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風斗襲来
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「やあ、翡翠」
風斗さんは前世と変わらぬ姿……よりも少し若い風貌で右手を掲げ、前世の続きをするみたいに、当たり前に私を抱き締めた。
「風斗さんっ!?」
私は心臓がひっくり返る程仰天して買い物袋をベンチに落とす。
「びっくりした?」
「そりゃあ……」
言葉に出来ないくらい驚いたさ。
「俺も転生したんだ」
風斗さんは『来ちゃった♡』みたいなノリで嬉しそうに微笑んだが、私は後ろめたい気持ちでいっぱいだった。
「そ、そう、みたい、デスネ」
私がセキレイさんと双子になった経緯と、一緒に暮らしている事を知ったら、風斗さんはどう思うだろう?
傷付く?
怒る?
後者なら私は現世でもあの三角木馬に乗せられて、そりゃあもう、ヒーヒー言わされるだろう。
鬼怖っ!!
仮に元夫婦だったのにも関わらず、パワーバランスは前世のままなのだ。そう思うと、無意識に体が強張った。
「翡翠──怖い?」
「じ、じぇーんじぇん」
耳ともに当てられた風斗さんの熱い吐息が凍えるように冷たく感じる。
逆クライマーズ・ハイか。
全私が震撼した。
「いいね、この緊張感。昔を思い出すよ」
一体、昔のどの場面だ?
本当に怖い。
いや、私は風斗さんの事が好きは好きで、愛していたし、その気持ちは永遠の物だけど、前世から遺伝子に植え付けられた恐怖心というものはそう簡単には払拭出来ないのだ。
「あはは、じぇじぇじぇ?」
「え?へへ……じぇじぇじぇ……ですね」
気持ち的には恐怖で漏らしそうでジョジョジョだけど。
私は引きつった愛想笑いでその場を凌ぐ。
「少し、座って話さない?」
「えっ、でも……」
早く帰って夕飯の支度をしないと、セキレイさんのが先に家に着いてしまう。今は唐突過ぎて時間も無いので風斗さんとは後日改めてゆっくり対談したい。私だって、愛する旦那さんとは積もる話もある。けど今は、セキレイさんが──いや、セキレイさんの帰りは遅いかもしれない。それどころか帰って来ないかも……
私が肩を落とすと、風斗さんは慰めるみたいに私の背中を二、三度ポンポンと叩いてくれた。
「大丈夫。俺は全部知ってるんだ」
「全部って、どこまでですか?」
転生の件は知っているようだけど、詳細についてはどこまで把握しているのか、正直、怖いところではある。
「翡翠以上に全てを知ってるよ?何なら神様くらい色々と把握してるつもりさ」
「えっ」
となると、私とセキレイさんが双子に転生したいきさつも既に知られているのか。
「これでも大国の主だったからね、神様から忖度くらい受けても罰は当たらないだろ?」
「へ、へぇ……」
全てを知ったうえで、この人は何を感じ、何をしてくるのか、非常に怖い。
「それで、君達二人は双子に転生したんだってね」
来たっ‼
「え、ええ、まぁ……」
私の目は泳ぎに泳ぎまくった。
君達二人ってのは、当然、私とセキレイさんの事で間違いないよね。
「どっかの国では、神様が、前世で一緒になれなかった男女を来世で双子にするって言うけど、仮に俺らは夫婦だったのに、こうして君ら二人に双子になられると俺の立場ってもんがないよね?」
風斗さんは私の腰に腕を回し、視線を合わせる様におでことおでこを当ててくる。
私は、やっぱりそこに突っ込んできたかとツバを飲み込んだ。
「まるで前世から君らが愛し合ってたみたいだ」
ギクリ、そんな擬音が実際にしてきそうな程、私の心臓が高鳴る。
「……」
「これってなんか、前世で俺が権力に物を言わせて愛し合う二人を引き裂いたみたいだよねぇ。ハハ、まるで映画だ」
「そんな、まさか」
風斗さんの事は本当に心から愛していたし、今だって、再会して嬉しい気持ちもある。けれど私はセキレイさんが初恋の相手で、特別な思い入れがあるのも確か。それ故に私は風斗さんの目を見れない。
「翡翠、そんなに怯えなくてもいいだろ?」
「えっ、怯えてなんか……」
手は震えていたが、怯えてなんか……なくもない。
前世から風斗さんは、私とセキレイさんの関係性を疑っていたような気がするが、私としてはいざこざを起こさない為にも気のせいだとしらをきりたい。
「ハハ、昔を思い出すなぁ。翡翠は今も昔も俺の震えるハムスターだ」
風斗さんにおでこをグリグリと左右に振られ、私はその勢いに、彼の胸板にしがみつく。
『俺の』って言った。
「……」
風斗さんは、現世でも疑うことなく私を自分の物だと認識している。
何か後ろ暗いな。
実際、私は前世ではそれこそ風斗さんの物だったのだが、今の自分がどうありたいか自分でもよく解らなかった。
「そんな顔しないで。俺は逆に、現世で俺とお前が双子の兄妹にならなくて良かったと思ってるんだ」
そんな顔?
血の気が引いていたので、青ざめた顔、という事かな?
いけないいけない、表情管理。
「なんでって?そりゃあ、双子になんか転生してたら恋愛なんて出来ないからね」
「そう、ですよね……」
納得していた事だが、今は、第三者からその事実をつきつけられると辛い。
「久しぶりの再会なのに元気無いね。嬉しくない?」
「そんなんじゃないです。ただ、びっくりしてしまって」
愛する夫に再会出来たのは確かに嬉しいけれど、今は前世と状況が違って複雑なのだ。
「そう、じゃあ座ろっか?」
「あっ……はい」
セキレイさんの事は気掛かりだったけれど、今頃彼は瑠璃さんと仲直りしているだろうと思ったら、人恋しくて風斗さんの誘いに乗ってしまった。
私は言われるがまま、されるがまま、風斗さんの座る股の間にちょこんと座らされる。
「……」
なんだこれ、時空を超えて恥ずかしいな。
言わずもがな、私は前のめりに縮こまる。
「恥ずかしい?」
耳元でクスクスと笑われ、私はビクッと肩を怒らせた。
なんか前からこられるより恥ずかしいな。
「耳が真っ赤だ」
そうして風斗さんから右の耳朶を指先で弄ばれ、私はそのこそばゆさに唇を噛み締めて耐える。
この感じは久々だ。なんと言うか、こう──
「ずっと会いたかった」
風斗さんは切ない声音でそう言うと、性急に後ろから私をガッチリ抱き締める。
風斗さんの白くてなまっちょろい腕に筋肉と血管が浮き、その力強さを己の肩で感じた。
そうだ、覚えてる。私はこの細くて綺麗な腕に抱かれ──尻を打たれた。
そうそうこの感じ。思い出した。湧き上がるゾワゾワとした恐怖とスリル。
そして──
この孤独な暴君のそばにいてあげたいという自分の母性。
全部覚えてる。
彼がどんな風に私を愛し、どれだけ深く愛を注いでくれたか。
そして私も、彼を大事な家族として自分が亡くなるその時まで、生涯愛し続けた。
「ごめんなさい、私も会いたかったです」
私はソッと風斗さんの左腕に手を添えた。
決して風斗さんの事を忘れていた訳ではないけれど、セキレイさんの事ばかり気にしていた自分を反省する。
「なんで謝るの?おいたしちゃった?」
「っあ、いえ……」
風斗さんの言う『おいた』とは、お仕置きをする上での枕詞というか、所謂お仕置きの引き金的な隠語である。そんな事を言われ、私は背筋にゾクゾクとした悪寒を感じた。
鳥肌がヤバイ。
本能で腰が痺れるとか、私も大概変態だ。
「あー、久しぶりに翡翠にお仕置きしたいな~」
風斗さんが後ろから私の肩に顔を埋め、結構な声量で可愛く駄々を捏ね始める。
「ちょっ、駄目ですよ」
「なんで?現世では俺が王様じゃないから?」
風斗さんが私の肩に顔を埋めたままため息を吐いた。
肩が熱い。
なんか不憫だ。転生しても、風斗さんは王という役職の呪縛から逃れられずにいるのか。
「違いますよ。前世でだって、私は貴方が王様だから家族になった訳じゃありません」
「知ってるよ、セキレイの為だろ?」
「違……くないです。きっかけはそうです。根気よく私を育ててくれたセキレイさんに恩返しする為に献上品として頑張ってました。でも私は、風斗さんと過ごすうち、貴方を王としてではなく、一人の男性、夫として大事に思うようになりました。それは今も変わりません」
「今も変わらず?」
「はい」
「俺を愛してる?」
愛して……
「……勿論です」
それに嘘は無い。ただ、同時にセキレイさんの顔が浮かんでしまう事が申し訳なかった。
愛する人が二人いる、なんて、不誠実の極みだ。
「こっち見てさ、ちゃんと言ってよ」
風斗さんの自信無さげな声が私の胸を締め付ける。
「あの……」
私は俯いて自身の両膝の上で両の拳を握り締めた。
「……愛してます……」
私は絞り出すようにその言葉を口にした。
前はもっと自然に言えたのに……
「こっちを向いてくれなかったね」
風斗さんは残念そうにそう言った。
「ごめんなさい、恥ずかしかったんです」
言い訳はこんなにスラスラ出てくるのに ……
「いいよ、少しずつ慣らそう?」
後ろからギュウッと強く抱き締められ、私は、自身の良心まで締め上げられているような気になった。
「あのっ……はい……」
少しずつって事は、風斗さんとはこれからちょくちょく顔を合わせるって事だよね。それ自体は喜ばしい事なのに、まるで自分が風斗さんを騙しているかのように心苦しくなるのは、自分の心が浮ついているからだ。
「そんなに恐縮しないでよ。前世では子供までもうけた夫婦だったんだから」
「そう、ですね」
私にはずっと気になっていた事がある。
前世で産んだ私の子供達は、今世ではどうなるのか、という事。
もし、私と風斗さんが今世でも一緒になれば、また私達の元に生まれてきてくれるかもしれない。そうでなければ彼らは何処に行くのか、この世に生まれてこられないかもしれない。
──そう思ったら、私はどうするべきか、必然的に答えが出た。
「ほら、こっちを向いて」
「はい……」
私は風斗さんに促されるがままに首だけ彼の方を向き、迫ってくる彼の唇に自身の唇を合わせようとした。
これでいいんだ。
だって前世では風斗さんを本当に愛していたし、子供達にはまた私の元に生まれて来てほしい。
風斗さんの唇が探るように優しく私の唇に這わされ、私は瞼を閉じて懐かしいその感触を思い出す。
怯える私を見て可愛いいと言っていた風斗さんだけれど、転生振りの彼のキスは私を気遣うように優しい。
心の片隅にセキレイさんへの想いを置いたまま、風斗さんを愛し、愛し合った日々が思い起こされる。
やっぱり転生しても、私達はこうなる運命だったんだ。
私は風斗さんの事が好きだ。
でもそれは、ズキズキと良心が痛む好きだ。
ズキズキとドキドキ、私の心臓は混乱している。
「っ……」
舌が……
人気も無く、薄暗くはなってきたが、こんな公の場で濃厚且つ長いキスは恥ずかしい。そう思うのに、風斗さんは止めるどころか私を食べ尽くそうと私の顔をホールドして離れてくれない。
そんな時──
「風斗っ!!」
よく見知った声がして、乱暴に腕を引き上げられた。
風斗さんは前世と変わらぬ姿……よりも少し若い風貌で右手を掲げ、前世の続きをするみたいに、当たり前に私を抱き締めた。
「風斗さんっ!?」
私は心臓がひっくり返る程仰天して買い物袋をベンチに落とす。
「びっくりした?」
「そりゃあ……」
言葉に出来ないくらい驚いたさ。
「俺も転生したんだ」
風斗さんは『来ちゃった♡』みたいなノリで嬉しそうに微笑んだが、私は後ろめたい気持ちでいっぱいだった。
「そ、そう、みたい、デスネ」
私がセキレイさんと双子になった経緯と、一緒に暮らしている事を知ったら、風斗さんはどう思うだろう?
傷付く?
怒る?
後者なら私は現世でもあの三角木馬に乗せられて、そりゃあもう、ヒーヒー言わされるだろう。
鬼怖っ!!
仮に元夫婦だったのにも関わらず、パワーバランスは前世のままなのだ。そう思うと、無意識に体が強張った。
「翡翠──怖い?」
「じ、じぇーんじぇん」
耳ともに当てられた風斗さんの熱い吐息が凍えるように冷たく感じる。
逆クライマーズ・ハイか。
全私が震撼した。
「いいね、この緊張感。昔を思い出すよ」
一体、昔のどの場面だ?
本当に怖い。
いや、私は風斗さんの事が好きは好きで、愛していたし、その気持ちは永遠の物だけど、前世から遺伝子に植え付けられた恐怖心というものはそう簡単には払拭出来ないのだ。
「あはは、じぇじぇじぇ?」
「え?へへ……じぇじぇじぇ……ですね」
気持ち的には恐怖で漏らしそうでジョジョジョだけど。
私は引きつった愛想笑いでその場を凌ぐ。
「少し、座って話さない?」
「えっ、でも……」
早く帰って夕飯の支度をしないと、セキレイさんのが先に家に着いてしまう。今は唐突過ぎて時間も無いので風斗さんとは後日改めてゆっくり対談したい。私だって、愛する旦那さんとは積もる話もある。けど今は、セキレイさんが──いや、セキレイさんの帰りは遅いかもしれない。それどころか帰って来ないかも……
私が肩を落とすと、風斗さんは慰めるみたいに私の背中を二、三度ポンポンと叩いてくれた。
「大丈夫。俺は全部知ってるんだ」
「全部って、どこまでですか?」
転生の件は知っているようだけど、詳細についてはどこまで把握しているのか、正直、怖いところではある。
「翡翠以上に全てを知ってるよ?何なら神様くらい色々と把握してるつもりさ」
「えっ」
となると、私とセキレイさんが双子に転生したいきさつも既に知られているのか。
「これでも大国の主だったからね、神様から忖度くらい受けても罰は当たらないだろ?」
「へ、へぇ……」
全てを知ったうえで、この人は何を感じ、何をしてくるのか、非常に怖い。
「それで、君達二人は双子に転生したんだってね」
来たっ‼
「え、ええ、まぁ……」
私の目は泳ぎに泳ぎまくった。
君達二人ってのは、当然、私とセキレイさんの事で間違いないよね。
「どっかの国では、神様が、前世で一緒になれなかった男女を来世で双子にするって言うけど、仮に俺らは夫婦だったのに、こうして君ら二人に双子になられると俺の立場ってもんがないよね?」
風斗さんは私の腰に腕を回し、視線を合わせる様におでことおでこを当ててくる。
私は、やっぱりそこに突っ込んできたかとツバを飲み込んだ。
「まるで前世から君らが愛し合ってたみたいだ」
ギクリ、そんな擬音が実際にしてきそうな程、私の心臓が高鳴る。
「……」
「これってなんか、前世で俺が権力に物を言わせて愛し合う二人を引き裂いたみたいだよねぇ。ハハ、まるで映画だ」
「そんな、まさか」
風斗さんの事は本当に心から愛していたし、今だって、再会して嬉しい気持ちもある。けれど私はセキレイさんが初恋の相手で、特別な思い入れがあるのも確か。それ故に私は風斗さんの目を見れない。
「翡翠、そんなに怯えなくてもいいだろ?」
「えっ、怯えてなんか……」
手は震えていたが、怯えてなんか……なくもない。
前世から風斗さんは、私とセキレイさんの関係性を疑っていたような気がするが、私としてはいざこざを起こさない為にも気のせいだとしらをきりたい。
「ハハ、昔を思い出すなぁ。翡翠は今も昔も俺の震えるハムスターだ」
風斗さんにおでこをグリグリと左右に振られ、私はその勢いに、彼の胸板にしがみつく。
『俺の』って言った。
「……」
風斗さんは、現世でも疑うことなく私を自分の物だと認識している。
何か後ろ暗いな。
実際、私は前世ではそれこそ風斗さんの物だったのだが、今の自分がどうありたいか自分でもよく解らなかった。
「そんな顔しないで。俺は逆に、現世で俺とお前が双子の兄妹にならなくて良かったと思ってるんだ」
そんな顔?
血の気が引いていたので、青ざめた顔、という事かな?
いけないいけない、表情管理。
「なんでって?そりゃあ、双子になんか転生してたら恋愛なんて出来ないからね」
「そう、ですよね……」
納得していた事だが、今は、第三者からその事実をつきつけられると辛い。
「久しぶりの再会なのに元気無いね。嬉しくない?」
「そんなんじゃないです。ただ、びっくりしてしまって」
愛する夫に再会出来たのは確かに嬉しいけれど、今は前世と状況が違って複雑なのだ。
「そう、じゃあ座ろっか?」
「あっ……はい」
セキレイさんの事は気掛かりだったけれど、今頃彼は瑠璃さんと仲直りしているだろうと思ったら、人恋しくて風斗さんの誘いに乗ってしまった。
私は言われるがまま、されるがまま、風斗さんの座る股の間にちょこんと座らされる。
「……」
なんだこれ、時空を超えて恥ずかしいな。
言わずもがな、私は前のめりに縮こまる。
「恥ずかしい?」
耳元でクスクスと笑われ、私はビクッと肩を怒らせた。
なんか前からこられるより恥ずかしいな。
「耳が真っ赤だ」
そうして風斗さんから右の耳朶を指先で弄ばれ、私はそのこそばゆさに唇を噛み締めて耐える。
この感じは久々だ。なんと言うか、こう──
「ずっと会いたかった」
風斗さんは切ない声音でそう言うと、性急に後ろから私をガッチリ抱き締める。
風斗さんの白くてなまっちょろい腕に筋肉と血管が浮き、その力強さを己の肩で感じた。
そうだ、覚えてる。私はこの細くて綺麗な腕に抱かれ──尻を打たれた。
そうそうこの感じ。思い出した。湧き上がるゾワゾワとした恐怖とスリル。
そして──
この孤独な暴君のそばにいてあげたいという自分の母性。
全部覚えてる。
彼がどんな風に私を愛し、どれだけ深く愛を注いでくれたか。
そして私も、彼を大事な家族として自分が亡くなるその時まで、生涯愛し続けた。
「ごめんなさい、私も会いたかったです」
私はソッと風斗さんの左腕に手を添えた。
決して風斗さんの事を忘れていた訳ではないけれど、セキレイさんの事ばかり気にしていた自分を反省する。
「なんで謝るの?おいたしちゃった?」
「っあ、いえ……」
風斗さんの言う『おいた』とは、お仕置きをする上での枕詞というか、所謂お仕置きの引き金的な隠語である。そんな事を言われ、私は背筋にゾクゾクとした悪寒を感じた。
鳥肌がヤバイ。
本能で腰が痺れるとか、私も大概変態だ。
「あー、久しぶりに翡翠にお仕置きしたいな~」
風斗さんが後ろから私の肩に顔を埋め、結構な声量で可愛く駄々を捏ね始める。
「ちょっ、駄目ですよ」
「なんで?現世では俺が王様じゃないから?」
風斗さんが私の肩に顔を埋めたままため息を吐いた。
肩が熱い。
なんか不憫だ。転生しても、風斗さんは王という役職の呪縛から逃れられずにいるのか。
「違いますよ。前世でだって、私は貴方が王様だから家族になった訳じゃありません」
「知ってるよ、セキレイの為だろ?」
「違……くないです。きっかけはそうです。根気よく私を育ててくれたセキレイさんに恩返しする為に献上品として頑張ってました。でも私は、風斗さんと過ごすうち、貴方を王としてではなく、一人の男性、夫として大事に思うようになりました。それは今も変わりません」
「今も変わらず?」
「はい」
「俺を愛してる?」
愛して……
「……勿論です」
それに嘘は無い。ただ、同時にセキレイさんの顔が浮かんでしまう事が申し訳なかった。
愛する人が二人いる、なんて、不誠実の極みだ。
「こっち見てさ、ちゃんと言ってよ」
風斗さんの自信無さげな声が私の胸を締め付ける。
「あの……」
私は俯いて自身の両膝の上で両の拳を握り締めた。
「……愛してます……」
私は絞り出すようにその言葉を口にした。
前はもっと自然に言えたのに……
「こっちを向いてくれなかったね」
風斗さんは残念そうにそう言った。
「ごめんなさい、恥ずかしかったんです」
言い訳はこんなにスラスラ出てくるのに ……
「いいよ、少しずつ慣らそう?」
後ろからギュウッと強く抱き締められ、私は、自身の良心まで締め上げられているような気になった。
「あのっ……はい……」
少しずつって事は、風斗さんとはこれからちょくちょく顔を合わせるって事だよね。それ自体は喜ばしい事なのに、まるで自分が風斗さんを騙しているかのように心苦しくなるのは、自分の心が浮ついているからだ。
「そんなに恐縮しないでよ。前世では子供までもうけた夫婦だったんだから」
「そう、ですね」
私にはずっと気になっていた事がある。
前世で産んだ私の子供達は、今世ではどうなるのか、という事。
もし、私と風斗さんが今世でも一緒になれば、また私達の元に生まれてきてくれるかもしれない。そうでなければ彼らは何処に行くのか、この世に生まれてこられないかもしれない。
──そう思ったら、私はどうするべきか、必然的に答えが出た。
「ほら、こっちを向いて」
「はい……」
私は風斗さんに促されるがままに首だけ彼の方を向き、迫ってくる彼の唇に自身の唇を合わせようとした。
これでいいんだ。
だって前世では風斗さんを本当に愛していたし、子供達にはまた私の元に生まれて来てほしい。
風斗さんの唇が探るように優しく私の唇に這わされ、私は瞼を閉じて懐かしいその感触を思い出す。
怯える私を見て可愛いいと言っていた風斗さんだけれど、転生振りの彼のキスは私を気遣うように優しい。
心の片隅にセキレイさんへの想いを置いたまま、風斗さんを愛し、愛し合った日々が思い起こされる。
やっぱり転生しても、私達はこうなる運命だったんだ。
私は風斗さんの事が好きだ。
でもそれは、ズキズキと良心が痛む好きだ。
ズキズキとドキドキ、私の心臓は混乱している。
「っ……」
舌が……
人気も無く、薄暗くはなってきたが、こんな公の場で濃厚且つ長いキスは恥ずかしい。そう思うのに、風斗さんは止めるどころか私を食べ尽くそうと私の顔をホールドして離れてくれない。
そんな時──
「風斗っ!!」
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