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第三章 ヴィンセント攻略
魔術具を買いに行こう・2
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「アレクシス様まで……どうしてここに?」
ヴィンセントが目を見開いて、私とアレクシスの顔を交互に見つめている。
その後ろから店員がヴィンセントを見ながら、不思議そうな声を出した。
「なんだ、知り合いか?」
店員の言葉にヴィンセントはハッとする。
店員に「ええまあ」と曖昧に答えると、客相手の作り笑顔を浮かべて、丁寧な動きで扉の奥へと誘導した。
「親方、表は任せるよ。――お二人は立ち話もなんですので、どうぞ奥に」
***
店の奥は工房になっているようだった。先ほどまでヴィンセントが作っていたであろう、魔術具の欠片や素材が、机の上に散らばっている。
ヴィンセントが無言で客用の席を用意して、茶を淹れてくれた。
私たちも無言で、ヴィンセントの様子を見る。互いに、なんとしゃべっていいのかわからなくなっていた。
しばしの沈黙の後、おずおずとヴィンセントが口を開く。
「……お二人は、どうしてここに?」
ひとまず会話のきっかけをヴィンセントが提示してくれたので、アレクシスはそれに乗っかることにしたようだ。
今日ここまで来たいきさつを説明する。
「ルシールの補助具を買いに来たのだ。神属性の授業で使用する必要が出てきたからな」
「なるほど……」
「ヴィンセント、お前ここで働いているのか? オルムステッド侯爵は知っているのか?」
「はい。休日限定ということで、お許しをいただいております」
ヴィンセントの返事に、アレクシスは「そうか……」とだけ返す。
その後、なぜか難しい顔をして考え事をしているようだった。
アレクシスの方から言葉を続ける気がないことを察したヴィンセントは、説明を続ける。
「平民時代、私はこの店で働いていました。侯爵には、魔術具作成の能力を買われて養子にしていただきましたが、そのときこの店で働き続けられないかと私が頼んだのです」
アレクシスが首を傾げた。
「なぜだ? オルムステッド侯爵の養子となれば、扱いはもう貴族だ。街に使いを出すことはあっても、働きに出る必要などないだろう?」
「それは……」
ヴィンセントが言いよどむ。
だが、彼が言いにくそうにしていた理由はすぐにわかった。
「侯爵から魔術具作成の支援はいただいておりますが、生活費は別になりますので」
アレクシスと私は唖然とした。
平民を貴族の養子として迎え入れておきながら、生活費すらもらえないとは……ヴィンセントはいったいオルムステッド家でどんな扱いを受けているのか。
それはもはや養子ではなく、従業員となんら変わらないではないか。
私たちが困惑と同情を抱えていることに気づいたのだろう。
ヴィンセントは気にするなと言わんばかりに手を振ると、苦い笑みを浮かべる。
「ありがたいことに今は、殿下の側近として過分な給与をいただいておりますから、生活に困ってはおりません。だから店で働かせてもらっているのは、半分趣味のようなものなのです。今まで殿下にお伝えせず、失礼いたしました」
「……いや。侯爵の許可を得ているのなら、それでいいのだ。いくら側近とはいえ、休日まで拘束する気はないしな。好きにするといい」
「恐れ入ります」
ヴィンセントが目を見開いて、私とアレクシスの顔を交互に見つめている。
その後ろから店員がヴィンセントを見ながら、不思議そうな声を出した。
「なんだ、知り合いか?」
店員の言葉にヴィンセントはハッとする。
店員に「ええまあ」と曖昧に答えると、客相手の作り笑顔を浮かべて、丁寧な動きで扉の奥へと誘導した。
「親方、表は任せるよ。――お二人は立ち話もなんですので、どうぞ奥に」
***
店の奥は工房になっているようだった。先ほどまでヴィンセントが作っていたであろう、魔術具の欠片や素材が、机の上に散らばっている。
ヴィンセントが無言で客用の席を用意して、茶を淹れてくれた。
私たちも無言で、ヴィンセントの様子を見る。互いに、なんとしゃべっていいのかわからなくなっていた。
しばしの沈黙の後、おずおずとヴィンセントが口を開く。
「……お二人は、どうしてここに?」
ひとまず会話のきっかけをヴィンセントが提示してくれたので、アレクシスはそれに乗っかることにしたようだ。
今日ここまで来たいきさつを説明する。
「ルシールの補助具を買いに来たのだ。神属性の授業で使用する必要が出てきたからな」
「なるほど……」
「ヴィンセント、お前ここで働いているのか? オルムステッド侯爵は知っているのか?」
「はい。休日限定ということで、お許しをいただいております」
ヴィンセントの返事に、アレクシスは「そうか……」とだけ返す。
その後、なぜか難しい顔をして考え事をしているようだった。
アレクシスの方から言葉を続ける気がないことを察したヴィンセントは、説明を続ける。
「平民時代、私はこの店で働いていました。侯爵には、魔術具作成の能力を買われて養子にしていただきましたが、そのときこの店で働き続けられないかと私が頼んだのです」
アレクシスが首を傾げた。
「なぜだ? オルムステッド侯爵の養子となれば、扱いはもう貴族だ。街に使いを出すことはあっても、働きに出る必要などないだろう?」
「それは……」
ヴィンセントが言いよどむ。
だが、彼が言いにくそうにしていた理由はすぐにわかった。
「侯爵から魔術具作成の支援はいただいておりますが、生活費は別になりますので」
アレクシスと私は唖然とした。
平民を貴族の養子として迎え入れておきながら、生活費すらもらえないとは……ヴィンセントはいったいオルムステッド家でどんな扱いを受けているのか。
それはもはや養子ではなく、従業員となんら変わらないではないか。
私たちが困惑と同情を抱えていることに気づいたのだろう。
ヴィンセントは気にするなと言わんばかりに手を振ると、苦い笑みを浮かべる。
「ありがたいことに今は、殿下の側近として過分な給与をいただいておりますから、生活に困ってはおりません。だから店で働かせてもらっているのは、半分趣味のようなものなのです。今まで殿下にお伝えせず、失礼いたしました」
「……いや。侯爵の許可を得ているのなら、それでいいのだ。いくら側近とはいえ、休日まで拘束する気はないしな。好きにするといい」
「恐れ入ります」
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