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第二章 カイ攻略
入学式と選別の聖杯・1
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しばらくすると、クリスティアンが婚約者をつれて講堂に入ってきた。少し離れたところに、婚約者と並んで座る。
実は、こんな近くでクリスティアンの婚約者を見るのは初めてだ。穏やかに微笑む姿は、いかにも深窓の貴族令嬢といった様子だった。学園では同級生になる以上、その内会話する機会もあるかもしれない。
ふと、壇上に大きなツボというか、横に広がったグラスのようなものが置かれているのが目に付いた。
私はアレクシスに尋ねる。
「あれはなんですか? あの金色のグラスのようなものなんですが……」
アレクシスは、私の指さす方を確認すると、ああと理解したようにうなずく。
「あれは聖杯だな」
「聖杯?」
「触れた者の魔力量と属性を調べる魔術具だ。手を触れると、聖杯の中に魔力が水のようになって出てくるらしい。水の量で魔力量を、水の色で属性がわかるのだそうだ」
おお、すごくファンタジーっぽいアイテムのようだ。
わざわざ舞台上に置いてあるということは、入学式の最中か、その後に使うのだろう。
「自分の魔力が調べられるなんて楽しそうですね。私、自分の属性を知らないんです」
「なんだ、ずいぶん気楽そうだな。あれは別名『選別の聖杯』とも言われて……あ、いや」
「選別の聖杯?」
アレクシスは言葉を濁すが、そこまで言われては気になってしまうだろう。
私が目力で続きを促すと、アレクシスは少し渋りながらも「……まあ、アンタもいずれ王族になる身だしな」と小さく肩をすくめる。
「まず、属性の種類は知っているな」
「はい。火・水・風・土・雷・光・闇の七つですよね」
私はうなずいた。
七つの属性は一週間に対応している。月曜日を火の日、火曜日を水の日、水曜日を風の日……といったように呼ぶのだ。前世の呼称と微妙にずれているので、覚えるのにだいぶ苦労した。
「そうだ。その七属性はさらに二つ分類することができる。火から雷までが『精霊属性』、光と闇が『神属性』だ。精霊属性の魔術は精霊の、神属性の魔術は神の力を借りることで発動する」
「へえ、それは初めて聞きました」
つまり、この世界には人間以外に、精霊と神が存在しているのか。
教会があるから、神の概念があることは気付いていたけれど、てっきり前世と同じく偶像崇拝をしているのだと思っていた。
「ずいぶんお詳しいですね。私は魔術について、学院に入るまで学ぶことも禁じられていたのですが、アレクシス王子は違うんですか?」
「普通の貴族はそうだろうな。まともに力の使い方を知らない子どもが魔術を暴発させると、精霊や神々の怒りを買う可能性がある。特に神々の怒りは国一つくらい滅ぼしかねない。だから、学院に通うまで教えることは禁じられているそうだ」
「国一つ……ですか」
想像以上にスケールの大きな話が出てきて、私は少しビビる。
魔術の暴発と聞いて、せいぜい科学の実験で小規模な爆発が起こるような事故ぐらいだと思っていたのだが、ずっと規模が大きいようだ。
私が顔を引きつらせたことに気付いたのか、アレクシスが安心させるように苦笑した。
「まあ、そう心配するな。そもそも神属性持ちはめったに出ない。ただ王族はその血筋から神属性を得ることが多いため、あらかじめ専属魔術師の元で教育をし、属性を調べておくのだ」
「なら、アレクシス王子はもう自分の属性を知っているのですか?」
「ああ。オレは火と闇だ」
アレクシスが答える。
なるほど。精霊属性と神属性、一つずつあるわけか。
しかし火と闇なんて、男の子なら喜びそうな属性なのに、なぜかアレクシスの表情は浮かない。
「……言っておくが、他人の属性を尋ねるのはあまり褒められた行為じゃないぞ。これは、アンタだから教えているんだからな」
「私だから?」
私が理由を尋ねると、アレクシスは露骨に目をそらした。
意味がわからずアレクシスを凝視していると、やがてアレクシスは顔を真っ赤にしながら、しどろもどろに話し出す。
「その……オ、オレたちは将来……子を、産むだろう? 子どもは、親の属性を引き継ぐことが多いから……」
あまりにその反応が初々しくて、恥ずかしいような気まずいような、いたたまれない気持ちになってくる。
十二歳の子どもになんてことを言わせてしまったんだと反省しながら、私は「……なるほど」と間抜けな返事しかできなかった。
実は、こんな近くでクリスティアンの婚約者を見るのは初めてだ。穏やかに微笑む姿は、いかにも深窓の貴族令嬢といった様子だった。学園では同級生になる以上、その内会話する機会もあるかもしれない。
ふと、壇上に大きなツボというか、横に広がったグラスのようなものが置かれているのが目に付いた。
私はアレクシスに尋ねる。
「あれはなんですか? あの金色のグラスのようなものなんですが……」
アレクシスは、私の指さす方を確認すると、ああと理解したようにうなずく。
「あれは聖杯だな」
「聖杯?」
「触れた者の魔力量と属性を調べる魔術具だ。手を触れると、聖杯の中に魔力が水のようになって出てくるらしい。水の量で魔力量を、水の色で属性がわかるのだそうだ」
おお、すごくファンタジーっぽいアイテムのようだ。
わざわざ舞台上に置いてあるということは、入学式の最中か、その後に使うのだろう。
「自分の魔力が調べられるなんて楽しそうですね。私、自分の属性を知らないんです」
「なんだ、ずいぶん気楽そうだな。あれは別名『選別の聖杯』とも言われて……あ、いや」
「選別の聖杯?」
アレクシスは言葉を濁すが、そこまで言われては気になってしまうだろう。
私が目力で続きを促すと、アレクシスは少し渋りながらも「……まあ、アンタもいずれ王族になる身だしな」と小さく肩をすくめる。
「まず、属性の種類は知っているな」
「はい。火・水・風・土・雷・光・闇の七つですよね」
私はうなずいた。
七つの属性は一週間に対応している。月曜日を火の日、火曜日を水の日、水曜日を風の日……といったように呼ぶのだ。前世の呼称と微妙にずれているので、覚えるのにだいぶ苦労した。
「そうだ。その七属性はさらに二つ分類することができる。火から雷までが『精霊属性』、光と闇が『神属性』だ。精霊属性の魔術は精霊の、神属性の魔術は神の力を借りることで発動する」
「へえ、それは初めて聞きました」
つまり、この世界には人間以外に、精霊と神が存在しているのか。
教会があるから、神の概念があることは気付いていたけれど、てっきり前世と同じく偶像崇拝をしているのだと思っていた。
「ずいぶんお詳しいですね。私は魔術について、学院に入るまで学ぶことも禁じられていたのですが、アレクシス王子は違うんですか?」
「普通の貴族はそうだろうな。まともに力の使い方を知らない子どもが魔術を暴発させると、精霊や神々の怒りを買う可能性がある。特に神々の怒りは国一つくらい滅ぼしかねない。だから、学院に通うまで教えることは禁じられているそうだ」
「国一つ……ですか」
想像以上にスケールの大きな話が出てきて、私は少しビビる。
魔術の暴発と聞いて、せいぜい科学の実験で小規模な爆発が起こるような事故ぐらいだと思っていたのだが、ずっと規模が大きいようだ。
私が顔を引きつらせたことに気付いたのか、アレクシスが安心させるように苦笑した。
「まあ、そう心配するな。そもそも神属性持ちはめったに出ない。ただ王族はその血筋から神属性を得ることが多いため、あらかじめ専属魔術師の元で教育をし、属性を調べておくのだ」
「なら、アレクシス王子はもう自分の属性を知っているのですか?」
「ああ。オレは火と闇だ」
アレクシスが答える。
なるほど。精霊属性と神属性、一つずつあるわけか。
しかし火と闇なんて、男の子なら喜びそうな属性なのに、なぜかアレクシスの表情は浮かない。
「……言っておくが、他人の属性を尋ねるのはあまり褒められた行為じゃないぞ。これは、アンタだから教えているんだからな」
「私だから?」
私が理由を尋ねると、アレクシスは露骨に目をそらした。
意味がわからずアレクシスを凝視していると、やがてアレクシスは顔を真っ赤にしながら、しどろもどろに話し出す。
「その……オ、オレたちは将来……子を、産むだろう? 子どもは、親の属性を引き継ぐことが多いから……」
あまりにその反応が初々しくて、恥ずかしいような気まずいような、いたたまれない気持ちになってくる。
十二歳の子どもになんてことを言わせてしまったんだと反省しながら、私は「……なるほど」と間抜けな返事しかできなかった。
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