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第三章 ヴィンセント攻略

クーデターへの分岐点

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 アレクシスはなにも言わない。その表情からは、一切の感情が読み取れなかった。
 けれどその体の内側では、マグマのような感情が渦巻いているように思える。

 私は話を続けた。

「アレクだって気づいていますよね。聖女に選ばれた者は正しき王になる。……つまり王になりたいのなら、ステラと結ばれるのが一番です。私は、聖女じゃない」

 剣術大会で浄化の力を使ったことにより、ステラが聖女であることは周知の事実になった。
 そして今、ステラの隣には常にクリスティアンがいる。彼らの間に恋愛感情があるかどうかはともかく、もっともステラに近しい男はクリスティアンであることは間違いない。

 クリスティアンには婚約者がいたはずだが、この国は一夫一妻制ではない。二人の妻を得ることは、難しいことではないだろう。
 このままいけば、ステラとクリスティアンの婚約が発表されるのも、そう遠い話ではないはずだ。

 そうなれば、アレクシスの王位の芽はほぼなくなる。
 王位を望むなら、ステラを奪うのなら……今が最後のチャンスなのだ。

「……元々オレは第二王子だ。それも魔族の血が色濃い、呪われた王子だ。オレがいくらあがいたところで、王位は望めない」

 アレクシスは暗い瞳のまま、自嘲する。
 けれど、私にはそれがアレクシスの本心だとは思えなかった。

「アレク、ここまで来て誤魔化さないでください。私はなれるかではなく、なりたいかを聞いているんです」

 私は知っている。
 アレクシスがこれまで王になるために必死に努力してきたことを。

 でなければ、いくら私にそそのかされたとはいえ、幼い子どもが勉強漬けの毎日に耐えられるだろうか。
 ワガママで横暴だった性格が、こうも紳士的に変わるだろうか。
 剣術大会で私を守れるくらい、魔術を使いこなせるようになるだろうか。
 私の知識が追いつかなくなるくらい、先の範囲まで勉強を進めるようになるだろうか。
 ――それも、たった二年の努力で。

「アレクが私を想ってくれているのは嬉しいです。……でも、ステラがクリスティアン王子のものとなった後から望んでも、決して手に入らないでしょう。今、私への愛を選んで、本当に後悔しませんか」

 私を捨てるなら今だ、と私はアレクシスに迫る。

 本当はこんなこと、言いたくなかった。
 まだまだ先の話だと、子ども同士の淡い恋愛に浸っていられたら、どんなによかったか。

 だが未来から目を背けたところで、いずれ直面しなければいけない現実はやってくる。

 ステラとクリスティアンが結ばれたあとで王位を望めば、それはほぼ簒奪だ。アレクシスに味方する者は少なく、暗殺かクーデターによって王位を奪うしかなくなる。側近であるカイやヴィンセントも、つらい選択を迫られるだろう。

 その先に待っているのは原作通り、アレクシスの破滅と死だ。
 私にとって、それはなにもよりも恐ろしいことだった。
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