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第三章 ヴィンセント攻略

告白

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「城でオレの味方は、母上とマーサだけだった。ベインズは元々父上の侍従で中立の立場だったし、兄上は……難しいお立場だから。昔は、ほとんどしゃべったことがなかったんだ」
「そうなんですか? あんなに仲がいいのに」

 アレクシスがなぜか困ったように微笑む。

「アンタが変えてくれたんだよ」
「私が?」
「初めてアンタに会った頃、オレは荒れてた。王族の教育を施すという名目で、母上と会う機会を減らされていたからな。今思えば、あれも嫌がらせの一環だったとわかるが……当時はなぜ自分ばかりがこんな目に遭うのかわからなかったし、兄上ばかり優遇されるのが許せなかった。兄上が優しく声をかけてくれるのも、同情や哀れみからなのだと思い込んでいた」

 言われて、出会ったばかりの頃を私は思い出す。
 たしかに普通であれば、アレクシスの第一印象は最悪だっただろう。
 傲慢で尊大で、そのくせ兄への劣等感でいっぱいだったあの頃のアレクシス。私が悪役推しなんて特殊な好みの持ち主でなかったら、おそらく私たちの仲は上手くいってなかったはずだ。

「けどアンタと会って、勉強対決なんてバカみたいなことをして……気づいたらオレの周りは大きく変わっていた。兄上に勝つことができたのも、父上に褒められたのも、兄上が本当は母親同士の因縁など関係なくオレと仲良くなろうとしてくれていたと気づけたのも、全部アンタのおかげだ。オレの人生はもうとっくに、アンタに変えられていたんだよ」

 アレクシスが私に一歩近寄る。
 彼の両手がこちらに伸びてくる。私はじっと見つめていた。

「たしかに、王位が欲しかった。でも、そもそもアンタと出会わなかったら、オレはきっと王になれる可能性すらなかった。だからもういい」

 そして気づくと、私はアレクシスに抱きしめられていた。

「さっき、オレを見捨てないと言ってくれて嬉しかった。その言葉だけで……もう十分だ。王になるためにステラを選ばなければならないのなら、オレは玉座なんていらない」

 アレクシスの腕が私を閉じ込める。
 きつく抱きしめられて、アレクシスの体温が直に伝わってくる。

「ルシール、オレはアンタがいい。アンタが欲しいんだ」
「アレク……」
「だから約束してくれ。もう二度と、オレから離れようとしないで。兄上じゃなく、オレを選んで」

 耳元に響くアレクシスの声は、わずかに涙ぐんでいるように思えた。まるで迷子が、ようやく親に出会えたときのようだ。私は思わず笑みがこぼれてしまった。

 私がアレクシスに恋をしているかはわからない。この感情がやがて恋に変わるかはわからない。
 けれど今……アレクシスを、とても愛しいと思った。

 だから返事の代わりに、私はそっとアレクシスを抱きしめ返した。
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