はんぶんにゃんこ

ぴぴぷちゃ

文字の大きさ
上 下
18 / 126

第18話 イーヅルーの街に迫る脅威

しおりを挟む
 湖の貴婦人という宿屋に泊まり始めて1週間、私は我の世の春を謳歌していた。けど、そろそろ限界をむかえていた。

「ひ、ま、だ~! 景色は良いし、ご飯は美味しいし、お部屋にも宿にも何一つ文句ないけど、ひ、ま、だ~!」

 日本にいたころなら、宿泊費は払ったから1か月高級ホテルでダラダラしてていいよ、なんて言われたら、きっと小躍りして大はしゃぎしてたと思う。そして、実際超楽しく過ごせてたと思う。でも、テレビも映画もゲームもインターネットもないこの世界だと、す~っごく暇だ。

 じゃあ、買い物でもしたら? って思うかもしれないけど、その選択肢はない。だって、お家がないんだもん。買ったところで今以上に荷物が増えるのは、物理的に困る。それに、超VIP待遇なのはありがたいんだけど、出かけようとすると馬車とお付きの人がもれなくセットでついてくるのは、超庶民の私にはストレスでしかなかった。だから私は、結局宿に引きこもるという悲しい生活を送っていた。

「はあ、子供みたいに宿の中を探検してみたけど、それも最初の二日で終わっちゃったし、これからどうしよう? こんなことなら妖精の国のハンターギルドの図書室で、人間の休日の過ごし方でも学んでおけばよかったかな」

 ようやく人間として生活出来そうだったのに、もうすでに私は猫としての生活が恋しくなってきていた。狩りして思いっきり動きたい! アオイやガーベラさん、熊さんに会いたい!

「もういいや、ここは猫になって、久しぶりに思いっきり狩りをして、その後妖精の国のハンターギルドに遊びに行こう! 問題はどうやって行くかよね。フロントからどうどうと外出すると、もれなく馬車とお付きの人が来そうだし。ここは、ドアの外に開けないでくださいの札を出しておいて、窓から出てけばいいかな? うん、そうしよう」

 ぽふん!

 私は猫の姿になると、服をクローゼットに閉まって、隠蔽系の魔法を自身にかけてから、窓を開けて飛び出す。あ、でも開けっ放しはダメだと思うから、サイコキネシスでちゃんと閉めておく。

 さあ、このまま一気に北の崖の上の私の拠点まで戻って、思いっきり狩りをするぞ~! お~! 

 私は空中を北に向けて全力で走る。もういちいち降りてなんていられない。きっと隠蔽系の魔法を発動させっぱなしにすれば、猫ボディは小さいし、見つからないはずだ。

 街の上空を走ると、あっさり門の上空を飛び越え、北の森に入る、そして、小1時間どころか、30分くらいであっさり私の拠点に到着する。

 ああ、桜の木よ、湧き水の池よ、私の拠点よ。浮気しててごめんね。でも、私はちゃんと帰ってきたからね。

 そうだ、荷物の確認もしよう。うん、ガーベラさんから貸してもらったバッグも大丈夫だし、ポーションたちもみんな無事だね。

 荷物の無事を確認した私は思いっきり狩りをする。ただひたすらに、猫の、肉食獣の持つ狩猟本能そのままに次々と獲物を見つけ、倒し、そして食べていく。

「みいい~、ぎゃああ~!」

 どのくらいの時間がたっただろうか? ガーベラさんから買った調味料はもう無い、とっくに使い果たしていた。時間も、満腹感も忘れ、私は狩り、食べ続ける。何日たったのか、何食食べたのかさえわからない。ただ、心行くまで狩りを楽しんだ私の拠点には、こんもり小山が出来るくらいの戦利品がたまっていた。

 ちょっと張り切って狩りすぎたかもしれないね。とりあえず爪とか牙だけ集めてたけど、ずいぶんたまっちゃった。ここは、やっぱり妖精の国のハンターギルドへ行くべきだね!

 でも、ガーベラさんから借りてるこの魔法のバッグは、中が魔法で拡張されているとはいえ、1m四方の大きさしか無いんだよね。

 う~ん、何も全部持っていくことはないよね。ここは、入る分だけ入れて持っていこう。それと、ポーションも1すり鉢、1リットル分持ってこっと。

 私は荷物をまとめると、意気揚々と街へと帰る。ううん、行く! 私の帰る場所は桜の木と湧き水の池のある、私の拠点ともう心に決めているからね。

 たっぷり狩りをして、にゃんこパラダイスな妖精の国のハンターギルドへ行く。なんだろう、これこそがこの世界での私の幸せなのかもしれない! 気分も高揚してるし、きっと間違いない!



 私が小一時間かけてルンルン気分で街に行くと、何やら慌ただしい様子だった。門の上では兵隊さん達が大砲をいじっているし、街に出入りする商人さん達も、どこか慌ててる。それに、東門の外には、軍人さん達が隊列を組んで並んでいた。

 私はそんな軍人さん達を見ながら、とことこ門へと歩いていくと、いつもの門番さんことジェームズさんが大声で私を呼ぶ。

「アオイのガールフレンド~!」

 私はちょっと駆け足でジェームズさんの元へと向かう。

「お前も俺の言葉わかるよな? 俺じゃあまともに会話出来ねえから、急いで妖精の国のハンターギルドへ行ってくれ。今この街はちょっとやばいことになってるんだ」

 私はジェームズさんの言葉に頷くと、大急ぎで妖精の国のハンターギルドへ向かう。するとそこには、ガーベラさん、ボヌールさん、私に朝食の干し肉のことを教えてくれたペルシャさんと、コックさんの恰好の人がいた。

『こんにちは~』
「さくらちゃん!? ああ、良かった、無事だったのね。さくらちゃんの街の外の拠点を知らなかったから、ここのところペルちゃんに探してもらってたのよ。本当に無事でよかったわ」
『無事で何よりですわ』
「がっはっは! 俺は無事だって信じてたぜ! あんな奇麗に獲物を仕留められる奴が、そう簡単にやられないってな!」
「僕も心配しましたよ。ああ、直接顔を合わせるのは初めてでしたね。僕はここの料理人です。細かな自己紹介はまた今度ゆっくりとしましょうか。とりあえず、干し肉でもどうぞ」
『ありがとうございます』

 ガーベラさんだけじゃなく、ペルシャさんやボヌールさん、料理人さんまで心配してくれてたみたいだ。みんな優しいね。それと、やっぱり料理人さんの干し肉は美味しい。香辛料が無くなっちゃって、ここのところ生肉ばっかり食べてたから、なおのこと美味しさが身に染みる。

「さくらちゃん、干し肉はかじっていてもいいけど、今から大事な話をするから、ちゃんと聞いてね」
『はい!』
「今この街はモンスターの襲撃の危機にさらされているの。この街の東の山にミノタウロスっていう牛の頭を持つ2足歩行モンスターがいるのだけど、それがこちらに侵攻して来ていることがわかったの。だから、しばらくの間、街の外への外出は控えてほしいの」
『はい!』

 私は元気よくはいと答える。一瞬牛肉!? って思っちゃったのは、ここのところの狩りのせいだと思いたい。

 本来の私は日本の知識をも持つ、常識を持った賢い猫だ。君子危うきに近寄らずっていうことわざが日本にはあったし、危険と思われているモンスター相手に近づこうとは思わない。

「今、敵の規模をはじめ、いつぐらいにこの街に来るのかを他の子達が調べているの。さくらちゃんは危険だから街から出ないでね」
『はい!』
「ガーベラ、それなら例の件をさくらに任せたらどうだ? 街の中央から西を担当してもらう分には、危険はないだろ?」
「それもいいかもしれないわね。さくらちゃん、もしあなたがよかったらなんだけど、とある事件の調査をしてほしいの」
『事件の調査ですか?』

 おお~、事件の捜査! ちょっと楽しそう! このイージーにゃんこライフヘッドなら、名探偵さくらが出来るかもしれないしね!

「ええ、2週間ちょっと前にこの街に来た、腕のいい人間の薬師が、1週間以上行方不明らしいの。何でも、湖の貴婦人っていう名前のこの街最高の宿屋から、突如姿が消えたそうなのよ。服や剣を部屋に置いたままね」

 流石はイージーにゃんこライフヘッド、事件を聞いただけで解決出来てしまった! って、そんなこと言ってる場合じゃない。

 え~っとそのう、何と言いますでしょうか。そうだよね、開けないでって札を下げてても、1週間以上部屋から出てこなかったら、確認くらいするよね・・・・・・。

 どうしよう、ピンチすぎる! キジトラさん。お願いだから私に解決策を伝授してください!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

緑の魔法と香りの使い手

兎希メグ/megu
ファンタジー
ハーブが大好きな女子大生が、ある日ハーブを手入れしていたら、不幸な事に死亡してしまい異世界に転生。 特典はハーブを使った癒しの魔法。 転生した世界は何と、弱肉強食の恐ろしい世界。でも優しい女神様のおかげでチュートリアル的森で、懐いた可愛い子狼と一緒にしっかり準備して。 とりあえず美味しいスイーツとハーブ料理を振る舞い、笑顔を増やそうと思います。 皆様のおかげで小説2巻まで、漫画版もアルファポリス公式漫画で連載中です。 9月29日に漫画1巻発売になります! まめぞう先生による素敵な漫画がまとめて読めますので、よろしくお願いします!

龍王様の半身

紫月咲
ファンタジー
同じ魂を2つに分かたれた者。 ある者は龍王となり、ある者は人となった。 彼らはお互いを慈しみ、愛し、支え合い、民を導いていく。 そして死が2人を別つ時も、新たに生まれくる時も、彼らは一緒だった…。 ところがある時、新たに生まれた龍王の傍に、在るべきその半身がいない!? この物語は、愛すべき半身を求める龍王と、誤って異世界で生まれ、育ってしまった半身の女性、そして彼らを取り巻く龍と人との切なかったり、ツンデレだったり、デレデレだったりするお話です。 基本ご都合主義、最強なのに自覚なしの愛されヒロインでお送りします。 ◆「小説家になろう」様にて掲載中。アルファポリス様でも連載を開始することにしました。なろう版と同時に加筆修正しながら更新中。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

幼馴染み達がハーレム勇者に行ったが別にどうでもいい

みっちゃん
ファンタジー
アイ「恥ずかしいから家の外では話しかけて来ないで」 サユリ「貴方と話していると、誤解されるからもう2度と近寄らないで」 メグミ「家族とか気持ち悪、あんたとは赤の他人だから、それじゃ」 義理の妹で同い年のアイ 幼馴染みのサユリ 義理の姉のメグミ 彼女達とは仲が良く、小さい頃はよく一緒遊んでいた仲だった… しかし カイト「皆んなおはよう」 勇者でありイケメンでもあるカイトと出会ってから、彼女達は変わってしまった 家でも必要最低限しか話さなくなったアイ 近くにいることさえ拒絶するサユリ 最初から知らなかった事にするメグミ そんな生活のを続けるのが この世界の主人公 エイト そんな生活をしていれば、普通なら心を病むものだが、彼は違った…何故なら ミュウ「おはよう、エイト」 アリアン「おっす!エイト!」 シルフィ「おはようございます、エイト様」 エイト「おはよう、ミュウ、アリアン、シルフィ」 カイトの幼馴染みでカイトが密かに想いを寄せている彼女達と付き合っているからだ 彼女達にカイトについて言っても ミュウ「カイト君?ただ小さい頃から知ってるだけだよ?」 アリアン「ただの知り合い」 シルフィ「お嬢様のストーカー」 エイト「酷い言われ様だな…」 彼女達はカイトの事をなんとも思っていなかった カイト「僕の彼女達を奪いやがって」

処理中です...