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第三章 ヴィンセント攻略
向き合わねばならぬもの
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私は深く息を吐く。
今日はアレクシスと待ち合わせて、真剣に今後のことを話すつもりだった。結婚のことも、それ以外のことも。
放課後、廊下でたたずみながら、アレクの到着を待つ。
しばらく待っていると、急いで来たのだろうか、アレクシスが頬を上気させながら駆け寄ってきた。
「待たせたな、ルシール」
アレクシスは、ここ数日見慣れた王子スマイルで、自然に私の手を取る。
昨日までの私だったら、このスキンシップにも慌てふためいていたのだろうが、私の心の中は今まったく別の考えで埋め尽くされていた。
私が浮かない顔をしていることに気づいたアレクシスは、すぐさま不安そうに顔をのぞき込んでくる。
「どうした?」
「……アレク、少し二人きりで話せませんか」
私はなるべく平静を装ってアレクシスに言った。
だが、ただならぬ雰囲気を察したアレクシスは表情を硬くする。
「……わかった。なら場所を変えるか」
***
アレクシスにエスコートされてやってきたのは、学院の敷地内にある東屋だった。校舎から離れている場所にあるため、人通りがほとんどなく、恋人たちの逢瀬に適しているということで知られている。
東屋に入って、私たちは互いに無言で向き合った。
お世辞にも恋人同士の甘い雰囲気などない。私はこれから先に起こりうる可能性を考えて憂鬱になった。それでも、ここまで来て話さないわけにはいかない。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「あの、私――」
「断らせないからな」
まだなにも言っていないのに、アレクシスは断言する。私の浮かない様子から、婚約を解消されるのだと思ったのだろう。
うすく潤んだ瞳で、アレクシスがこちらをにらみつける。
「アンタが本気でオレに惚れていないことくらいわかっている。けれど、惚れさせるチャンスくらいくれたっていいじゃないか」
「アレク……」
私がアレクシスに手を伸ばすと、アレクシスは一歩後ろに後ずさる。
そして悔しそうに顔をそらした。
「婚約を破棄する必要なんてないだろう? 別に今すぐ結婚しなくてもいい。アンタがちゃんとオレを意識してくれれば、それで良かったんだ。それ以上なんて……望んでいない」
アレクシスは自分の拳をきつく握りしめながら、歯を噛みしめていた。
自分が傷つく前に結論を出そうとしているアレクシスに、私は胸が痛くなる。
「それとも……他に好きな男でもいるのか」
「アレク、違います! 他に好きな男なんていません。私の話を聞いてください」
私は強引にアレクシスの手を取った。
他の理由ならいざ知らず、別の男に目移りしたのが原因などと勘違いされては、すれ違いが余計に悪化してしまう。
アレクシスの両手を掴みながら、必死に訴えた。
「たしかに時間は欲しいと思っています。でも、今日話したいのはそれだけじゃないんです」
レイチェルに相談したあと、私はアレクシスとの関係について真剣に考えた。
年齢の件も、恋愛感情の件もたしかに大事だ。けれど、それは時間がいずれ解決してくれる。
だがそれ以外に、私とアレクシスの結婚を行う上で、時間だけでは解決できない大きな問題があるのだ。
「アレクは子ども扱いをするなと言いました。だから、今まであえて聞かなかったことを尋ねます」
「……なんだ」
アレクシスがわずかに怯えた様子で、応える。
私は深く息を吸う。
アレクシスの真正面に立って、私はもっとも確認しなければならないことを尋ねた。
「私と結婚することで、王位を継ぐ可能性がなくなったとしても、アレクは私を望みますか?」
今日はアレクシスと待ち合わせて、真剣に今後のことを話すつもりだった。結婚のことも、それ以外のことも。
放課後、廊下でたたずみながら、アレクの到着を待つ。
しばらく待っていると、急いで来たのだろうか、アレクシスが頬を上気させながら駆け寄ってきた。
「待たせたな、ルシール」
アレクシスは、ここ数日見慣れた王子スマイルで、自然に私の手を取る。
昨日までの私だったら、このスキンシップにも慌てふためいていたのだろうが、私の心の中は今まったく別の考えで埋め尽くされていた。
私が浮かない顔をしていることに気づいたアレクシスは、すぐさま不安そうに顔をのぞき込んでくる。
「どうした?」
「……アレク、少し二人きりで話せませんか」
私はなるべく平静を装ってアレクシスに言った。
だが、ただならぬ雰囲気を察したアレクシスは表情を硬くする。
「……わかった。なら場所を変えるか」
***
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東屋に入って、私たちは互いに無言で向き合った。
お世辞にも恋人同士の甘い雰囲気などない。私はこれから先に起こりうる可能性を考えて憂鬱になった。それでも、ここまで来て話さないわけにはいかない。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「あの、私――」
「断らせないからな」
まだなにも言っていないのに、アレクシスは断言する。私の浮かない様子から、婚約を解消されるのだと思ったのだろう。
うすく潤んだ瞳で、アレクシスがこちらをにらみつける。
「アンタが本気でオレに惚れていないことくらいわかっている。けれど、惚れさせるチャンスくらいくれたっていいじゃないか」
「アレク……」
私がアレクシスに手を伸ばすと、アレクシスは一歩後ろに後ずさる。
そして悔しそうに顔をそらした。
「婚約を破棄する必要なんてないだろう? 別に今すぐ結婚しなくてもいい。アンタがちゃんとオレを意識してくれれば、それで良かったんだ。それ以上なんて……望んでいない」
アレクシスは自分の拳をきつく握りしめながら、歯を噛みしめていた。
自分が傷つく前に結論を出そうとしているアレクシスに、私は胸が痛くなる。
「それとも……他に好きな男でもいるのか」
「アレク、違います! 他に好きな男なんていません。私の話を聞いてください」
私は強引にアレクシスの手を取った。
他の理由ならいざ知らず、別の男に目移りしたのが原因などと勘違いされては、すれ違いが余計に悪化してしまう。
アレクシスの両手を掴みながら、必死に訴えた。
「たしかに時間は欲しいと思っています。でも、今日話したいのはそれだけじゃないんです」
レイチェルに相談したあと、私はアレクシスとの関係について真剣に考えた。
年齢の件も、恋愛感情の件もたしかに大事だ。けれど、それは時間がいずれ解決してくれる。
だがそれ以外に、私とアレクシスの結婚を行う上で、時間だけでは解決できない大きな問題があるのだ。
「アレクは子ども扱いをするなと言いました。だから、今まであえて聞かなかったことを尋ねます」
「……なんだ」
アレクシスがわずかに怯えた様子で、応える。
私は深く息を吸う。
アレクシスの真正面に立って、私はもっとも確認しなければならないことを尋ねた。
「私と結婚することで、王位を継ぐ可能性がなくなったとしても、アレクは私を望みますか?」
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