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第一章 アレクシス攻略
勉強対決・1
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「お二人とも準備はよろしいでしょうか。それでは勝負のルールを説明いたします」
審判役の侍従は、アレクシスとクリスティアンが席につくのを確認すると、話し始める。
審判にはひいきや不正をしないよう、王子たちとは無関係な侍従を選定してあり、そこは事前に確認済みだ。
「勝負は算学対決です。私が式を読み上げますので、答えがわかった方から口頭でお答え下さい。正解であった場合、その方に一点が与えられます。不正解の場合は、相手の方が誤答するまで答えられません。勝負は全部で十五問。最終的に得点数の多かった方の勝利となります」
アレクシスが侍従の言葉にうなずく。
クリスティアンも異論はないようだ。説明が続けられる。
「計算をする際は、手元の用紙を使用して構いません。ただし、計算機やあらかじめ計算式を書いたものを持ち込むことは禁止とします。また他者に教えを求めたり、他者が答えを教えることも禁止です。これらの不正が認められた場合、即失格となり、無条件で相手の勝利となります」
審判がカンニング禁止の旨を伝えた後、「なにか質問はございますか」と尋ねると、クリスティアンが静かに手を上げる。
「はい、なんでしょう。クリスティアン殿下」
「口頭で答えるとあるけれど、両者同時に回答した場合はどうなるのかな?」
「完全に同時の場合、その問題は無効となります。得点は入りません」
「ということは、最終問題で同点になる可能性はあるのだね。十五問を終えて同点だった場合、勝負が延長されることは?」
「ございません。同点の場合、引き分けとなります」
「あらかじめ計算式を書いたものの持ち込みは禁止されているけれど、勝負が始まってから複数の式をこの紙に書き込むことは許されるのかい?」
「勝負が始まってからでしたら、問題ございません」
「回答の前に、えっと……などの言葉で考える時間を引き延ばした場合はどうなる?」
「答え以外の発言は無効です。また、相手の答えが聞こえないように大声を出すなど、悪質な妨害行為をした場合は、失格といたします」
「悪質か……。たとえば不意のアクシデントで大声を出してしまった場合も、悪質となってしまうのかい? その判断は誰がするのかな?」
「審判として、私が公正に判断いたします。私の判断に不服があれば申し立ていただいても構いませんが、王族の御前で下す判断の重さというものを承知していただければ幸いです」
侍従がそう言うと、クリスティアンがチラリと、エルドレッド王の方を見る。
王の目の前で不正なんてできるわけがないだろう、と侍従は言っているのだ。
納得したように、クリスティアンがうなずく。
「……他にご質問は?」
「もうないよ。ありがとう」
満足したのか、クリスティアンが笑顔で終了を告げる。
怒濤の質問に耐えきった侍従が、背後の王に気付かれないよう、そっと息を吐いた。
アレクシスはといえば、その様子を唖然として見つめていたようだった。
気持ちはわかるが、試合が始まる前から相手のペースに飲まれていそうで、少し心配になる。
しかし、クリスティアンも咄嗟によくあれだけの質問が浮かんでくるものだ。
質問のいくつかは、ルールの裏をかくような不正ができないか検討したうえで出てきたものだろう。アレクシスより、よほどクリスティアンの方が悪役らしいのではないだろうか。
いや……逆か。
勝負の前に質問という形で、クリスティアンは教えてくれたのだ。
たとえば勝負が始まったあとで、計算式を書いておくなんて発想は私には出なかった。
ルール違反でなければ問題ないのだ。城で王族として生きていく限り、ある程度のしたたかさは必要なのかもしれない。
この勝負が終わってからは、アレクシスに不正にならない程度にズルをする方法を教えておくべきだろうか。
私がぼんやりとそう考えている間に、勝負は始まった。
「それでは勝負を開始いたします。一問目、8+きゅ――」
「17だね」
侍従がすべて言い切るより先に、クリスティアンが答える。
予想外の展開に、アレクシスはぽかんと口を開けていた。
「……クリスティアン王子の正解です」
侍従が少し嫌そうに、正解だと告げる。
たしかに問題を読み終えるより先に答えてはいけないとは言われていない。ルールの範囲内だ。
とはいえ先ほどあれだけ質問攻めをしたのに、問題を読み終える前の回答がセーフかどうか確認されなかったのだ。勝負で先手を取るために、わざと質問しなかったのは明らかである。
本当にどっちが悪役だ、この腹黒王子め!
審判役の侍従は、アレクシスとクリスティアンが席につくのを確認すると、話し始める。
審判にはひいきや不正をしないよう、王子たちとは無関係な侍従を選定してあり、そこは事前に確認済みだ。
「勝負は算学対決です。私が式を読み上げますので、答えがわかった方から口頭でお答え下さい。正解であった場合、その方に一点が与えられます。不正解の場合は、相手の方が誤答するまで答えられません。勝負は全部で十五問。最終的に得点数の多かった方の勝利となります」
アレクシスが侍従の言葉にうなずく。
クリスティアンも異論はないようだ。説明が続けられる。
「計算をする際は、手元の用紙を使用して構いません。ただし、計算機やあらかじめ計算式を書いたものを持ち込むことは禁止とします。また他者に教えを求めたり、他者が答えを教えることも禁止です。これらの不正が認められた場合、即失格となり、無条件で相手の勝利となります」
審判がカンニング禁止の旨を伝えた後、「なにか質問はございますか」と尋ねると、クリスティアンが静かに手を上げる。
「はい、なんでしょう。クリスティアン殿下」
「口頭で答えるとあるけれど、両者同時に回答した場合はどうなるのかな?」
「完全に同時の場合、その問題は無効となります。得点は入りません」
「ということは、最終問題で同点になる可能性はあるのだね。十五問を終えて同点だった場合、勝負が延長されることは?」
「ございません。同点の場合、引き分けとなります」
「あらかじめ計算式を書いたものの持ち込みは禁止されているけれど、勝負が始まってから複数の式をこの紙に書き込むことは許されるのかい?」
「勝負が始まってからでしたら、問題ございません」
「回答の前に、えっと……などの言葉で考える時間を引き延ばした場合はどうなる?」
「答え以外の発言は無効です。また、相手の答えが聞こえないように大声を出すなど、悪質な妨害行為をした場合は、失格といたします」
「悪質か……。たとえば不意のアクシデントで大声を出してしまった場合も、悪質となってしまうのかい? その判断は誰がするのかな?」
「審判として、私が公正に判断いたします。私の判断に不服があれば申し立ていただいても構いませんが、王族の御前で下す判断の重さというものを承知していただければ幸いです」
侍従がそう言うと、クリスティアンがチラリと、エルドレッド王の方を見る。
王の目の前で不正なんてできるわけがないだろう、と侍従は言っているのだ。
納得したように、クリスティアンがうなずく。
「……他にご質問は?」
「もうないよ。ありがとう」
満足したのか、クリスティアンが笑顔で終了を告げる。
怒濤の質問に耐えきった侍従が、背後の王に気付かれないよう、そっと息を吐いた。
アレクシスはといえば、その様子を唖然として見つめていたようだった。
気持ちはわかるが、試合が始まる前から相手のペースに飲まれていそうで、少し心配になる。
しかし、クリスティアンも咄嗟によくあれだけの質問が浮かんでくるものだ。
質問のいくつかは、ルールの裏をかくような不正ができないか検討したうえで出てきたものだろう。アレクシスより、よほどクリスティアンの方が悪役らしいのではないだろうか。
いや……逆か。
勝負の前に質問という形で、クリスティアンは教えてくれたのだ。
たとえば勝負が始まったあとで、計算式を書いておくなんて発想は私には出なかった。
ルール違反でなければ問題ないのだ。城で王族として生きていく限り、ある程度のしたたかさは必要なのかもしれない。
この勝負が終わってからは、アレクシスに不正にならない程度にズルをする方法を教えておくべきだろうか。
私がぼんやりとそう考えている間に、勝負は始まった。
「それでは勝負を開始いたします。一問目、8+きゅ――」
「17だね」
侍従がすべて言い切るより先に、クリスティアンが答える。
予想外の展開に、アレクシスはぽかんと口を開けていた。
「……クリスティアン王子の正解です」
侍従が少し嫌そうに、正解だと告げる。
たしかに問題を読み終えるより先に答えてはいけないとは言われていない。ルールの範囲内だ。
とはいえ先ほどあれだけ質問攻めをしたのに、問題を読み終える前の回答がセーフかどうか確認されなかったのだ。勝負で先手を取るために、わざと質問しなかったのは明らかである。
本当にどっちが悪役だ、この腹黒王子め!
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