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西の悪魔
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その夜、俺はいつも通り部屋で瑪瑙と食事を摂っていた。
「どうしたの?外なんか気にして」
そう瑪瑙に声を掛けられ、俺は無意識に窓から曇った外を眺めていた事に気付く。
「何でもないよ」
結構雷が近いな、翡翠は大丈夫だろうか?
「翡翠が心配?」
「……いや、あれには鷹雄がついているから」
お互いに納得して離れ離れになったものの、やはり雷が鳴ると、怯えて俺の布団に潜り込んで来た翡翠の事を思い出す。
可哀想で、可愛かった翡翠、俺は彼女が不安な時そばにいてやれない。
「でも凄く心配そうな顔してるよ?私との食事だって上の空で何にも食べてないじゃない」
瑪瑙に指摘された通り、俺は箸を握ったまま微動だにしていなかった。
「食べるよ。お前も俺にかまけていないでさっさと食べろ」
「冷たい言い方だよね?セキレイさんて翡翠がいなくなってからちょっとおかしいよ」
瑪瑙は箸を放って気だるそうに頬杖を着く。
冷たい言い方だったか?
そんなつもりはなかった。
「気のせいだよ、いきなり環境が変わって戸惑ってるだけだ」
「へー、環境ねぇ……」
瑪瑙は斜め加減で俺を訝しむ。
俺はこういった瑪瑙の探りを入れてくる様な態度にほとほと嫌気がさしていた。
「やめろよ」
俺が凄みをきかせて瑪瑙にお灸をすえたが、彼女はまるで意に介さないどころかエスカレートしている節もあり、ケラケラと笑っていた。
「やだな、セキレイさん、なんでそんなに不機嫌なの?二日酔いで頭でも痛い?それとも指南する相手がいなくて欲求不満なの?何なら私がセキレイさんに縛られてあげようか?」
ガタッ!!
俺は箸を置いて突如席を立ち、玄関に向かう。
「ちょっと煙草買いに行ってくる」
聞くに耐えなかった。
これ以上ここにいたら、俺は瑪瑙を嫌いになってしまう。
俺は部屋を出て行く宛もなくエレベーターに乗り、何階のボタンを押そうか考えあぐねいていると、尻ポケットでスマホが唸った。
画面を見ると、翡翠からだった。
何だ?翡翠の方から電話だなんて珍しいな。
ちょっと戸惑ったが、可愛い翡翠の声が聞けると思って俺は胸を弾ませながら電話に出た。
もしかしたら翡翠の奴、やっぱり雷が怖くて俺に泣きついてきたな?
俺がそんな事を考えながらスマホを耳に当てると、いきなり翡翠の『おーおんひつ』というよく解らない悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「っえ!?」
俺が呆気にとられていると間もなく通話が途切れ、その後何度かけ直しても翡翠のスマホに繋がらなくなった。
おーおんひつ……
翡翠はくぐもった声をしていて呂律も回っていない感じだった。しかも何かに追われる様に切羽詰まった口調で、あれはまるで俺に助けを求めているみたいだ。
翡翠の身に何かあったんじゃあないか!?
翡翠は何かで口を塞がれてて満足に発音出来なかったのかも。
電話が繋がらなくなったのだって、誰かにスマホを奪われたからじゃないか?
「おーおんひつ……おうおんひつ……ぼうおんひつ……ぼうおんし……防音室っ!!」
そこまで思い至ると、俺は居てもたってもいられず防音室がある階のボタンを押した。
「あ、乗りまーす!」
使用人の女性が手を上げながらエレベーターに駆けて来たが、俺はそれを見てみぬふりをして『閉』ボタンを連打する。
翡翠以外がどうなろうとどうでもいい。
頼む!翡翠、無事でいてくれ!!
俺は天にも祈る気持ちでエレベーターが到着するのを今か今かと待った。
チーンッ!
緊迫した空気にそぐわぬ音でエレベーターが防音室のあるフロアに到着し、俺はドアが開ききる前に飛び出した。
「わぁっ!!」
ドアの陰でエレベーターを待っていた警備兵と肩が接触したが、俺は構わず防音室に駆け込む。
真っ暗な室内に、男の荒い息遣いが聞こえてきた。
俺が目を凝らして前に進むと、翡翠らしき人影の上に男の大きな影がのしかかり、あろうことか彼女に向けて小刻みに腰を振っている。
嘘だろ──
何が起こっているのか、俺はすぐには信じられなかった。
雷の閃光が室内を照らし出し、一瞬だけ男の全貌を浮き彫りにさせ、そこで漸く停止していた俺の思考が復活する。
「お前っ!!」
俺は頭の血が沸騰して、こめかみで何かがぶちギレる音がした。
ぶっ殺す!
「ヤベッ!」
俺の存在に気付いた男は、一度大きく身震いした後にズボンのチャックを閉めながら部屋の奥のドアから逃げ出し、俺はそれを脇目も振らず追いかけた。
ぶっ殺す!ぶっ殺す!!
よくも俺の翡翠を!!
絶対に許さない!!
俺はあの男を絶対に見失う訳にはいかない。
城に翡翠の貞操が奪われた事が知れたら、俺は直ちに翡翠を処断しなければならなくなる。せめて献上の儀式までの猶予だけは確保しなくてはならない。
絶対に捕まえる!!
そんな執念を燃やし、俺はどしゃ降りの駐車場でやっと男を捕まえた。
俺は道中手に入れたスコップで男の顔面を殴り、そいつが倒れたところを間髪入れずに思い切り滅多打ちにする。手が痺れる程の手応えがあったが手加減するつもりはない。
血が滾る。
頭に血が上っている音が聞こえてくるようだ。
相手が誰であるかなど考えている余裕もなかったので、俺は男の顔も確認せずに夢中で彼を殴り付けた。
男は体を丸め、両腕で頭をガードしたが、俺は構わず力の限りスコップを振るう。
「やめ、やめてくれぇ!!助けてっ!!助けてーーーー!」
男が必死に命乞いをしたが、俺の心には届かない。
「よくも翡翠を!!ぶっ殺してやるからな!!」
俺は怒りで我を忘れ、とにかく目の前の標的を潰す事だけに意識を集中させた。
すると男は夜叉と化した俺に戦き、水溜まりで土下座しながらとんでもない事を口走る。
「許してくれっ!!お、俺は頼まれてやっただけなんだ!」
俺は振りかぶったスコップをピタリと止め、元の顔が判別できなくなった血塗れの男に尋ねた。
「誰にだ?」
翡翠をあんなめにあわせた人間全てをぶっ殺してやる。
それがたとえ誰であろうと──
俺が凄むと男は簡単に口を割った。
「白鈴(ハクレイ)です」
「白鈴?誰だ?城の者か?」
聞き慣れない名前だった。
俺がスコップを男の首に翳すと、男はハッとして言い直す。
「そ、それは芸名です!本名は瑪瑙です」
瑪瑙の名前を聞いた瞬間、彼女に対する俺の愛はガラガラと音をたてて崩壊した。
瑪瑙が……翡翠を……?
『どうして?』そんな言葉だけが俺の頭を支配する。
嫉妬?
俺に対する当て付け?
約束の場所に行けなかった俺を恨んでいたのか?
瑪瑙には後ろ暗さを感じてはいるが、それでも、彼女が翡翠にした事は許される事ではない。俺には暴走する瑪瑙をどうにかする義務がある。
翡翠は俺の大事な……献上品なんだ、調教師として黙っていられない。
決着をつけなければ。
俺は口を割った男を解放する事なく殴り続け、遂に彼は動かなくなった。
死んだな。
冷静にそんな事を思った。
今はとても残忍な気持ちで、目の前に凄惨な光景が広がっていようと何も心が動かない。
俺は本当に夜叉になってしまったのだ。
俺は自分の車を男の頭側に寄せ、彼をトランクに積んでまた元の駐車スペースに車を戻す。
俺は明日車で崖まで行き、そこから男を投げ捨てようというのだ。
現場の血痕はこのまま雨が流してくれるだろう。
衝動的で安易な殺人だったが、見つかったところで俺の立場からすると不問になる。しかし翡翠の貞操を奪った生き証人を白日のもとにさらすのは翡翠を危険にさらす事でもある。絶対に世間に知られてはならない。
俺は息をきらして防音室に戻り、横たわったままの翡翠の上体を起こしてやる。
酷い……
間近で見ると翡翠は瞼を腫らし、おでこや口からは血を流していた。あの美しかった顔はお岩さんの如く痛々しく負傷し、原型をとどめていなかった。
「翡翠……」
翡翠は生気がなくて、無気力で、人形みたいだった。その瞳に俺の姿は映っていない。
「翡翠、翡翠、大丈夫か?」
俺が何度か声をかけると、翡翠は正気を取り戻してすまなそうに眉を下げた。
「セキレイさん、セキレイさん、ごめんなさい、私、献上品の資格を……」
「何で謝るんだよ、お前は何も悪くない。悪いのは瑪瑙なんだ、瑪瑙が……すまない、辛い思いをさせた。全部俺のせいだ」
瑪瑙にも罪はあるが一番悪いのは俺だ。俺が瑪瑙を復讐の鬼へと変えた。そして翡翠はそのとばっちりを受けたのだ。
「セキレイさんは悪くないです!騙された私が悪いんです。セキレイさんを卒業したつもりだったのに、私はセキレイさんに会いたくて足元を掬われたんです。泥棒だって、海外じゃあ盗まれる方が悪いって言うじゃないですか…… 」
こんな事になっても誰の事も責めない翡翠はとんでもない人格者だ。けれどこんな時ですら涙を見せない彼女が逆に痛々しくもあり、俺はその華奢な体を折りそうなくらい強く抱き締める。
見ているこっちが辛くなる。
「翡翠、絶対にお前は悪くない!悪いのは俺だ!」
俺は調教師のくせにどうして翡翠から目を離してしまったのだろう?
自分の都合で翡翠と距離をおいたのは単に自分の弱さのせいだったんじゃないか?
いかに翡翠が決裂宣言をしようと、嫌がろうと、俺は調教師としてそばにいてやらなければならなかったんだ。
瑪瑙との情欲に溺れて自分を見失っていた。
浅ましい、情けない。
「セキレイさんは最期に来てくれました。私はそれが嬉しいんです」
『最期』翡翠がそんな風に言ったのは、俺に処断されるつもりでいるからなのか……
「翡翠、何も心配するな、何も考えなくていい。幸せな事を考えろ、楽しい事を思い出せ、今あった事は全部忘れろ、忘れろ!」
俺は翡翠の背中をガシガシとさすり、人知れず彼女の代わりに涙を落とした。
「セキレイさんと過ごした毎日はどれも幸せだったなぁ……今だってセキレイさんが抱き締めてくれて、私は幸せなんです」
俺の肩に顎を置く翡翠は、恐らくいつも通り笑っているのだと思う。
どうしてこの子はこんなにまで健気でいられるんだ?
普通、こんなめにあったら間違いなく泣き崩れるだろうに。翡翠は女で、まだ子供なのに。
「翡翠、帰ろう、俺達の部屋に帰ろう。帰って温かいココアを飲もうな」
俺がそう言うと、翡翠は俺と向き合い、腫れ上がった顔でやっぱり笑っていた。
「ココアはセキレイさんじゃないですか、私は寝る前でもブラックだったでしょう?」
「ああ、そうだったな」
俺は自分の肩で涙を拭い、タンコブが出来た翡翠の頭をそっと撫でる。
本当は触れられるのすら痛いのかもしれない、でも翡翠は俺を心配させまいと笑顔を顔に貼り付けている。何なら俺を慰めようとしている節もある。
俺としては泣かれた方が楽だったかもしれない。可哀想過ぎて胸が張り裂けそうだ。
自分は強姦されたのに人を気遣うなんて、あり得ない。
「とにかく帰ろう、帰って──」
俺は翡翠を立たせ、ズボンを引き上げようとして、その内腿から彼女の血液だか、男の体液だか、又はその両方が混じりあったものがぬるりと滴るシルエットが見え、俺は悔しさで唇を噛み締めた。
「ごめんな、ちょっと気持ち悪いかもしれないけど我慢な」
愛する翡翠の中に男の汚ない欲望がたっぷりと注がれたのだと思うと、俺は怒りで全身に鳥肌が立ち、冷静ではいられなくなった。
今直ぐにでも瑪瑙をどうにかしてしまいそうで自分でも怖い。瑪瑙の事は自分にも責任があるのに、思い出すのはさっき滅多打ちにした男の亡骸。きっと今、瑪瑙に会ったら、俺は彼女をあの男と同じめにあわせてしまうだろう。
俺は翡翠の衣服の乱れを直し、自分が着ていたシャツを彼女の肩に掛けてやり、いざその肩を抱いて歩きだすと、彼女は小股で変な歩き方をして歩調を遅らせた。
「翡翠、腰が痛くて辛いのか?」
恐らく翡翠は何の準備もなく無理矢理体を開かれ、好き勝手に動かされてそこを壊されたのだろう、無理もない。
なのに翡翠は気丈に振舞い、平気な顔をして首を横に振る。
もう、見ているこっちが耐えられない。
翡翠をこの世の全てから守ってやりたい。2度とこんな事が起こらぬ様、無人島か何処かで翡翠を監禁して飼い殺したい。翡翠の記憶すら奪って頭の中を幸せなエピソードでいっぱいにしてやりたい。何をおいても、誰を敵にしても、俺が翡翠を幸せにしてやりたい。
たとえ翡翠が嫌がっても、俺は自分の自己満足でそうしたいと思った。
俺が翡翠をヒョイと抱き上げてお姫様抱っこすると、その弾みで彼女がほんの一瞬顔をしかめた。
やっぱり辛いんじゃあないか。
「ごめんな」
俺がそうっと歩き出そうとした時、物凄い轟音と共に雷の閃光が全てを照らし出した。
その瞬間、翡翠がビクッと体をしならせる。
「近くに落ちたか。大丈夫、怖くないよ」
俺は翡翠を落ち着かせようと優しく声をかけたが、彼女の震えは止まらない。
「大丈夫、大丈夫、近くに避雷針があるからこの城には絶対に落ちな──」
「セ……セキレイさん、これはどうしたん……ですか?」
翡翠は声まで震わせ、そして震える手で俺の頬に触れる。
「……何が?」
多分、翡翠は今ので気付いてしまったのだろう。
翡翠の手に男の血がべっとりと付着している。これは俺が浴びた男の血だ。翡翠に掛けたシャツだってそれで真っ赤に染まっている。
「セキレイさ……ん、あの男の人は……どうなったんですか?」
一段と翡翠の身震いが強くなった。
「……男って?」
俺は真顔でしらをきる。
あまり翡翠には知られたくなかった。こういう汚い事は何も知らなくていい。
「セキレイさん!あの人は──」
「翡翠、知らなくていい」
翡翠が強い口調で俺を問いただしたが、俺もまた強い口調でそれをシャットアウトした。
「お前は何も考えなくていい。何も知らなくていい」
しかし一連のこのやりとりで翡翠の俺への疑惑は確信へと変わっていた。
「セキレイさん、すみません、セキレイさんにこんな事をさせてすみません、すみません」
そう言って何度も頭を下げた翡翠は、やはり小刻みに震えていて、途中から俺は、彼女は雷に怯えていたのではなく、人を殺めた俺自身に怯えていたのではないかと思い当たった。
俺は翡翠を抱いたまま一旦鷹雄の部屋を訪ね、事の顛末を伝えてバスルームを借りた。
鷹雄は翡翠の貞操が奪われたと聞いた時、いつもヘラヘラしていた顔が強張っていた。
「翡翠、すぐ終わるからちょっとだけ我慢しろよ」
俺は裸に剥いた翡翠を洗い場に立たせ、彼女の秘部にぬるいシャワーを当てながら男の痕跡を洗い流していく。
俺の肩に掴まった翡翠の手がギュッと握り締められ、軽く開いた脚も内股に力が入り、足の指は頑なにすぼめられていた。
「翡翠、息を詰めるな、力を抜け、辛くなるだけだぞ?」
「ぅ……ん……平……気……」
翡翠は辛そうに一層俺の肩に爪をたて、苦行に耐える。
平気なもんか、辛くて仕方がないんじゃないか。
「翡翠、深呼吸しろ、ほら、吐いて」
「ぅ、うん……ハ、ハァ……」
「吸って」
「ぅ、うん……ス、スゥ……」
ぎこちない深呼吸だが、一生懸命俺の指示に従おうと努力する翡翠が健気でいじましく、とてもいとおしかった。
翡翠、なんて尊いんだ。
しかし彼女の下腹から男の残骸が垂れるのを目の当たりにすると、俺は気がふれそうな程憤怒した。
クソッ、俺の翡翠が……
シャワーを終え、翡翠に寝間着を着せると、鷹雄から貰ったアフターピルを彼女に飲ませ一旦ソファーに寝かせた。
「今は手持ちがあれしかなくて、副作用で吐き気が出るかもしれないから、しばらく安静にさせておいて」
鷹雄は翡翠の元に膝まづき、救急箱を開いて彼女の怪我の応急処置を施していく。
「鷹雄さん、すみません、私は消毒くらいで大丈夫ですから」
やはり翡翠は申し訳なさそうに頭を下げ、鷹雄に『バカ』と叱られていた。
「鷹雄、悪いな、助かる」
俺が部屋を出ようとすると、振り返った鷹雄に呼び止められる。
「……セキレイ、お前もシャワーを浴びて着替えた方がいいんじゃないの?」
鷹雄には殺人の事は伏せていたが、いくらお調子者の彼と言えど、シャツを血で染めた俺を見て全てを悟った事だろう。
「いや、いい。俺は部屋に戻って今すぐかたをつけなければならない事がある」
多分、瑪瑙はまだ俺の部屋にいる。俺には彼女の口を塞ぐ必要があった。今瑪瑙が口を開けば翡翠はその場で俺が処断しなければならなくなるが、瑪瑙の口を塞げば献上の儀式までは翡翠の首は繋がる。
とにかく時間を稼がなければ、少し考える猶予がほしい。
「セキレイさんっ!!」
突然翡翠が上体を起こし、今にも走り出しそうなところを鷹雄に止められた。
「翡翠、セキレイはお前を迎えにすぐ戻って来る」
「そうじゃないんです。セキレイさん、瑪瑙さんを傷つけないで!」
翡翠は俺がこれから何をしようとしているのか感づいていた。
「翡翠、これは俺の問題だから俺が決着をつけないと」
「セキレイさん、私は別に平気ですから。どっちにしろ私は貞操を奪われる運命だったんですから、それがあの男か、王かの違いってだけだったんです。だから瑪瑙さんの事は不問にして下さい」
翡翠はソファーの上で土下座するみたいに頭を下げる。
翡翠はどうして加害者を擁護出来るんだ?
どうしたらそんなにまで慈悲の心が持てるんだ?
いっそ誰かを死ぬほど恨んだ方が心が楽だろうに。
「だからって瑪瑙を野放しにしておいたらお前の身が……」
「セキレイさん、瑪瑙さんとお話をして決着をつけるのは良い事です。でも瑪瑙さんはこんな酷い事をやってしまえる程にセキレイさんを凄く凄く愛していたって事を決して忘れないで下さい。こんなにまで人を愛せる人間なんて瑪瑙さんくらいのものです」
翡翠は必死に熱弁したが俺の怒りの炎は揺るがない。
瑪瑙の愛故の凶行、それは解っている。でもそれは俺に対しても言える事だった。
俺が翡翠の制止を振り切り自分の部屋に戻ると、やはりそこに瑪瑙がいた。
「どうしたの?セキレイさん、そんなに慌てて」
瑪瑙はテーブルに肘をついてニヤニヤしている。
この顔を見ると、瑪瑙は全てを把握しているに違いない。
女狐め。
「瑪瑙っ!お前、よくも翡翠を」
俺はズカズカと鼻息も荒く瑪瑙に詰め寄った。
「なんだ、あいつ、私の事まで喋っちゃったか~」
瑪瑙は焦った様子もなくふてぶてしい態度で脚を組み、ポケットから煙草を取り出す。
「セキレイさん、火、ある?」
俺はカッとなって煙草ごと瑪瑙の頬をぶった。
パシッと乾いた音がして、勢いで瑪瑙は左を向く。
「セキレイさん、酷いじゃない、踊り子の顔をぶつなんて」
瑪瑙は半笑いで抗議し、それが俺の怒りの火に油を注いだ。
「お前、自分が何をやったか解ってるのか!?」
俺は瑪瑙に掴みかかり、その細い首に手をかける。
「解ってるよ、セキレイさん、私が画策したんだもの。その様子じゃあまんまと私の悪巧みが成功したみたいだけど、あの男は帰ってこなそうだね?五人囃子の一人が欠けたか」
『あーあ』と瑪瑙は全然悔しくなさそうに背もたれにもたれ掛かる。
「何でこんな事をするんだよっ!?翡翠は関係ないだろ!?不満があるなら俺に言えばよかったろ!?」
俺の両手の親指に力が入ったが瑪瑙は怖じ気づく事もなく落ち着き払っていた。
「だってセキレイさんの弱点はあの子でしょ?私はね、セキレイさんがあの頃の私みたいに絶望するところを見てみたいんだよ」
「あの頃の私?」
俺は両手に力が入らぬよう必死で自分を抑制する。
『あの頃』とは、瑪瑙がここの兵によって崖に追い込まれ、身を売って見逃してもらったというあの事か。
「あの後、私がどうやってここまで生きてきたか教えてあげるよ。私はね、セキレイさんに騙されたと思って自棄になって兵とヤッて、それからたがが外れたみたいに体を売って色んな人間の物になった。中には王の趣味を遥かに越えるガチの変態もいて、私の人権はことごとく粉砕された。あの旅一座だって表向きは伝統芸能みたいだけど、言ってみれば私は昔の芸者だよ。身を売って生計をたててる。ずっとずっと私だけが汚い世界にいて汚れていく……でも私はいつか再びセキレイさんと対峙して、あの時何故来てくれなかったのかちゃんと話したいと思ってた。それが……体をはったコネクションでようやく城に入る事が出来たと思ったら、セキレイさんは新しい献上品に夢中で心を奪われてた……そうしたら何もかもがどうでも良くなってセキレイさんの全てをぶち壊してやりたくなったって訳」
この話を聞くと、やはり俺には瑪瑙の首を締め上げる事は出来ない。それに翡翠が言った『こんな酷い事をやってしまえる程にセキレイさんを凄く凄く愛していた』という言葉が俺の犯行をとどまらせる。
「今でも思う、あの時セキレイさんが来てくれていたら、私の人生は違っていたって。きっと毎日が輝いていて、平凡だけどとても幸せだったろうなってさ……」
そう言った瑪瑙の青い瞳がどことなく寂しそうで俺は良心が痛んだ。
俺だってあの時は瑪瑙と同じ夢を描いていた。城を捨てても彼女と一緒にいたいと思っていた。あの日、あんな事さえ起こらなければ俺達の未来は輝かしいものになっていたのに……
瑪瑙と生き別れるまでの人生だってとびきり幸せだったし、一緒に過ごせて良かったと思っている。
瑪瑙と過ごした日々は、翡翠と過ごしてきた日々と同じように心豊かで尊いものだった。
仕事で失敗して落ち込んでも、部屋に帰ると瑪瑙が居て、何も言わずとも俺を励ましてくれたっけ。瑪瑙とだって誕生日もクリスマスもバレンタインもホワイトデーもみどりの日も何処かの国の旧正月も必ず一緒に祝っていたな。俺が忘れていると、瑪瑙は拗ねて部屋に閉じこもった。
思い出の引き出しを開けると瑪瑙とのエピソードが溢れてくる。
やっぱり俺には瑪瑙を傷付けられない。
俺は彼女の首から手を放した。
こんな事になっても、俺の根底には瑪瑙への根深い愛があった。
「瑪瑙、お前には悪い事をしたと思っている。俺は本気でお前を愛したが、俺があの時、あの場所に行けなかったのも事実だ。お前の事は手にかけない。だがお前は城から出て行け。そして2度と戻るな。お前の事をもう一度不幸にしたくない」
俺は想いを断ち切るように瑪瑙に背を向けた。
「もし今回の事件の事を口外したら、俺は翡翠ではなくお前を処断する」
「わかったわかった、命が惜しいから言わないし、城からも出て行くって」
瑪瑙は緊張感のない返事をして部屋を出て行った。
翡翠の被害状況の割りに呆気ない終わり方だと思った。
それでも、瑪瑙が二度と翡翠に悪さしないのであればそれでいい。
瑪瑙には、何処か知らない地で幸せになってほしいと切に願った。
それから俺は翡翠を迎えに行き、二人で部屋に戻った。
鷹雄からは第2の選択を打診されたが、今はとにかく翡翠を休ませてやりたい。
翡翠を処断するか、翡翠を連れて城を脱出するかについては後日改めて考える事にする。
勿論、前者を決行する気は無いが、そうなると翡翠を裏社会に売らなければならないという新たな選択肢が出て来てしまう。しかしこれも決行する気はない。
そうなるとやはり……
歴史は繰り返されるのか?
未だに鳴り止まぬ激しい雷を見て、俺は当たり前の様に翡翠を自分のベッドに下ろすが、彼女はアフターピルで体が怠いにも関わらず脚を引き摺りながら自分の足で子供部屋に入った。
「翡翠、大丈夫なのか?」
俺は、自分のベッドに潜り込む翡翠に布団を掛けてやる。
この歳になっても翡翠は雷が怖くて一人寝出来なかったのに……
「……はい、セキレイさん、本当にすみませんでした」
翡翠は布団から目だけを出し、伏し目がちに謝罪した。
「だから謝るなって、今は何も考えずに休め。これからについては後から考えよう」
そうして俺が翡翠のおでこにキスをしようと顔を寄せると、彼女は固く目を閉じて体を強張らせる。
そうか、やっぱり翡翠は雷よりも俺の方が怖いんだ。
仕方のない事だが、内心は酷くショックだった。
「どうしたの?外なんか気にして」
そう瑪瑙に声を掛けられ、俺は無意識に窓から曇った外を眺めていた事に気付く。
「何でもないよ」
結構雷が近いな、翡翠は大丈夫だろうか?
「翡翠が心配?」
「……いや、あれには鷹雄がついているから」
お互いに納得して離れ離れになったものの、やはり雷が鳴ると、怯えて俺の布団に潜り込んで来た翡翠の事を思い出す。
可哀想で、可愛かった翡翠、俺は彼女が不安な時そばにいてやれない。
「でも凄く心配そうな顔してるよ?私との食事だって上の空で何にも食べてないじゃない」
瑪瑙に指摘された通り、俺は箸を握ったまま微動だにしていなかった。
「食べるよ。お前も俺にかまけていないでさっさと食べろ」
「冷たい言い方だよね?セキレイさんて翡翠がいなくなってからちょっとおかしいよ」
瑪瑙は箸を放って気だるそうに頬杖を着く。
冷たい言い方だったか?
そんなつもりはなかった。
「気のせいだよ、いきなり環境が変わって戸惑ってるだけだ」
「へー、環境ねぇ……」
瑪瑙は斜め加減で俺を訝しむ。
俺はこういった瑪瑙の探りを入れてくる様な態度にほとほと嫌気がさしていた。
「やめろよ」
俺が凄みをきかせて瑪瑙にお灸をすえたが、彼女はまるで意に介さないどころかエスカレートしている節もあり、ケラケラと笑っていた。
「やだな、セキレイさん、なんでそんなに不機嫌なの?二日酔いで頭でも痛い?それとも指南する相手がいなくて欲求不満なの?何なら私がセキレイさんに縛られてあげようか?」
ガタッ!!
俺は箸を置いて突如席を立ち、玄関に向かう。
「ちょっと煙草買いに行ってくる」
聞くに耐えなかった。
これ以上ここにいたら、俺は瑪瑙を嫌いになってしまう。
俺は部屋を出て行く宛もなくエレベーターに乗り、何階のボタンを押そうか考えあぐねいていると、尻ポケットでスマホが唸った。
画面を見ると、翡翠からだった。
何だ?翡翠の方から電話だなんて珍しいな。
ちょっと戸惑ったが、可愛い翡翠の声が聞けると思って俺は胸を弾ませながら電話に出た。
もしかしたら翡翠の奴、やっぱり雷が怖くて俺に泣きついてきたな?
俺がそんな事を考えながらスマホを耳に当てると、いきなり翡翠の『おーおんひつ』というよく解らない悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「っえ!?」
俺が呆気にとられていると間もなく通話が途切れ、その後何度かけ直しても翡翠のスマホに繋がらなくなった。
おーおんひつ……
翡翠はくぐもった声をしていて呂律も回っていない感じだった。しかも何かに追われる様に切羽詰まった口調で、あれはまるで俺に助けを求めているみたいだ。
翡翠の身に何かあったんじゃあないか!?
翡翠は何かで口を塞がれてて満足に発音出来なかったのかも。
電話が繋がらなくなったのだって、誰かにスマホを奪われたからじゃないか?
「おーおんひつ……おうおんひつ……ぼうおんひつ……ぼうおんし……防音室っ!!」
そこまで思い至ると、俺は居てもたってもいられず防音室がある階のボタンを押した。
「あ、乗りまーす!」
使用人の女性が手を上げながらエレベーターに駆けて来たが、俺はそれを見てみぬふりをして『閉』ボタンを連打する。
翡翠以外がどうなろうとどうでもいい。
頼む!翡翠、無事でいてくれ!!
俺は天にも祈る気持ちでエレベーターが到着するのを今か今かと待った。
チーンッ!
緊迫した空気にそぐわぬ音でエレベーターが防音室のあるフロアに到着し、俺はドアが開ききる前に飛び出した。
「わぁっ!!」
ドアの陰でエレベーターを待っていた警備兵と肩が接触したが、俺は構わず防音室に駆け込む。
真っ暗な室内に、男の荒い息遣いが聞こえてきた。
俺が目を凝らして前に進むと、翡翠らしき人影の上に男の大きな影がのしかかり、あろうことか彼女に向けて小刻みに腰を振っている。
嘘だろ──
何が起こっているのか、俺はすぐには信じられなかった。
雷の閃光が室内を照らし出し、一瞬だけ男の全貌を浮き彫りにさせ、そこで漸く停止していた俺の思考が復活する。
「お前っ!!」
俺は頭の血が沸騰して、こめかみで何かがぶちギレる音がした。
ぶっ殺す!
「ヤベッ!」
俺の存在に気付いた男は、一度大きく身震いした後にズボンのチャックを閉めながら部屋の奥のドアから逃げ出し、俺はそれを脇目も振らず追いかけた。
ぶっ殺す!ぶっ殺す!!
よくも俺の翡翠を!!
絶対に許さない!!
俺はあの男を絶対に見失う訳にはいかない。
城に翡翠の貞操が奪われた事が知れたら、俺は直ちに翡翠を処断しなければならなくなる。せめて献上の儀式までの猶予だけは確保しなくてはならない。
絶対に捕まえる!!
そんな執念を燃やし、俺はどしゃ降りの駐車場でやっと男を捕まえた。
俺は道中手に入れたスコップで男の顔面を殴り、そいつが倒れたところを間髪入れずに思い切り滅多打ちにする。手が痺れる程の手応えがあったが手加減するつもりはない。
血が滾る。
頭に血が上っている音が聞こえてくるようだ。
相手が誰であるかなど考えている余裕もなかったので、俺は男の顔も確認せずに夢中で彼を殴り付けた。
男は体を丸め、両腕で頭をガードしたが、俺は構わず力の限りスコップを振るう。
「やめ、やめてくれぇ!!助けてっ!!助けてーーーー!」
男が必死に命乞いをしたが、俺の心には届かない。
「よくも翡翠を!!ぶっ殺してやるからな!!」
俺は怒りで我を忘れ、とにかく目の前の標的を潰す事だけに意識を集中させた。
すると男は夜叉と化した俺に戦き、水溜まりで土下座しながらとんでもない事を口走る。
「許してくれっ!!お、俺は頼まれてやっただけなんだ!」
俺は振りかぶったスコップをピタリと止め、元の顔が判別できなくなった血塗れの男に尋ねた。
「誰にだ?」
翡翠をあんなめにあわせた人間全てをぶっ殺してやる。
それがたとえ誰であろうと──
俺が凄むと男は簡単に口を割った。
「白鈴(ハクレイ)です」
「白鈴?誰だ?城の者か?」
聞き慣れない名前だった。
俺がスコップを男の首に翳すと、男はハッとして言い直す。
「そ、それは芸名です!本名は瑪瑙です」
瑪瑙の名前を聞いた瞬間、彼女に対する俺の愛はガラガラと音をたてて崩壊した。
瑪瑙が……翡翠を……?
『どうして?』そんな言葉だけが俺の頭を支配する。
嫉妬?
俺に対する当て付け?
約束の場所に行けなかった俺を恨んでいたのか?
瑪瑙には後ろ暗さを感じてはいるが、それでも、彼女が翡翠にした事は許される事ではない。俺には暴走する瑪瑙をどうにかする義務がある。
翡翠は俺の大事な……献上品なんだ、調教師として黙っていられない。
決着をつけなければ。
俺は口を割った男を解放する事なく殴り続け、遂に彼は動かなくなった。
死んだな。
冷静にそんな事を思った。
今はとても残忍な気持ちで、目の前に凄惨な光景が広がっていようと何も心が動かない。
俺は本当に夜叉になってしまったのだ。
俺は自分の車を男の頭側に寄せ、彼をトランクに積んでまた元の駐車スペースに車を戻す。
俺は明日車で崖まで行き、そこから男を投げ捨てようというのだ。
現場の血痕はこのまま雨が流してくれるだろう。
衝動的で安易な殺人だったが、見つかったところで俺の立場からすると不問になる。しかし翡翠の貞操を奪った生き証人を白日のもとにさらすのは翡翠を危険にさらす事でもある。絶対に世間に知られてはならない。
俺は息をきらして防音室に戻り、横たわったままの翡翠の上体を起こしてやる。
酷い……
間近で見ると翡翠は瞼を腫らし、おでこや口からは血を流していた。あの美しかった顔はお岩さんの如く痛々しく負傷し、原型をとどめていなかった。
「翡翠……」
翡翠は生気がなくて、無気力で、人形みたいだった。その瞳に俺の姿は映っていない。
「翡翠、翡翠、大丈夫か?」
俺が何度か声をかけると、翡翠は正気を取り戻してすまなそうに眉を下げた。
「セキレイさん、セキレイさん、ごめんなさい、私、献上品の資格を……」
「何で謝るんだよ、お前は何も悪くない。悪いのは瑪瑙なんだ、瑪瑙が……すまない、辛い思いをさせた。全部俺のせいだ」
瑪瑙にも罪はあるが一番悪いのは俺だ。俺が瑪瑙を復讐の鬼へと変えた。そして翡翠はそのとばっちりを受けたのだ。
「セキレイさんは悪くないです!騙された私が悪いんです。セキレイさんを卒業したつもりだったのに、私はセキレイさんに会いたくて足元を掬われたんです。泥棒だって、海外じゃあ盗まれる方が悪いって言うじゃないですか…… 」
こんな事になっても誰の事も責めない翡翠はとんでもない人格者だ。けれどこんな時ですら涙を見せない彼女が逆に痛々しくもあり、俺はその華奢な体を折りそうなくらい強く抱き締める。
見ているこっちが辛くなる。
「翡翠、絶対にお前は悪くない!悪いのは俺だ!」
俺は調教師のくせにどうして翡翠から目を離してしまったのだろう?
自分の都合で翡翠と距離をおいたのは単に自分の弱さのせいだったんじゃないか?
いかに翡翠が決裂宣言をしようと、嫌がろうと、俺は調教師としてそばにいてやらなければならなかったんだ。
瑪瑙との情欲に溺れて自分を見失っていた。
浅ましい、情けない。
「セキレイさんは最期に来てくれました。私はそれが嬉しいんです」
『最期』翡翠がそんな風に言ったのは、俺に処断されるつもりでいるからなのか……
「翡翠、何も心配するな、何も考えなくていい。幸せな事を考えろ、楽しい事を思い出せ、今あった事は全部忘れろ、忘れろ!」
俺は翡翠の背中をガシガシとさすり、人知れず彼女の代わりに涙を落とした。
「セキレイさんと過ごした毎日はどれも幸せだったなぁ……今だってセキレイさんが抱き締めてくれて、私は幸せなんです」
俺の肩に顎を置く翡翠は、恐らくいつも通り笑っているのだと思う。
どうしてこの子はこんなにまで健気でいられるんだ?
普通、こんなめにあったら間違いなく泣き崩れるだろうに。翡翠は女で、まだ子供なのに。
「翡翠、帰ろう、俺達の部屋に帰ろう。帰って温かいココアを飲もうな」
俺がそう言うと、翡翠は俺と向き合い、腫れ上がった顔でやっぱり笑っていた。
「ココアはセキレイさんじゃないですか、私は寝る前でもブラックだったでしょう?」
「ああ、そうだったな」
俺は自分の肩で涙を拭い、タンコブが出来た翡翠の頭をそっと撫でる。
本当は触れられるのすら痛いのかもしれない、でも翡翠は俺を心配させまいと笑顔を顔に貼り付けている。何なら俺を慰めようとしている節もある。
俺としては泣かれた方が楽だったかもしれない。可哀想過ぎて胸が張り裂けそうだ。
自分は強姦されたのに人を気遣うなんて、あり得ない。
「とにかく帰ろう、帰って──」
俺は翡翠を立たせ、ズボンを引き上げようとして、その内腿から彼女の血液だか、男の体液だか、又はその両方が混じりあったものがぬるりと滴るシルエットが見え、俺は悔しさで唇を噛み締めた。
「ごめんな、ちょっと気持ち悪いかもしれないけど我慢な」
愛する翡翠の中に男の汚ない欲望がたっぷりと注がれたのだと思うと、俺は怒りで全身に鳥肌が立ち、冷静ではいられなくなった。
今直ぐにでも瑪瑙をどうにかしてしまいそうで自分でも怖い。瑪瑙の事は自分にも責任があるのに、思い出すのはさっき滅多打ちにした男の亡骸。きっと今、瑪瑙に会ったら、俺は彼女をあの男と同じめにあわせてしまうだろう。
俺は翡翠の衣服の乱れを直し、自分が着ていたシャツを彼女の肩に掛けてやり、いざその肩を抱いて歩きだすと、彼女は小股で変な歩き方をして歩調を遅らせた。
「翡翠、腰が痛くて辛いのか?」
恐らく翡翠は何の準備もなく無理矢理体を開かれ、好き勝手に動かされてそこを壊されたのだろう、無理もない。
なのに翡翠は気丈に振舞い、平気な顔をして首を横に振る。
もう、見ているこっちが耐えられない。
翡翠をこの世の全てから守ってやりたい。2度とこんな事が起こらぬ様、無人島か何処かで翡翠を監禁して飼い殺したい。翡翠の記憶すら奪って頭の中を幸せなエピソードでいっぱいにしてやりたい。何をおいても、誰を敵にしても、俺が翡翠を幸せにしてやりたい。
たとえ翡翠が嫌がっても、俺は自分の自己満足でそうしたいと思った。
俺が翡翠をヒョイと抱き上げてお姫様抱っこすると、その弾みで彼女がほんの一瞬顔をしかめた。
やっぱり辛いんじゃあないか。
「ごめんな」
俺がそうっと歩き出そうとした時、物凄い轟音と共に雷の閃光が全てを照らし出した。
その瞬間、翡翠がビクッと体をしならせる。
「近くに落ちたか。大丈夫、怖くないよ」
俺は翡翠を落ち着かせようと優しく声をかけたが、彼女の震えは止まらない。
「大丈夫、大丈夫、近くに避雷針があるからこの城には絶対に落ちな──」
「セ……セキレイさん、これはどうしたん……ですか?」
翡翠は声まで震わせ、そして震える手で俺の頬に触れる。
「……何が?」
多分、翡翠は今ので気付いてしまったのだろう。
翡翠の手に男の血がべっとりと付着している。これは俺が浴びた男の血だ。翡翠に掛けたシャツだってそれで真っ赤に染まっている。
「セキレイさ……ん、あの男の人は……どうなったんですか?」
一段と翡翠の身震いが強くなった。
「……男って?」
俺は真顔でしらをきる。
あまり翡翠には知られたくなかった。こういう汚い事は何も知らなくていい。
「セキレイさん!あの人は──」
「翡翠、知らなくていい」
翡翠が強い口調で俺を問いただしたが、俺もまた強い口調でそれをシャットアウトした。
「お前は何も考えなくていい。何も知らなくていい」
しかし一連のこのやりとりで翡翠の俺への疑惑は確信へと変わっていた。
「セキレイさん、すみません、セキレイさんにこんな事をさせてすみません、すみません」
そう言って何度も頭を下げた翡翠は、やはり小刻みに震えていて、途中から俺は、彼女は雷に怯えていたのではなく、人を殺めた俺自身に怯えていたのではないかと思い当たった。
俺は翡翠を抱いたまま一旦鷹雄の部屋を訪ね、事の顛末を伝えてバスルームを借りた。
鷹雄は翡翠の貞操が奪われたと聞いた時、いつもヘラヘラしていた顔が強張っていた。
「翡翠、すぐ終わるからちょっとだけ我慢しろよ」
俺は裸に剥いた翡翠を洗い場に立たせ、彼女の秘部にぬるいシャワーを当てながら男の痕跡を洗い流していく。
俺の肩に掴まった翡翠の手がギュッと握り締められ、軽く開いた脚も内股に力が入り、足の指は頑なにすぼめられていた。
「翡翠、息を詰めるな、力を抜け、辛くなるだけだぞ?」
「ぅ……ん……平……気……」
翡翠は辛そうに一層俺の肩に爪をたて、苦行に耐える。
平気なもんか、辛くて仕方がないんじゃないか。
「翡翠、深呼吸しろ、ほら、吐いて」
「ぅ、うん……ハ、ハァ……」
「吸って」
「ぅ、うん……ス、スゥ……」
ぎこちない深呼吸だが、一生懸命俺の指示に従おうと努力する翡翠が健気でいじましく、とてもいとおしかった。
翡翠、なんて尊いんだ。
しかし彼女の下腹から男の残骸が垂れるのを目の当たりにすると、俺は気がふれそうな程憤怒した。
クソッ、俺の翡翠が……
シャワーを終え、翡翠に寝間着を着せると、鷹雄から貰ったアフターピルを彼女に飲ませ一旦ソファーに寝かせた。
「今は手持ちがあれしかなくて、副作用で吐き気が出るかもしれないから、しばらく安静にさせておいて」
鷹雄は翡翠の元に膝まづき、救急箱を開いて彼女の怪我の応急処置を施していく。
「鷹雄さん、すみません、私は消毒くらいで大丈夫ですから」
やはり翡翠は申し訳なさそうに頭を下げ、鷹雄に『バカ』と叱られていた。
「鷹雄、悪いな、助かる」
俺が部屋を出ようとすると、振り返った鷹雄に呼び止められる。
「……セキレイ、お前もシャワーを浴びて着替えた方がいいんじゃないの?」
鷹雄には殺人の事は伏せていたが、いくらお調子者の彼と言えど、シャツを血で染めた俺を見て全てを悟った事だろう。
「いや、いい。俺は部屋に戻って今すぐかたをつけなければならない事がある」
多分、瑪瑙はまだ俺の部屋にいる。俺には彼女の口を塞ぐ必要があった。今瑪瑙が口を開けば翡翠はその場で俺が処断しなければならなくなるが、瑪瑙の口を塞げば献上の儀式までは翡翠の首は繋がる。
とにかく時間を稼がなければ、少し考える猶予がほしい。
「セキレイさんっ!!」
突然翡翠が上体を起こし、今にも走り出しそうなところを鷹雄に止められた。
「翡翠、セキレイはお前を迎えにすぐ戻って来る」
「そうじゃないんです。セキレイさん、瑪瑙さんを傷つけないで!」
翡翠は俺がこれから何をしようとしているのか感づいていた。
「翡翠、これは俺の問題だから俺が決着をつけないと」
「セキレイさん、私は別に平気ですから。どっちにしろ私は貞操を奪われる運命だったんですから、それがあの男か、王かの違いってだけだったんです。だから瑪瑙さんの事は不問にして下さい」
翡翠はソファーの上で土下座するみたいに頭を下げる。
翡翠はどうして加害者を擁護出来るんだ?
どうしたらそんなにまで慈悲の心が持てるんだ?
いっそ誰かを死ぬほど恨んだ方が心が楽だろうに。
「だからって瑪瑙を野放しにしておいたらお前の身が……」
「セキレイさん、瑪瑙さんとお話をして決着をつけるのは良い事です。でも瑪瑙さんはこんな酷い事をやってしまえる程にセキレイさんを凄く凄く愛していたって事を決して忘れないで下さい。こんなにまで人を愛せる人間なんて瑪瑙さんくらいのものです」
翡翠は必死に熱弁したが俺の怒りの炎は揺るがない。
瑪瑙の愛故の凶行、それは解っている。でもそれは俺に対しても言える事だった。
俺が翡翠の制止を振り切り自分の部屋に戻ると、やはりそこに瑪瑙がいた。
「どうしたの?セキレイさん、そんなに慌てて」
瑪瑙はテーブルに肘をついてニヤニヤしている。
この顔を見ると、瑪瑙は全てを把握しているに違いない。
女狐め。
「瑪瑙っ!お前、よくも翡翠を」
俺はズカズカと鼻息も荒く瑪瑙に詰め寄った。
「なんだ、あいつ、私の事まで喋っちゃったか~」
瑪瑙は焦った様子もなくふてぶてしい態度で脚を組み、ポケットから煙草を取り出す。
「セキレイさん、火、ある?」
俺はカッとなって煙草ごと瑪瑙の頬をぶった。
パシッと乾いた音がして、勢いで瑪瑙は左を向く。
「セキレイさん、酷いじゃない、踊り子の顔をぶつなんて」
瑪瑙は半笑いで抗議し、それが俺の怒りの火に油を注いだ。
「お前、自分が何をやったか解ってるのか!?」
俺は瑪瑙に掴みかかり、その細い首に手をかける。
「解ってるよ、セキレイさん、私が画策したんだもの。その様子じゃあまんまと私の悪巧みが成功したみたいだけど、あの男は帰ってこなそうだね?五人囃子の一人が欠けたか」
『あーあ』と瑪瑙は全然悔しくなさそうに背もたれにもたれ掛かる。
「何でこんな事をするんだよっ!?翡翠は関係ないだろ!?不満があるなら俺に言えばよかったろ!?」
俺の両手の親指に力が入ったが瑪瑙は怖じ気づく事もなく落ち着き払っていた。
「だってセキレイさんの弱点はあの子でしょ?私はね、セキレイさんがあの頃の私みたいに絶望するところを見てみたいんだよ」
「あの頃の私?」
俺は両手に力が入らぬよう必死で自分を抑制する。
『あの頃』とは、瑪瑙がここの兵によって崖に追い込まれ、身を売って見逃してもらったというあの事か。
「あの後、私がどうやってここまで生きてきたか教えてあげるよ。私はね、セキレイさんに騙されたと思って自棄になって兵とヤッて、それからたがが外れたみたいに体を売って色んな人間の物になった。中には王の趣味を遥かに越えるガチの変態もいて、私の人権はことごとく粉砕された。あの旅一座だって表向きは伝統芸能みたいだけど、言ってみれば私は昔の芸者だよ。身を売って生計をたててる。ずっとずっと私だけが汚い世界にいて汚れていく……でも私はいつか再びセキレイさんと対峙して、あの時何故来てくれなかったのかちゃんと話したいと思ってた。それが……体をはったコネクションでようやく城に入る事が出来たと思ったら、セキレイさんは新しい献上品に夢中で心を奪われてた……そうしたら何もかもがどうでも良くなってセキレイさんの全てをぶち壊してやりたくなったって訳」
この話を聞くと、やはり俺には瑪瑙の首を締め上げる事は出来ない。それに翡翠が言った『こんな酷い事をやってしまえる程にセキレイさんを凄く凄く愛していた』という言葉が俺の犯行をとどまらせる。
「今でも思う、あの時セキレイさんが来てくれていたら、私の人生は違っていたって。きっと毎日が輝いていて、平凡だけどとても幸せだったろうなってさ……」
そう言った瑪瑙の青い瞳がどことなく寂しそうで俺は良心が痛んだ。
俺だってあの時は瑪瑙と同じ夢を描いていた。城を捨てても彼女と一緒にいたいと思っていた。あの日、あんな事さえ起こらなければ俺達の未来は輝かしいものになっていたのに……
瑪瑙と生き別れるまでの人生だってとびきり幸せだったし、一緒に過ごせて良かったと思っている。
瑪瑙と過ごした日々は、翡翠と過ごしてきた日々と同じように心豊かで尊いものだった。
仕事で失敗して落ち込んでも、部屋に帰ると瑪瑙が居て、何も言わずとも俺を励ましてくれたっけ。瑪瑙とだって誕生日もクリスマスもバレンタインもホワイトデーもみどりの日も何処かの国の旧正月も必ず一緒に祝っていたな。俺が忘れていると、瑪瑙は拗ねて部屋に閉じこもった。
思い出の引き出しを開けると瑪瑙とのエピソードが溢れてくる。
やっぱり俺には瑪瑙を傷付けられない。
俺は彼女の首から手を放した。
こんな事になっても、俺の根底には瑪瑙への根深い愛があった。
「瑪瑙、お前には悪い事をしたと思っている。俺は本気でお前を愛したが、俺があの時、あの場所に行けなかったのも事実だ。お前の事は手にかけない。だがお前は城から出て行け。そして2度と戻るな。お前の事をもう一度不幸にしたくない」
俺は想いを断ち切るように瑪瑙に背を向けた。
「もし今回の事件の事を口外したら、俺は翡翠ではなくお前を処断する」
「わかったわかった、命が惜しいから言わないし、城からも出て行くって」
瑪瑙は緊張感のない返事をして部屋を出て行った。
翡翠の被害状況の割りに呆気ない終わり方だと思った。
それでも、瑪瑙が二度と翡翠に悪さしないのであればそれでいい。
瑪瑙には、何処か知らない地で幸せになってほしいと切に願った。
それから俺は翡翠を迎えに行き、二人で部屋に戻った。
鷹雄からは第2の選択を打診されたが、今はとにかく翡翠を休ませてやりたい。
翡翠を処断するか、翡翠を連れて城を脱出するかについては後日改めて考える事にする。
勿論、前者を決行する気は無いが、そうなると翡翠を裏社会に売らなければならないという新たな選択肢が出て来てしまう。しかしこれも決行する気はない。
そうなるとやはり……
歴史は繰り返されるのか?
未だに鳴り止まぬ激しい雷を見て、俺は当たり前の様に翡翠を自分のベッドに下ろすが、彼女はアフターピルで体が怠いにも関わらず脚を引き摺りながら自分の足で子供部屋に入った。
「翡翠、大丈夫なのか?」
俺は、自分のベッドに潜り込む翡翠に布団を掛けてやる。
この歳になっても翡翠は雷が怖くて一人寝出来なかったのに……
「……はい、セキレイさん、本当にすみませんでした」
翡翠は布団から目だけを出し、伏し目がちに謝罪した。
「だから謝るなって、今は何も考えずに休め。これからについては後から考えよう」
そうして俺が翡翠のおでこにキスをしようと顔を寄せると、彼女は固く目を閉じて体を強張らせる。
そうか、やっぱり翡翠は雷よりも俺の方が怖いんだ。
仕方のない事だが、内心は酷くショックだった。
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