35 / 63
第二章 カイ攻略
唐突な願い出
しおりを挟む
「……ここだけの話ですが、私のお友達がカイに恋をしているようなのです」
私はレイチェルをダシにすることにした。
決して噓を言っているわけではない。
「アンタの友達? あの平民の?」
アレクシスが一瞬目を細める。
アレクシスはやはり、聖女候補であるステラの様子が気になるらしい。
私は首を横に振って、否定した。
「いえ、レイチェルさんという男爵家のご令嬢です。一緒に食事をしているお友達の一人ですよ」
「――ああ。あの女子会とかいうやつか。そういえば言っていたな」
急に興味を失ったように、アレクシスが全身の力を抜いた。
「そのレイチェルさんが、カイの様子が気になって、食事もまともに手がつかない有様なんです。カイのためというよりは、レイチェルさんの不安を取り除くために調べてみたいんですよ」
「はあ、女の友情というわけか? よくわからんが……まあ、いいか」
アレクシスはどうでもよさそうに肩をすくめて、カイを調べることに許可を出してくれた。
それでも、私がまたなにかしでかさないか不安なようで、きっちり釘を刺すことは忘れない。
「ただあまりことを荒立てるなよ。下手に大事にでもしたら、恥をかくのはカイだからな。俺の側近を困らせないでやってくれ」
「はい、わかってます。調べてみるだけですよ」
よかった。理由を聞かれて一瞬ひやりとしたが、これでおおっぴらにカイの件を調べられる。
アレクシスは、後ろに控えていたヴィンセントに振り返って尋ねた。
この室内にいるメンバーの中で、一番カイと親しいのはヴィンセントだ。
「ヴィンセントは、カイからなにか聞いているか?」
「申し訳ございません。本日カイと接触する機会がございませんでしたので、詳しくはなにも」
「そうか……」
「カイの様子を知りたいのでしたら、騎士見習いたちに聞いた方がいいかもしれませんね。ここ数日、カイと一番接しているのは彼らでしょうから」
ふむ、と返事のような、ただの相槌のような声を上げて、アレクシスが腕を組む。
わざわざ騎士たちに聞くようなことでもないのでは、と思案しているのかもしれない。
そこへ、入口の扉が開かれ、誰かが入室してきた。
噂をすればなんとやら、カイ本人がやってきたのだ。
アレクシスはカイの姿を見かけると、わざわざ運動場や騎士寮に向かう必要もなくなったことにホッとし、カイに声をかける。
「ああ。ちょうどよかった、カイ。お前に聞きたいことが――」
「……アレクシス様」
主人の言葉を遮る無礼を働くカイに、アレクシスは一瞬不快そうに眉根を寄せる。
だが次の瞬間、アレクシスはカイの異変に気付いたようだ。
アレクシスの服や髪は乱れたままだ。姿勢は老人のように折れ曲がり、終始うつむいている。
目は泣きはらしたのか真っ赤に充血し、声に覇気がまったくない。
快活で健康的な普段のカイとは、似ても似つかない。レイチェルがなにかおかしいと、必死に訴えるのもうなずける。
カイはうつむいた視線をわずかに上げると、アレクシスに力なくこう言った。
「お願いです。……おれを側近から外してください」
私はレイチェルをダシにすることにした。
決して噓を言っているわけではない。
「アンタの友達? あの平民の?」
アレクシスが一瞬目を細める。
アレクシスはやはり、聖女候補であるステラの様子が気になるらしい。
私は首を横に振って、否定した。
「いえ、レイチェルさんという男爵家のご令嬢です。一緒に食事をしているお友達の一人ですよ」
「――ああ。あの女子会とかいうやつか。そういえば言っていたな」
急に興味を失ったように、アレクシスが全身の力を抜いた。
「そのレイチェルさんが、カイの様子が気になって、食事もまともに手がつかない有様なんです。カイのためというよりは、レイチェルさんの不安を取り除くために調べてみたいんですよ」
「はあ、女の友情というわけか? よくわからんが……まあ、いいか」
アレクシスはどうでもよさそうに肩をすくめて、カイを調べることに許可を出してくれた。
それでも、私がまたなにかしでかさないか不安なようで、きっちり釘を刺すことは忘れない。
「ただあまりことを荒立てるなよ。下手に大事にでもしたら、恥をかくのはカイだからな。俺の側近を困らせないでやってくれ」
「はい、わかってます。調べてみるだけですよ」
よかった。理由を聞かれて一瞬ひやりとしたが、これでおおっぴらにカイの件を調べられる。
アレクシスは、後ろに控えていたヴィンセントに振り返って尋ねた。
この室内にいるメンバーの中で、一番カイと親しいのはヴィンセントだ。
「ヴィンセントは、カイからなにか聞いているか?」
「申し訳ございません。本日カイと接触する機会がございませんでしたので、詳しくはなにも」
「そうか……」
「カイの様子を知りたいのでしたら、騎士見習いたちに聞いた方がいいかもしれませんね。ここ数日、カイと一番接しているのは彼らでしょうから」
ふむ、と返事のような、ただの相槌のような声を上げて、アレクシスが腕を組む。
わざわざ騎士たちに聞くようなことでもないのでは、と思案しているのかもしれない。
そこへ、入口の扉が開かれ、誰かが入室してきた。
噂をすればなんとやら、カイ本人がやってきたのだ。
アレクシスはカイの姿を見かけると、わざわざ運動場や騎士寮に向かう必要もなくなったことにホッとし、カイに声をかける。
「ああ。ちょうどよかった、カイ。お前に聞きたいことが――」
「……アレクシス様」
主人の言葉を遮る無礼を働くカイに、アレクシスは一瞬不快そうに眉根を寄せる。
だが次の瞬間、アレクシスはカイの異変に気付いたようだ。
アレクシスの服や髪は乱れたままだ。姿勢は老人のように折れ曲がり、終始うつむいている。
目は泣きはらしたのか真っ赤に充血し、声に覇気がまったくない。
快活で健康的な普段のカイとは、似ても似つかない。レイチェルがなにかおかしいと、必死に訴えるのもうなずける。
カイはうつむいた視線をわずかに上げると、アレクシスに力なくこう言った。
「お願いです。……おれを側近から外してください」
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
原産地が同じでも結果が違ったお話
よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。
視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる