているのがわかる。
「ゆっくりでいいんだ。俺はゆっくり、椿と家族になっていきたい。」
忍の声、表情、体温、全てから真剣さが伝わってきて何も言えなくなってしまう。ただ、私は忍を見上げる事しか出来ない。
「……すまない。」
名残惜しそうに私から手を話す。外気に触れた手は少しヒンヤリした。
「椿も色々と思う所があるだろう。……少し考えてくれ。」
そう、私に言い残し長い渡り廊下へと帰ってしまった。追いかける気も起こらず、私はその姿を呆然として見送ってしまうのでたった。
*****
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
なんてことを言ってしまったんだ!!
女はもっとロマンチックなものを好むという。あんなのカッコ悪すぎる!なぜ、俺はいつもこうなのだ!大事なところを決めないでどうする!!
俺は悶々と悩みながら長い渡り廊下を渡り終わる。
元々、こういうことは慣れない。それに椿の前だと頭が真っ白になり、上手くいえなくなる。
伝わっただろうか……。
2回目を許してくれるならもう一度改めて椿に伝えたい。
曲がり角を曲がればすぐに玄関だ。その角を曲がると、そこには穏やかに微笑む天使がいた。ハニーブラン色の髪は日に照らされていて別世界のようだ。
「こんにちは。八島の兄さん。」
誰もが見とれる笑みを俺に向ける。その瞬間、背筋が凍った。
その笑みは最も俺が恐れている顔だ。
俺は運が悪い。天使の皮をかぶった悪魔に捕まってしまった。
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