にゃがために猫はなく

ぴぴぷちゃ

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第2話 ミニぴぴぷちゃ号

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「はぴ~! 起きて!」
「ふあ? ぴぴ~? どうしたの~?」
「そろそろ妖精軍と子鬼達の戦闘が始まるわ。私も子鬼達と遊びたいのだけれど」
「私も遊ぶ~、早くいこ~」
「は~い」

 うう~ん、我輩は伸びをしながら、ミニぴぴぷちゃ号の船長席兼操縦席に腰を下ろす。そう、我輩はこの宇宙船ミニぴぴぷちゃ号の船長なのである。さてと、出発しようかな。普通に考えたら戦場は、子鬼どもの亜光速ゲートが出た1000万キロ地点と惑星アルファの中間地点にあたる、500万キロ地点といったところだな。まあ、子鬼の宇宙船より妖精軍の宇宙船のほうが足が速いだろうから、多少は向こうだろうがな。とはいえ、我輩のミニぴぴぷちゃ号にとってはその程度の距離など無いも同然。すぐに追いついて見せよう。ミニぴぴぷちゃ号はその短い4本の足をバタバタと動かしながら、すさまじい速度で空を、そして宇宙を駆けて行く。

 我輩の相棒、ぴぴとぷうは、ミニぴぴぷちゃ号に搭載されている猫型バトルパワードスーツ通称、猫型BPS、切り裂き王と噛み付き王を操るパイロットだ。我輩がミニぴぴぷちゃ号の操縦席に腰を下ろしたの同様、ぴぴとぷうもそれぞれの猫型BPSに乗り込み、出撃の時を待つ。

 我輩のミニぴぴぷちゃ号は瞬く間に距離をつめ、すぐに戦闘宙域の目前まで到達した。

「ぴぴ、ぷう、もうすぐ戦闘宙域だ」
「ええ、こちらでも把握済みよ。切り裂き王で出撃するわ。カタパルトの用意を」
「わたしの噛み付き王もぴぴに続いて出るね!」
「了解だ」

 ぴぴの切り裂き王をカタパルトにセットし、ミニぴぴぷちゃ号のハッチを開ける。ハッチとはいっても外観的にはただの口だが。

「ぴぴ、わかっていると思うが、油断と無理は禁物だ」
「当然よ。出るわ!」

 ミニぴぴぷちゃ号は毛玉を吐き出すような形で、ケホッとかわいらしく切り裂き王を発進させる。そして、すぐさまカタパルトにぷうの噛み付き王をセットする。

「ぷう」
「大丈夫、油断と無理をするな。でしょ?」
「うむ、わかっているのならよし」
「じゃあ、私の噛み付き王も、いくよ!」

 同じようにケホッと毛玉を吐き出すようにぷうの噛み付き王も発進させる。

 ぴぴの切り裂き王とぷうの噛み付き王。どちらも同じ猫型の機体だが見た目も性能もぜんぜん違う。ぴぴの切り裂き王は、ぴぴの外見にあわせ綺麗な緑色の目にお腹が白いさばとら柄のカラーリングだ。そして性能は、ぴぴのハンティングスタイルにあわせて、隠れて接近して、高速で飛び出し、必殺の爪で倒すという高速近距離型だ。

 そしてぷうの噛み付き王は、ぷうの外見にあわせ、目の色はヘーゼルで、カラーリングはお腹が白いきじとら柄だ。戦闘スタイルも、素早く動くよりもどっしりと構えるのが好きで、爪で引っかくよりも噛みついたり、大声で鳴くのが大好きなぷうにあわせ、牙と、口から出せるビームの威力を重視した性能になっている。シルエットとしても、ぷうの噛み付き王のほうがちょっとだけもこもこしている。そして、大きさの分だけ少しパワフルだ。

 ちなみに、大きさは切り裂き王も噛み付き王も、おおよそ体長10m、尻尾の長さ5m、肩高5mくらいだ。バトルスーツのくせに大きすぎるって? そこは、あれだ。より強力な武器を、より分厚い装甲を、などなどやっていたら、肥大化してしまったのだ。うむ、これは不可抗力というものだな。

 さて、こちらの戦闘準備も整ったし、そろそろギルド軍、もといアライアンスの通信範囲に入るな。とりあえず現状の把握でもするか。ということで、ハンターギルドでもらった番号札をコンソールにセットし、ハンターギルド軍の交信にアクセスする。すると、早速いろいろな情報が飛び込んでくる。

「こちら4班、2人やられた。援軍を求む」
「こちら11班、大量の子鬼に囲まれそうだ。援軍を頼む」
「こちら7班、だめだ全滅する。後は頼む」
「こちら20班、敵の艦に取り付きたい、支援射撃を頼む」

 すでに戦闘に突入していたか。ふむ、それにしても押されてるようだな。

「あ~、くそ。どいつもこいつも援軍援軍って、手が足りねえってんだよ! 妖精軍の連中はなにやってんだよ!」
「ギルマス、妖精軍宇宙防衛部隊より通信です。1000m級の強襲揚陸艦が前線を迂回して突破、予備兵力を集中してこれの撃破を手伝ってほしい。だそうです!」
「ギルマス、こちらはハンターギルド本部より通信。巨大強襲揚陸艦を撃破しろとの指示です!」
「はあ~!? 妖精軍どころかギルド本部までこっちに頼むってか、ふっざけんな! しかも予備兵力だと? どこにあるんだよ、そんなもん!」
「ですが、あれにここを抜かれると、いろいろまずいですよ」
「あああああ、くそったれがあああ!」

 ふむ、ここはそっと電源を切っておくか。

「お、おい22班。お前ら手空いてるよな。ちょっと軍の援護に行ってこいや!」

 あう。絶対嫌だ。こんな外れくじは引きたくない。

「いいよ~。その代わり撃破したら、報酬は100万倍ね~!」
「がっはっは! いいぜ。撃破できたら100万倍といわずに、当初の3倍込みで300万倍払ってやるよ!」

 あうあうあう。ぷうさんや、何勝手におっけいしてるのさ。でもまあ、300万倍はおいしいな。

「やったね、ぴぴ、はぴ、300万倍だよ。ちょっと張り切っていこ~!」
「ふふ、そうね」

 く、ぴぴも300万倍でやる気になっちゃったようだな。2人の猫型BPSは、まるで地上を駆けるかのように宇宙を駆けて行く。

 このまま置いてかれるのも困るので、我輩も付いていく。ミニぴぴぷちゃ号は言ってみれば航空母艦、攻撃能力が無いのだ。よって、ぴぴとぷうから離れた状態で敵に出会うと、体当たりするか逃げるしか手がなくなってしまう。要するにピンチになるのだ。幸い防御力と機動力は高いので、何とかなるがな。

 さて、完全に戦闘宙域へと突入したことだし、敵の確認でもするかな。敵は、なるほど巨大な子鬼の生首の様な宇宙船が10隻以上、いや、20隻以上いるな。しかし、なにが攻めてきたのか、実にわかりやすい見た目をしている。丸い顔に1本、もしくは2本の角、もじゃもじゃの髪、目、耳、鼻、口が付いており、口には牙も生えている。うむ、これぞ子鬼の生首だな。

 う~ん、それにしても、測定器によると直径1000mもあるのか、あの生首ども。大きすぎじゃないか? それに、ちょっと小さめな直径500mや直径300mの生首もいっぱいいるな。それで、生首たちが航空母艦的な役割で、そこから全長10m、3頭身くらいの丸みを帯びたボディを持った、子鬼型の戦闘用パワードスーツ軍団を大量に展開しているってわけね。さすがは質より量を重視する子鬼軍団だ、すさまじい物量だな。

 それに対する我らの戦力は、妖精軍の1000m級の花型大型宇宙船が3隻に、ギルド本部の1000m級が1隻か。より小型の500m級や300mはそれなりにいるが、レーダーを見る限り、物量では大敗だな。これでは人手不足も止むなしか。

 しっかし、子鬼の生首の口から無数の子鬼型BPS軍団が出てくる様は、ちょっと気持ちが悪いな。ん? ミニぴぴぷちゃ号も口から発進しただろって? 一緒にしないでほしい。そもそもミニぴぴぷちゃ号と子鬼の生首とでは、かわいさがぜんぜん違う! それに、1機1機を毛玉を吐き出すようにかわいらしくケホッと吐き出すミニぴぴぷちゃ号と、口から大量の子鬼型BPSを出す子鬼の生首型宇宙船とでは出撃方法のかわいらしさもだいぶ違う。っと、さてさて、1000m級の強襲揚陸艦ってくらいだから、大きな生首のどれかがターゲットなんだろうけど、そもそもどれが強襲揚陸艦なんだろう? 我輩の目には全部同じ子鬼の首にしか見えない。

「発見したわ、あれね」
「よ~っし、300万倍だ~!」
「ええ、さくっと任務をこなしましょうか」

 だが、ぴぴとぷうはあっさりと強襲揚陸艦を識別した。そして、たかたかたかっと走っていってしまう。え? なんでわかったの? っと、やばいやばい、早く追いかけないと、置いてかれる。

 ぴぴとぷうはどんどん進んでいき、すぐに乱戦状態になっている戦場にまで到達した。だが、ぴぴもぷうも超一流といってもいいハンター達だ。速度を落とすことなく、次々と子鬼型BPSを撃破しながら進んでいく。ぴぴの切り裂き王がその手を振るえば子鬼型BPSが切り裂かれ、ぷうの噛み付き王が口を開けば、子鬼型BPSに風穴が空く。まるでゲームの中で無敵アイテムでも取って、敵の密集地帯に突撃しているかのような勢いで敵が撃破されていく。そして、そんな2人の作った子鬼型BPSの残骸の道を我輩が飛んでいると、ミニぴぴぷちゃ号の前を横切る1体の妖精型BPSが現れた。

「うおっと、あぶないあぶない。危うくぶつかるかと思ったよ」

 あぶないあぶない、機動力に優れるミニぴぴぷちゃ号だから止まれたようなものの、普通の宇宙船だったら事故ってたではないか。ミニぴぴぷちゃ号は速さだけでなく、頑丈さにも定評があるので、こっちが壊れることは無いだろうけど、妖精型BPSはバトルパワードスーツとしては小型だからな、もしぶつかっていたら、大破してもおかしくない。

 どのくらい小型かというと、妖精型BPSはたったの3mくらいの大きさしかない。つまり、直径50mのミニぴぴぷちゃ号からしたら、10分の1以下の大きさだ。まあ、妖精族は中身の大きさがだいたい30cmくらいなので、3mでもBPSとしては十分大きいが。

 ちなみに妖精型BPSの特徴をあげるとすれば、背中に光の羽を背負っているところだろうか。どういう原理かは不明だが、この羽のおかげで高速移動が出来るようだ。そして武装は、手に握られている銃だけか? ふむ、デザインからいって、サブマシンガン系ではなく、アサルトライフル系だな。こういった野戦においては、妥当なチョイスだろう。

「おい、お前、避けろ~!」
「ん?」

 目の前を横切った妖精型BPSのパイロットから、突如通信が入る。すると次の瞬間、まばゆい光のシャワーがミニぴぴぷちゃ号を襲った。

「うわ、まっぶし!」

 くう、あまりに眩しくて思わず目をつぶっちゃったよ。・・・・・・ぱちぱち、ふう、やっと目が慣れてきたか、って。

「みぎゃ~!」

 目が慣れたと思ったら、いきなり目の前に大量の子鬼型BPSの群れが現れた。くう、どうやら目の前を横切った妖精型BPSは、子鬼との戦闘中だったようだ。妖精型BPSを狙って放った子鬼の目潰し攻撃に、ミニぴぴぷちゃ号があたっちゃったってところかな? って、そんなこと考えてる場合じゃないな、ミニぴぴぷちゃ号に押し寄せる、この大量の子鬼型BPSの群れをどうにかしなければ!

「俺がやる! 動くな!」

 すると、先ほどの妖精型BPSからビームが連射され、ミニぴぴぷちゃ号に群がろうとしていた子鬼型BPSの群れを蜂の巣にした。

 なかなかやるな、こいつ。子鬼型BPSは個々の能力は低いとはいえ、その数の暴力はなかなかに脅威だ。しかも、個々は弱いとはいえ、それでも全高10mくらいある。全高3mしかない妖精型BPSと比較すると大型だ。しかも、子鬼型BPSは3頭身くらいの、丸みを帯びたかわいいデザインなので、それなりに厚みもある。にも関わらず、妖精型BPSの銃から放たれたビームは、子鬼型BPSを容易く貫通していた。

「ふ~、助かったぜ。ありがとうよ。流石に今回はやばかったぜ」
「ん? なにがだ? 子鬼どもはあっさり殺していただろ?」
「違う違う、いまもぴかぴか光ってるこの光だよ」
「この目潰しがどうかしたのか?」

 そう、さっきからちょくちょくこの目潰し光線がミニぴぴぷちゃ号にあたるせいで、極めて不愉快だ。この妖精はちゃっかりした性格なのだろう、最初の時からずっとミニぴぴぷちゃ号に隠れて、この光が当たらないようにしてる。

「この光は目潰しじゃねえよ。子鬼どもの大型生首型艦の角から発射される、子鬼ビームって呼ばれてる長距離ビーム兵器だ」
「ん? ってことはもしかしてお前、我輩のミニぴぴぷちゃ号を盾にしてるってのか?」
「いや、それに関しては謝るよ。俺も最初は避けろって注意したろ? でも、どうやらその船の防御力は高そうだな」
「確かにミニぴぴぷちゃ号の防御力は高いけど、お前が我輩の目の前を横切らなきゃ、そもそも当たりもしなかったからな!」

 ミニぴぴぷちゃ号の速度をなめてもらっては困る。子鬼風情のビームに、そうそう追いつかれてたまるか! でもまあ、この戦場にいる時点で外れクジを引かされた連中だろうからな。心の広い我輩は、許してやることにした。

「それより虎の22、あの強襲揚陸艦に向かってるのか?」

 虎の22? ああ、そうか、虎のギルマスの軍の22番だからそういう識別番号が出てるのか。え~っと、相手の識別番号は。アの3か。ん? いつの間にかぴぴからの通信が入っていたようだな。

『はぴへ、先に行ってるわね』
「って、アの3、お前のせいで置いてかれちゃったじゃん! 我輩は相棒と一緒にあれに向かってたのに!」
「まあ、落ち着けよ。あの強襲揚陸艦のほうに行くなら、一緒に行かせてくれないか?」
「勝手に行けばいいだろ?」
「そういうなって、あの子鬼ビームが俺達にとっては厄介なんだよ。それに、人数多いほうが子鬼の群れに出会ったときに安心だろ? 見たところ、まともな攻撃兵器を持ってないみたいだしよ。そのボディに貼り付いてる手じゃあ、爪だってまともに使えないだろ?」
「う~ん、しょうがない。許可しよう」
「お、悪いな。よろしく頼むぜ。たいちょ~。この生首猫があの強襲揚陸艦まで連れてってくれるって!」
「おお、本当か。悪いな!」

 そして、ぞろぞろやってくる妖精型BPS達。なんでこいつら自分で行かないんだ? って、聞き捨てなら無いセリフをいいやがって。

「おい、誰が生首猫だ!」
「はあ? そんなの今はいいだろ。非常事態だぞ!」
「いいや、よくない。ミニぴぴぷちゃ号は世界一かわいい宇宙船だぞ!」
「あ~、悪かったな。前言を撤回する。この通りだ」

 まったく、ミニぴぴぷちゃ号の美的センスを理解できないとは、嘆かわしい。そんな話をこの目の前の妖精型BPS、アの3と話していると、妖精型BPSの集合が終わったようだ。総数で100体くらいだろうか。

「ところで、なんでこんなに大勢?」
「まあまあ、多いほうがいいって」
「はあ、しょうがないなあ」

 ん? 識別番号がアの1~100って、こいつら全員アの3の仲間か。

 こうして我輩は、戦場で妖精達と組むことになるのだった。

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