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翡翠と雷と我慢
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翡翠はあれからなんとなく俺の恋人ごっこに付き合い、俺を未だに『セキレイさん』と呼んでくれている。かりそめの恋人を口実にしたら軽いスキンシップくらいなら受け入れてくれるし、進展はしないものの、現状、生殺しのままプラトニックな良い関係を築けていた。
「それでセキレイさん、今日、学校でマラソンをしたんですけど──」
夜、俺が風呂に入っていると、翡翠は普段通り洗面所から俺に話し掛けてきて、俺は俺で体を洗いながら適当な返事をして前触れもなく風呂場から出て来る。
「ギャーーーーーッ!!!!」
俺は一応、腰にタオルを巻いてはいるが、毎回翡翠から悲鳴をあげられた。
「そろそろ慣れろ」
まるでこっちが変質者にでもなった気分だ。
「だってセキレイさん、双子の兄のくせにしっかり男の体格をしていていやらしいんですもん」
いや、双子の兄は関係ないだろ。
「難癖つけるならリビングに一人でいればいいだろ?それに、俺の体がいやらしいんじゃなくて、お前がいやらしい目で見るからいやらしいんだろ」
「リビングに一人はもっとギャーなので嫌です。すみませんでした。いやらしい目で見てすみませんでした。深く、お詫び申し上げます」
そう言うと翡翠はやらかした政治家よろしく恭しく頭を下げた。
「まったく」
俺が着換えを始めると、翡翠はいつも通り俺に背を向けてソワソワハァハァしながらそれが終わるの待ち、俺が髪にドライヤーをかける頃には俺の腰に両手を置いて待機する。そんでもって俺がドライヤーを終えて自分の部屋に行くと、必然的にそのまま翡翠もくっついて来て、各々の布団に潜り込んで就寝となる。因みに無事、翡翠の布団は家に届いたが、ベッドの下に誰かいるというホラー映画を観てしまった翡翠はそのまま俺のベッドで寝る事になった。
「電気消すぞー?」
シーリングライトの消灯担当は何故か俺。
「あっ、待って下さい!」
ベッドの上から翡翠が布団に潜り込むガサゴソという音がして、それから『お願いします』という翡翠の声を合図に電気を消す。
これが俺らの一日の終わりだ。
翡翠が越してきてから一ヶ月、ずっとこんな感じで、ここから何かが始まるとかは全く無い。
しかしこの日の夜はいつもと違っていた。
今宵は今朝から続く雨に雷光も加わり、それがどんどん近付いてきているのが高まる雷鳴で判った。
ガガーンッ!!
近所に避雷針もあり、引き寄せられるようにみるみる雷が近付いてくる。
ガガーンッ!!!!
布を引き裂く様な激しい雷鳴がして、部屋の窓が空気の振動でガタガタと小刻みに揺れた。
光ってから間が無いから、こりゃあ近くに落ちたな。
さすがの俺でも眠れなくて、両手を頭の下に敷いてボンヤリ考え事をしていると、ベッドの上からカサカサと何かが蠢く音がした。
賑やかだな。
あぁ、そういえば、翡翠は雷が大の苦手だったな。それは前世から変わっていないのか。でも隣に俺がいるんだし、翡翠ももう大きいから大丈夫か。
思えば、俺は翡翠が俺の布団に潜り込んで来てくれるから雷の日が好きだったな。いくら喧嘩をして気まずくなっても、雷さえ鳴ったら仲直り出来たし、雷を口実に翡翠を抱いて寝る事も出来た。でもそれがいつしか翡翠が俺の手を離れ、風斗に献上されてからは、俺は雷の日が恨めしくなり、大嫌いになった。雷が鳴る度、俺は独り寝のベッドで、もう、翡翠を慰めてやれるのは俺ではなく風斗なのだと思い知らされ、嫉妬でどうにかなっていた。
今は隣に翡翠がいてくれて、そんな前世の苦しみも懐かしく思える。
このままずっと、俺の目の届くところにいてくれたらいいのに。
俺の物になってくれたら尚良し。
ゴロゴロ……ガガーンッ!!!!!!
ガサゴソ……
翡翠の奴、雷が怖くて頭から布団を被って丸くなってるんだろうな。
想像に難くない。
ガガガーーーンッ!!!!
ゴソゴソゴソゴソゴソゴソ!!
雷が近付くにつれ、ベッドの上がやけにせわしなくなってきた。
おいおい大丈夫かよ?
オネショでもするんじゃないか?
一応、翡翠の使っているベッドは俺の私物である。
オネショだけは……
俺が思うのは、ベッドは洗えない、という事。
お婆ちゃんの知恵袋だったか、オネショをする子供には焼いた梅干しを食べさせると良いと聞いた事がある。雷の日は、念の為
翡翠にそれを食べさせるべきか……
何しろベッドは洗えない。問題はそこなんだ。ベッドは洗えないくせに木製の部分が少なからずオネショを吸収するんだ。上辺だけ拭き取ったぐらいでは浸透したオネショは除去出来ない。
「……」
まあ、翡翠のオネショならいいか。
ベッドで潮吹きをさせたら同じ事だし。
どっちも同じ成分だよな?
あ、ヤベ、想像した。
ちょっと興奮してしまった。
他の事を考えよう。
双子がどうとか考える以前に、勝手に人の寝込みを襲うような事は避けないと。
羊を数えよう。いや、羊じゃパンチが弱い。ヤギを数えよう。
ヤギが──
ガラガラ……ガガーーーーーーーンッ‼!!!!!!
突如、今日一の雷鳴が轟き、それと同時にベッドの上から何かがボトッと俺の布団に落ちてきて、俺はその衝撃をまともに腹に受けて短く声をあげた。
「うぅ……」
腹にボディーブローでもくらったみたいだ。凄い痛い。
俺が鈍い痛みに耐え、ベッド側に背を向けて腹を押さえていると、俺の布団に落ちてきた重量のある塊が後ろから俺の腰に手を回してきた。
翡翠だな。なんだ、やっぱり耐えられない程雷が怖かったんじゃないか。
「ひ──」
『翡翠』と声をかけようとして、もし翡翠が、俺が起きている事を知ったら気まずくて逃げていくかもしれないと思い、俺は狸寝入りを決め込んだ。
「ハァハァハァハァ」
翡翠の吐息が背中に当たり、その部分だけが熱くなる。
ゴロゴロゴロゴロ……
雷は少し弱まったのにもかかわらず、俺の腰に回された翡翠の手に力が込められた。
かわいすぎる。振り返って抱き締めて『大丈夫、大丈夫』って声をかけてあげたい。
でも駄目だ。真正面から密着されたら俺の興奮がバレるし、何より忍耐が崩壊しそうだ。
こんなことなら適度に抜いておけば良かった。
修行僧の如き日々の禁欲生活が恨めしい。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……
「わぁ……コワッ……」
翡翠が声を漏らし、ムギューと俺の背中に張り付いてくる。
「……」
うーん。
……………………なんか当たってんな。
触り心地の良さそうなプニプニとした何かが俺の背中に押し付けられているようだ。
これはあれだな、あれ以外にないよな?
役得と思う反面、俺は我慢の窮地に立たされていた。
ヤバい。触りたいどころか揉みたい。揉みしだきたい。それからあわよくば──
──いやいや嫌われる。間違いなく嫌われる。クラッカーで撃たれて警察に突き出される。
ヤギ……いや、ヤギなんかじゃ駄目だ。水牛でも数えよう。
水牛が一頭、水牛が二頭、水牛がぁ──
「セキレイさん」
「!」
いきなり翡翠に声をかけられ、俺は頭の中で水牛を見失う。
「……」
なんだ?
俺が起きてるかカマをかけて試しているのか?
「セキレイさん?」
反応するべきか?
それともこのまま寝たふりをしてやり過ごすか?
俺は悩んだ挙げ句、暫く様子を見る事にした。
「ほんとに寝てるのかな?」
俺は翡翠の独り言にじわってしまう。
面白っ。
気がつけば、俺はこの状況を楽しんでしまっていた。
「セキレイさんセキレイさん、私、知っているんですよ?」
なにが?
カマのかけ方が独特だな、おい。
俺は身じろぎひとつせず、翡翠の奇行に耐え続ける。
「セキレイさん、スマホに妹萌えのいやらしい動画を保存してるでしょう?」
いや、なんで知ってるん?
あれはただ、ちょっと魔が差してお気に入り登録しただけで、別におかずになんか──
俺は今すぐ弁解したくて居てもたってもいられなくなったが、ここまできたら今更反応も出来なくて耐えに耐える。
「やっぱり、ほんとに寝てるのか」
もはや、なんでそこまで入念に確認する必要があるんだよ、と思っていると、翡翠はやっと安心したのか俺の背に身を預けて寝息をたて始めた。
なんだったんだ?
そんなコソコソしなくとも堂々と甘えたらいいのに。
俺は背中が気になって水牛どころではなかったが、朝方気を失うように眠りにつき、それからいつも通り起床すると、翡翠は既に部屋から出た後だった。
「おはよう」
俺は部屋から出て、寝癖のまま台所の翡翠に挨拶する。
「おはようございます、凄いクマですね」
翡翠は俺の顔を見るなりクスクスと笑った。
誰のせいだよ。
「お前は良く眠れたのか?雷だったけど」
「そうですか?全然気づきませんでした」
昨夜あんなにガクブルだったくせに。
「どの口が……」
「え?」
「いや、なんでも」
素直じゃないなあ。
「今夜も雷らしいけど」
俺が意地悪をしてそんな風に言うと、翡翠はため息にも似た空気の抜けた返事をした。
「えっ!あ、はぁ……」
わかり易いなあ。
「なあ、翡翠」
「はぁ」
「俺のスマホ、勝手に見たか?」
「いいえ」
いや、嘘つけ!
そんな平然と嘘がつけるなんて人間性疑うわ。
「そうか」
……セキュリティを強化せねば。
「あぁ、そうそう、セキレイさん、今日、帰りにバイトの面接があるんで先に帰ってて下さい」
翡翠からそう言われ、俺はダイニングテーブルの椅子を引く手を止めた。
「しなくていいって言ったよな?」
とは言え、いつかはそんな事を言い出すのではないかと思っていた。
「お金が稼げるから部活するよりいいじゃないですか」
翡翠は二人分の朝食をダイニングテーブル上に並べていく。ご飯がよそられた茶碗は、この間二人で購入した鳥の夫婦茶碗だ。
「因みに何のバイトだ?」
何にせよ、俺の目の届かないところで翡翠に活動されてはいざという時に助けてやれないし、変な虫から守れない。
「うーんと、なんかあ、成人男性とお散歩するだけのバイトみたいです」
いや、それ、JKリフレー!!
俺は引いた椅子に腰掛けようとしてズッコケそうになる。
「お前、それ、なんだか分かって言ってんの?」
「え、メシウマバイト」
全然分かってないやないかーい。
「駄目だ。絶っ対に駄目だ。お前みたいな世間知らずはまだまだ世に出ちゃ駄目だ。貞操がいくらあっても足りないぞ」
俺は椅子に腰を据え、まるで昭和の頑固親父のようなオーラを醸し出す。
「え、貞操?」
「そうだ、成人男性を相手に金を取る仕事なんて何をされるかわからないんだからアブナイに決まってるだろ」
「まあ、そうか……」
翡翠は反省したようにショボンと俺の向かい側の席に座る。
「それにバイトするとして、お前はまだ高校生なんだから保護者の許可が必要だし、大学受験もある。成績もそれなりに良くないと学校側の許可が下りないだろ。こないだのテスト、惨敗だったんだろ?」
「……英語が赤でした」
どうやったら帰国子女が英語で赤点取るんだよ。
「俺が全部教えてやるから、お前はバイトより勉強しろ」
なんか、結局現世でも前世と同じような事(調教という名の教育)を繰り返すんだな。
これも運命か。
「セキレイさん」
「ん?」
「セキレイさんて、怒るとシベリアンハスキーみたいな顔になりますよね」
こいつ、さては全然反省してねーな。
どうやら翡翠には俺の調教が必要なようだ。
調教師の血が騒ぐよ、まったく。
そして早速その日の夜、俺達はリビングのテーブルを挟み、頭を突き合わせて勉強会をしていた。
「なんでそこに動詞が入るんだよ」
俺はペンの頭で翡翠のテキストをペシペシと叩く。
「えー、なんかあ、こっちのがゴロがいいかなって」
「お前はラッパーか」
なんか前世よりデキの悪い子になってないか?
翡翠はこんなにおバカだったか……?
でもそんなところも愛らしい。
これが惚れた贔屓目ってやつか。俺も大概だな。
「英語が赤って、海外でどうやってコミュニケーションをとってたんだ?」
俺が素朴な疑問を投げかけると、翡翠は無表情で答える。
「とってませんよ」
「え、でも学校とか──」
「友達がいなかったんで、とる必要がなかったんです」
「……」
そう言えば、確か翡翠は人見知りだったな。前世ではユリや木葉がいたから良かったものの、現世ではそれに相当する友達には出会えていないのか?
「今のクラスでは友達出来たか?」
「うーん、瑠璃さんって人がよく話し掛けてくれます」
ギクッ
──とした。
「え、瑠璃?」
俺の背中を冷たいものが伝った。
そう言えば瑠璃も翡翠と同じ隣のクラスのだった。
翡翠はどこまで知っているのだろう。
最近は瑠璃が大人しいのでそのままほったらかしにしているが、あいつはまだ俺を恋人かなんかだと思っているかもしれない。それが翡翠に知られれば、俺が童貞のフリをして翡翠に恋人ごっこを強要している事がバレる。そうなれば俺は翡翠から完全に軽蔑されて嫌われる。
「瑠璃から、なんか、聞いた?」
質問がぎこちなくなってしまった。
「なんかって、セキレイさんと瑠璃さんは知り合いなんですか?」
「いや、別に……」
そりゃ文字通り、抜き差しならない関係だったさ。
「ふぅん」
翡翠は気の無い返事をしながらテキストに視線を落とした。
あっぶね。
すっかり忘れていたが今度こそ瑠璃とは手を切らないと。
そんな時、不意にリビングテーブル上に置かれた翡翠のスマホが唸り出した。
誰からだ?
今の高校、前にいた海外でも友達はいなかったそうだから、海外より前にいた地方の友達か?
でも翡翠は人見知りだから、それもどうか解らない。
気になる。
俺の知らない翡翠の世界が気になる。
翡翠はスマホをスワイプし、それを耳に当てながら慌てて玄関から出て行く。去り際、翡翠の『もしもし』という問い掛けに『やあ』という若い男の声がして、俺の背筋が凍りついた。
今の、確かに男の声だったよな?
別に疚しくなければ玄関の外に出る必要もないのに。よほど俺に聞かれたくない電話なのか?
まさか翡翠に限って元彼って事はないよな?
「……」
それどころか彼氏とかじゃないよな?
俺の知らない所で告白とかされてたら無くもない話だ。一応、翡翠に近付く男どもは俺が目を光らせて牽制しているが……
待てよ、よく考えたら、いくら俺がよその男どもを牽制したとしても、翡翠自身が誰かを好きになって恋愛を始めたらどうしようも無いじゃないか。
俺はこの時初めて、風斗という絶対的存在さえいなければ翡翠は自分のそばにいてくれると勘違いしていた事に気付く。翡翠は前世『では』献上品で、風斗以外の男の物になる事は絶対に許されなかったし、実際に風斗の物になったが、献上品制度の無い現世において、翡翠には近親婚以外の自由恋愛を許されている。
近親婚(俺)以外の、だ。
俺は今、恐らくシベリアンハスキーみたいな顔をしている事だろう。
10分程して翡翠が電話を終えて戻って来た。
「すみません、お待たせしましたね。では再開しましょうか」
翡翠がペンを持ち、何事も無く勉強を再開しようとしていたが、俺は勉強どころではなく、彼女の手からペンを抜き取る。
「え?」
当然、翡翠は当惑した目でこちらを見た。
「ちょっと待て。誰からだ?」
「誰って、クラスの人ですよ」
翡翠はバツが悪そうに目を逸らす。
「男だよな?」
「男ですが……」
翡翠は、俺から叱られるんじゃあないかと小さくなっていた。
「付き合ってんの?」
俺は翡翠の前からテキストを取り上げ、彼女の回答に目を通していく。
「えっ、いえ、ただ連絡先を交換しただけで、さっき初めて連絡がきました」
いつの間に連絡先を?
「遊びにでも誘われたか?」
翡翠に罪は無いので彼女を責めるつもりはなかったが、内容が内容だけに、どうしても棘のある言い方になってしまう。
「え、駄目でしたか?」
誘われたのか。そしてそれを承諾したのか。
「翡翠は行きたいの?」
俺はテキストの次頁を捲る。本当はテキストの内容なんかまるで頭に入ってこないけれど。
「だって、友達になってくれるかもしれないし……」
甘いな、翡翠。
ほんと、男の事を何も知らないんだな。
「けど二人きりで行くんだろ?」
「はい、多分」
俺は痺れを切らしてペンを置いた。
「あのな、翡翠。友達になりたい男が、いきなり女を二人きりで遊びに誘ったりしないだろ」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだ。これだからお前は、貞操がいくらあっても足りないじゃないか」
今までよく無事にここまでこれたな。
「えっ、貞操って……考え過ぎじゃないですか?」
翡翠は『まっさかー』と口の端を引きつらせて笑った。
そのまさかなんだよ、馬鹿め。
「いやいや、男女の間に友情は成立しないんだよ。それでも行くって言うのか?」
「えっ!それは困る、かなぁ……?」
翡翠は自信無さげに背を丸くした。
しめしめだな。
「じゃあ行かない?」
「うーん……」
翡翠は本当に友達が欲しかったのかちょっとしょぼくれている。
ちょっと可哀想だけど、翡翠の貞操の為だ、仕方がない。
「友達が欲しければ俺が友達の代わりになってやるし、恋人が欲しければ俺が恋人の代わりになってやるって」
「いや、それはちょっと、違う気が……」
俺がなりたいんだよ、恋人に。
まあ、それは追々。
「お前は行きたいのか?」
「だってもう行くって言ったし……」
翡翠はへそを曲げた子供みたいに口を尖らせ、アヒル座りした足の指をイジイジと捏ねくり回している。
こいつ、ほんとに俺と同い年か?
まったくかわいいな、やれやれだ。手のかかる子程かわいいというが、まんまその通りだな。
けどそれとこれとは話が別だ。これだけは翡翠可愛さに甘やかしたりはしない。
しかしはっきり『行くな』と命令出来ないのがもどかしい。そういうのは本物の恋人でないと権限がない。今の俺が言ったとして、なんで兄からそんな事を言われなければならないのかと言われればそれまでだ。なんでと言われたら、そりゃ翡翠が好きだからに決まっているけど、それが言えたら俺も苦労しない。
さて、そうしたらこのきかん坊をどうしたものか?
──調教するしかないよな。
「因みに何処に行く予定だった?」
「映画です。映画なら貞操の危機は無いですよね?」
翡翠はちょっと期待してパアァと表情を明るくした。
いや待て、なんでそんなに楽しみにしてるんだよ?
まさか相手の男に気があるのか?
話の流れでは、単に友達を作りたいからってだけだと思っていたが、違うのか?
俺は少し焦っていた。
隣のクラスって誰の事だ?
隣に目立ったイケメンなんていないよな?
待てよ、あの、翡翠を保健室に運んだチャラ男か?
あいつの事は俺が玉砕したと思っていたが……
「映画なんて、照明が暗くなった途端に手を握られるに決まってるだろ?お前は友達同士で手を握るのか?」
「でもそんなロマンチックな映画を観る訳でもないし」
「何の映画だ?」
「ホラーです」
いや、お前から男に抱きつくに決まってんだろーが。
頭が痛い。
「お前な、それを観て帰っても同じ部屋で一緒に寝てやらないからな」
「工エエェェェェエエ工」
翡翠はテーブルに突っ伏し、両膝をバタつかせて地団駄を踏んだ。
「どうだ、それでも行くのか?」
俺は勝利を確信し、ニヤニヤしながら尋ねる。
「なんか知らないけどイラッとするぅ」
そうだった。翡翠は負けず嫌いというか、強情を地で行くタイプの人間だった。こりゃ根比べになりそうだ。
だが対抗手段が無い訳でもない。
「じゃあ、お前が映画館でどうな目にあうか、はっきり教えてやろう」
俺はそう言ってテーブルの下から翡翠の生の膝に手を伸ばし、そこからそろそろと制服のスカートの中に指を忍ばせていく。
「えっ、ちょっ、さっきと話が……手を握られるだけって……言った」
翡翠は突っ伏していた状態から飛び起き、俺の手から逃れる様にモジモジと後方にお尻歩きした。
馬鹿だな。すぐ後ろはソファーで逃げられないのに。俺の思う壺だ。
「最初はな。けど暗いし、周りは皆スクリーンに注目してるからこういう事も有りなんだよ」
俺が翡翠にしたかった事を体現しているだけだけど、俺がそうしたいなら他の男もそうしたいに決まっている。
「なっ、無しです。きょうせーわいせつ罪です」
「一緒に映画を観てるんだから合意だろ」
俺が更に大胆に手を進めると、翡翠はその侵入を防ぐ様に内腿を擦り合わせた。
俺の手は翡翠の肉蒲団に揉まれ、思わぬしっかりとした肉感を得られる。
うわ、やわらけー。それにスベスベだ。
「止めて下さい!」
翡翠は堪らず声をあげた。
「映画館でそんな大きな声が出せると思うか?」
俺は調子に乗って更に手を進める。
「いや、ほんとに、止めて下さい……手を抜いて」
翡翠は尚も強く両腿で俺の手を締め上げた。
いやらし、内腿がピクピクしてるのが伝わってくる。
「お前が挟むから抜けないんだろ?」
俺はこの攻防戦が可笑しくて笑い出してしまう。
「だって、力を抜いたら侵入してくるじゃないですか!」
「そりゃそうさ、男だからな。男と映画を観に行くってのはこういう事だぞ、翡翠」
知らんけど。
これに懲りて諦めろ。
「ほらほら、行かないって言わないと更に手を進めるぞ?」
「イヤーッ‼ほんと無理‼ほんと無理!!」
翡翠は俺の手を折る勢いで両腿を締め上げてきたが、なにぶん彼女の内腿は肉が無いので痛くも痒くもない。なので俺は悪ノリして『ほれほれ』と指を蠕動させて前進しようとする。すると翡翠はギブアップして『映画なんて行きませんからあぁぁっ!!』と音を上げて両腿の力を抜いた。そしたら当然、前進しようとしていた俺の手がそのままの力で滑り、翡翠の恥骨に激突する。
「あっ」
一瞬の、グニュッとした感触の後に、俺はその手に違和感を感じた。
「……」
翡翠の方は、あれだけ喚き散らしていたのが嘘のように大人しくなってテーブルに顔を突っ伏している。
「えっ?」
何が起こったのか、理解するまで暫し時間がかかった。その間も、翡翠は耳を真っ赤にして恥辱に耐えている。
「……」
俺は違和感を感じる手を見てとんでも無い事に気付く。
「あぁっ!!」
翡翠の恥部に触れた俺の指先が僅かに濡れ、糸を引いていた。
えっ、ええっ⁉
いや、これは、だって、まさか、……ええっ⁉
なんで?
パンツ越しに──えぇっ⁉
全く予期していなかった事態に、俺は大いに動揺していた。
「わ、悪い」
「……」
翡翠は何も言わなかった。言える筈がなかった。実の兄相手にこんな痴態を晒し、とてもじゃないが俺の顔を見られないようだった。
そりゃそうか。翡翠は双子の兄相手に体が勝手に反応してしまったんだ、俺としても気まずい限りだ。
通りであんなに嫌がる訳だ。
何と声をかけて良いものやら。
俺だったら余裕で翡翠に欲情するけど、まさか翡翠の方もそうだったなんて、喜んでいいのか?
正直、驚きが一番でかいが、無意識でも翡翠が俺の事を男として認識していた事が嬉しい。
望みが無い訳でもないのか?
「あの、翡翠」
俺が翡翠の顔を覗き込みながら控え目に声をかけると、彼女はその涙目になった顔を反対側に背けた。
いっそ殺してくれぇって顔してんな。
「酷い……あれ程抜いてって言ったのに」
なんか、不謹慎だけど違う事のように聞こえる。
「ええと……ごめん、なさい」
罪悪感で胸が押し潰されそうになっている翡翠を見ていると、ちょっと可哀想になってくる。
前世ではこれよりもっと過激な事を合意の上でやっていたなんて知ったら、今の翡翠なら卒倒するかもしれない。
ちょっとやりすぎたか。
一割反省……
「……汚いから手を洗って下さい」
消え入りそうな声で翡翠が言った。
「えっ、別に汚くなんかない」
俺はティッシュを何枚か引き抜き、翡翠の物でぬるついた指先を拭き取る。
「生理現象だから仕方ないだろ?」
「……………………うるせー」
おい、今、うるせーっつたか?
空耳か?
それより何より、俺より、翡翠の方が何とかした方がいいと思うが……
「シャワー浴びて来いよ」
俺がそう言うと、翡翠は俯いたまま立ち上がり、背中で──
「セキレイさんのオカチメンコ」
──と力無く吐き捨てて風呂場へと消えた。
オカチメンコってナニ!?
いや、嫌われたな。
シネとかバカヤローでもオタンコナスでもなく、オカチメンコだろ?
相当嫌われたな、多分。いや、知らんけど。
あれは恐らく、翡翠至上最上級の誹りなのだと思う。
いやしかし、嫌われたけど、どうなんだ?
希望がある分、期待せずにはいられないんだが。
しかも予報では今夜も雷じゃないか。翡翠のあの反応を見た後じゃあ我慢なんか出来ない。
いや、勿論、俺が翡翠に迫ったとして、翡翠は間違いなく俺を拒む。拒むけど口ではそう言っても、恐らく翡翠の体は正直で、俺を受け入れるだろう。
でもそれでいいのだろうか?
両思いでもないのに先に既成事実を作っても良いものか。
「うーん……」
とりあえずゴムの買い置きあったか?
「それでセキレイさん、今日、学校でマラソンをしたんですけど──」
夜、俺が風呂に入っていると、翡翠は普段通り洗面所から俺に話し掛けてきて、俺は俺で体を洗いながら適当な返事をして前触れもなく風呂場から出て来る。
「ギャーーーーーッ!!!!」
俺は一応、腰にタオルを巻いてはいるが、毎回翡翠から悲鳴をあげられた。
「そろそろ慣れろ」
まるでこっちが変質者にでもなった気分だ。
「だってセキレイさん、双子の兄のくせにしっかり男の体格をしていていやらしいんですもん」
いや、双子の兄は関係ないだろ。
「難癖つけるならリビングに一人でいればいいだろ?それに、俺の体がいやらしいんじゃなくて、お前がいやらしい目で見るからいやらしいんだろ」
「リビングに一人はもっとギャーなので嫌です。すみませんでした。いやらしい目で見てすみませんでした。深く、お詫び申し上げます」
そう言うと翡翠はやらかした政治家よろしく恭しく頭を下げた。
「まったく」
俺が着換えを始めると、翡翠はいつも通り俺に背を向けてソワソワハァハァしながらそれが終わるの待ち、俺が髪にドライヤーをかける頃には俺の腰に両手を置いて待機する。そんでもって俺がドライヤーを終えて自分の部屋に行くと、必然的にそのまま翡翠もくっついて来て、各々の布団に潜り込んで就寝となる。因みに無事、翡翠の布団は家に届いたが、ベッドの下に誰かいるというホラー映画を観てしまった翡翠はそのまま俺のベッドで寝る事になった。
「電気消すぞー?」
シーリングライトの消灯担当は何故か俺。
「あっ、待って下さい!」
ベッドの上から翡翠が布団に潜り込むガサゴソという音がして、それから『お願いします』という翡翠の声を合図に電気を消す。
これが俺らの一日の終わりだ。
翡翠が越してきてから一ヶ月、ずっとこんな感じで、ここから何かが始まるとかは全く無い。
しかしこの日の夜はいつもと違っていた。
今宵は今朝から続く雨に雷光も加わり、それがどんどん近付いてきているのが高まる雷鳴で判った。
ガガーンッ!!
近所に避雷針もあり、引き寄せられるようにみるみる雷が近付いてくる。
ガガーンッ!!!!
布を引き裂く様な激しい雷鳴がして、部屋の窓が空気の振動でガタガタと小刻みに揺れた。
光ってから間が無いから、こりゃあ近くに落ちたな。
さすがの俺でも眠れなくて、両手を頭の下に敷いてボンヤリ考え事をしていると、ベッドの上からカサカサと何かが蠢く音がした。
賑やかだな。
あぁ、そういえば、翡翠は雷が大の苦手だったな。それは前世から変わっていないのか。でも隣に俺がいるんだし、翡翠ももう大きいから大丈夫か。
思えば、俺は翡翠が俺の布団に潜り込んで来てくれるから雷の日が好きだったな。いくら喧嘩をして気まずくなっても、雷さえ鳴ったら仲直り出来たし、雷を口実に翡翠を抱いて寝る事も出来た。でもそれがいつしか翡翠が俺の手を離れ、風斗に献上されてからは、俺は雷の日が恨めしくなり、大嫌いになった。雷が鳴る度、俺は独り寝のベッドで、もう、翡翠を慰めてやれるのは俺ではなく風斗なのだと思い知らされ、嫉妬でどうにかなっていた。
今は隣に翡翠がいてくれて、そんな前世の苦しみも懐かしく思える。
このままずっと、俺の目の届くところにいてくれたらいいのに。
俺の物になってくれたら尚良し。
ゴロゴロ……ガガーンッ!!!!!!
ガサゴソ……
翡翠の奴、雷が怖くて頭から布団を被って丸くなってるんだろうな。
想像に難くない。
ガガガーーーンッ!!!!
ゴソゴソゴソゴソゴソゴソ!!
雷が近付くにつれ、ベッドの上がやけにせわしなくなってきた。
おいおい大丈夫かよ?
オネショでもするんじゃないか?
一応、翡翠の使っているベッドは俺の私物である。
オネショだけは……
俺が思うのは、ベッドは洗えない、という事。
お婆ちゃんの知恵袋だったか、オネショをする子供には焼いた梅干しを食べさせると良いと聞いた事がある。雷の日は、念の為
翡翠にそれを食べさせるべきか……
何しろベッドは洗えない。問題はそこなんだ。ベッドは洗えないくせに木製の部分が少なからずオネショを吸収するんだ。上辺だけ拭き取ったぐらいでは浸透したオネショは除去出来ない。
「……」
まあ、翡翠のオネショならいいか。
ベッドで潮吹きをさせたら同じ事だし。
どっちも同じ成分だよな?
あ、ヤベ、想像した。
ちょっと興奮してしまった。
他の事を考えよう。
双子がどうとか考える以前に、勝手に人の寝込みを襲うような事は避けないと。
羊を数えよう。いや、羊じゃパンチが弱い。ヤギを数えよう。
ヤギが──
ガラガラ……ガガーーーーーーーンッ‼!!!!!!
突如、今日一の雷鳴が轟き、それと同時にベッドの上から何かがボトッと俺の布団に落ちてきて、俺はその衝撃をまともに腹に受けて短く声をあげた。
「うぅ……」
腹にボディーブローでもくらったみたいだ。凄い痛い。
俺が鈍い痛みに耐え、ベッド側に背を向けて腹を押さえていると、俺の布団に落ちてきた重量のある塊が後ろから俺の腰に手を回してきた。
翡翠だな。なんだ、やっぱり耐えられない程雷が怖かったんじゃないか。
「ひ──」
『翡翠』と声をかけようとして、もし翡翠が、俺が起きている事を知ったら気まずくて逃げていくかもしれないと思い、俺は狸寝入りを決め込んだ。
「ハァハァハァハァ」
翡翠の吐息が背中に当たり、その部分だけが熱くなる。
ゴロゴロゴロゴロ……
雷は少し弱まったのにもかかわらず、俺の腰に回された翡翠の手に力が込められた。
かわいすぎる。振り返って抱き締めて『大丈夫、大丈夫』って声をかけてあげたい。
でも駄目だ。真正面から密着されたら俺の興奮がバレるし、何より忍耐が崩壊しそうだ。
こんなことなら適度に抜いておけば良かった。
修行僧の如き日々の禁欲生活が恨めしい。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……
「わぁ……コワッ……」
翡翠が声を漏らし、ムギューと俺の背中に張り付いてくる。
「……」
うーん。
……………………なんか当たってんな。
触り心地の良さそうなプニプニとした何かが俺の背中に押し付けられているようだ。
これはあれだな、あれ以外にないよな?
役得と思う反面、俺は我慢の窮地に立たされていた。
ヤバい。触りたいどころか揉みたい。揉みしだきたい。それからあわよくば──
──いやいや嫌われる。間違いなく嫌われる。クラッカーで撃たれて警察に突き出される。
ヤギ……いや、ヤギなんかじゃ駄目だ。水牛でも数えよう。
水牛が一頭、水牛が二頭、水牛がぁ──
「セキレイさん」
「!」
いきなり翡翠に声をかけられ、俺は頭の中で水牛を見失う。
「……」
なんだ?
俺が起きてるかカマをかけて試しているのか?
「セキレイさん?」
反応するべきか?
それともこのまま寝たふりをしてやり過ごすか?
俺は悩んだ挙げ句、暫く様子を見る事にした。
「ほんとに寝てるのかな?」
俺は翡翠の独り言にじわってしまう。
面白っ。
気がつけば、俺はこの状況を楽しんでしまっていた。
「セキレイさんセキレイさん、私、知っているんですよ?」
なにが?
カマのかけ方が独特だな、おい。
俺は身じろぎひとつせず、翡翠の奇行に耐え続ける。
「セキレイさん、スマホに妹萌えのいやらしい動画を保存してるでしょう?」
いや、なんで知ってるん?
あれはただ、ちょっと魔が差してお気に入り登録しただけで、別におかずになんか──
俺は今すぐ弁解したくて居てもたってもいられなくなったが、ここまできたら今更反応も出来なくて耐えに耐える。
「やっぱり、ほんとに寝てるのか」
もはや、なんでそこまで入念に確認する必要があるんだよ、と思っていると、翡翠はやっと安心したのか俺の背に身を預けて寝息をたて始めた。
なんだったんだ?
そんなコソコソしなくとも堂々と甘えたらいいのに。
俺は背中が気になって水牛どころではなかったが、朝方気を失うように眠りにつき、それからいつも通り起床すると、翡翠は既に部屋から出た後だった。
「おはよう」
俺は部屋から出て、寝癖のまま台所の翡翠に挨拶する。
「おはようございます、凄いクマですね」
翡翠は俺の顔を見るなりクスクスと笑った。
誰のせいだよ。
「お前は良く眠れたのか?雷だったけど」
「そうですか?全然気づきませんでした」
昨夜あんなにガクブルだったくせに。
「どの口が……」
「え?」
「いや、なんでも」
素直じゃないなあ。
「今夜も雷らしいけど」
俺が意地悪をしてそんな風に言うと、翡翠はため息にも似た空気の抜けた返事をした。
「えっ!あ、はぁ……」
わかり易いなあ。
「なあ、翡翠」
「はぁ」
「俺のスマホ、勝手に見たか?」
「いいえ」
いや、嘘つけ!
そんな平然と嘘がつけるなんて人間性疑うわ。
「そうか」
……セキュリティを強化せねば。
「あぁ、そうそう、セキレイさん、今日、帰りにバイトの面接があるんで先に帰ってて下さい」
翡翠からそう言われ、俺はダイニングテーブルの椅子を引く手を止めた。
「しなくていいって言ったよな?」
とは言え、いつかはそんな事を言い出すのではないかと思っていた。
「お金が稼げるから部活するよりいいじゃないですか」
翡翠は二人分の朝食をダイニングテーブル上に並べていく。ご飯がよそられた茶碗は、この間二人で購入した鳥の夫婦茶碗だ。
「因みに何のバイトだ?」
何にせよ、俺の目の届かないところで翡翠に活動されてはいざという時に助けてやれないし、変な虫から守れない。
「うーんと、なんかあ、成人男性とお散歩するだけのバイトみたいです」
いや、それ、JKリフレー!!
俺は引いた椅子に腰掛けようとしてズッコケそうになる。
「お前、それ、なんだか分かって言ってんの?」
「え、メシウマバイト」
全然分かってないやないかーい。
「駄目だ。絶っ対に駄目だ。お前みたいな世間知らずはまだまだ世に出ちゃ駄目だ。貞操がいくらあっても足りないぞ」
俺は椅子に腰を据え、まるで昭和の頑固親父のようなオーラを醸し出す。
「え、貞操?」
「そうだ、成人男性を相手に金を取る仕事なんて何をされるかわからないんだからアブナイに決まってるだろ」
「まあ、そうか……」
翡翠は反省したようにショボンと俺の向かい側の席に座る。
「それにバイトするとして、お前はまだ高校生なんだから保護者の許可が必要だし、大学受験もある。成績もそれなりに良くないと学校側の許可が下りないだろ。こないだのテスト、惨敗だったんだろ?」
「……英語が赤でした」
どうやったら帰国子女が英語で赤点取るんだよ。
「俺が全部教えてやるから、お前はバイトより勉強しろ」
なんか、結局現世でも前世と同じような事(調教という名の教育)を繰り返すんだな。
これも運命か。
「セキレイさん」
「ん?」
「セキレイさんて、怒るとシベリアンハスキーみたいな顔になりますよね」
こいつ、さては全然反省してねーな。
どうやら翡翠には俺の調教が必要なようだ。
調教師の血が騒ぐよ、まったく。
そして早速その日の夜、俺達はリビングのテーブルを挟み、頭を突き合わせて勉強会をしていた。
「なんでそこに動詞が入るんだよ」
俺はペンの頭で翡翠のテキストをペシペシと叩く。
「えー、なんかあ、こっちのがゴロがいいかなって」
「お前はラッパーか」
なんか前世よりデキの悪い子になってないか?
翡翠はこんなにおバカだったか……?
でもそんなところも愛らしい。
これが惚れた贔屓目ってやつか。俺も大概だな。
「英語が赤って、海外でどうやってコミュニケーションをとってたんだ?」
俺が素朴な疑問を投げかけると、翡翠は無表情で答える。
「とってませんよ」
「え、でも学校とか──」
「友達がいなかったんで、とる必要がなかったんです」
「……」
そう言えば、確か翡翠は人見知りだったな。前世ではユリや木葉がいたから良かったものの、現世ではそれに相当する友達には出会えていないのか?
「今のクラスでは友達出来たか?」
「うーん、瑠璃さんって人がよく話し掛けてくれます」
ギクッ
──とした。
「え、瑠璃?」
俺の背中を冷たいものが伝った。
そう言えば瑠璃も翡翠と同じ隣のクラスのだった。
翡翠はどこまで知っているのだろう。
最近は瑠璃が大人しいのでそのままほったらかしにしているが、あいつはまだ俺を恋人かなんかだと思っているかもしれない。それが翡翠に知られれば、俺が童貞のフリをして翡翠に恋人ごっこを強要している事がバレる。そうなれば俺は翡翠から完全に軽蔑されて嫌われる。
「瑠璃から、なんか、聞いた?」
質問がぎこちなくなってしまった。
「なんかって、セキレイさんと瑠璃さんは知り合いなんですか?」
「いや、別に……」
そりゃ文字通り、抜き差しならない関係だったさ。
「ふぅん」
翡翠は気の無い返事をしながらテキストに視線を落とした。
あっぶね。
すっかり忘れていたが今度こそ瑠璃とは手を切らないと。
そんな時、不意にリビングテーブル上に置かれた翡翠のスマホが唸り出した。
誰からだ?
今の高校、前にいた海外でも友達はいなかったそうだから、海外より前にいた地方の友達か?
でも翡翠は人見知りだから、それもどうか解らない。
気になる。
俺の知らない翡翠の世界が気になる。
翡翠はスマホをスワイプし、それを耳に当てながら慌てて玄関から出て行く。去り際、翡翠の『もしもし』という問い掛けに『やあ』という若い男の声がして、俺の背筋が凍りついた。
今の、確かに男の声だったよな?
別に疚しくなければ玄関の外に出る必要もないのに。よほど俺に聞かれたくない電話なのか?
まさか翡翠に限って元彼って事はないよな?
「……」
それどころか彼氏とかじゃないよな?
俺の知らない所で告白とかされてたら無くもない話だ。一応、翡翠に近付く男どもは俺が目を光らせて牽制しているが……
待てよ、よく考えたら、いくら俺がよその男どもを牽制したとしても、翡翠自身が誰かを好きになって恋愛を始めたらどうしようも無いじゃないか。
俺はこの時初めて、風斗という絶対的存在さえいなければ翡翠は自分のそばにいてくれると勘違いしていた事に気付く。翡翠は前世『では』献上品で、風斗以外の男の物になる事は絶対に許されなかったし、実際に風斗の物になったが、献上品制度の無い現世において、翡翠には近親婚以外の自由恋愛を許されている。
近親婚(俺)以外の、だ。
俺は今、恐らくシベリアンハスキーみたいな顔をしている事だろう。
10分程して翡翠が電話を終えて戻って来た。
「すみません、お待たせしましたね。では再開しましょうか」
翡翠がペンを持ち、何事も無く勉強を再開しようとしていたが、俺は勉強どころではなく、彼女の手からペンを抜き取る。
「え?」
当然、翡翠は当惑した目でこちらを見た。
「ちょっと待て。誰からだ?」
「誰って、クラスの人ですよ」
翡翠はバツが悪そうに目を逸らす。
「男だよな?」
「男ですが……」
翡翠は、俺から叱られるんじゃあないかと小さくなっていた。
「付き合ってんの?」
俺は翡翠の前からテキストを取り上げ、彼女の回答に目を通していく。
「えっ、いえ、ただ連絡先を交換しただけで、さっき初めて連絡がきました」
いつの間に連絡先を?
「遊びにでも誘われたか?」
翡翠に罪は無いので彼女を責めるつもりはなかったが、内容が内容だけに、どうしても棘のある言い方になってしまう。
「え、駄目でしたか?」
誘われたのか。そしてそれを承諾したのか。
「翡翠は行きたいの?」
俺はテキストの次頁を捲る。本当はテキストの内容なんかまるで頭に入ってこないけれど。
「だって、友達になってくれるかもしれないし……」
甘いな、翡翠。
ほんと、男の事を何も知らないんだな。
「けど二人きりで行くんだろ?」
「はい、多分」
俺は痺れを切らしてペンを置いた。
「あのな、翡翠。友達になりたい男が、いきなり女を二人きりで遊びに誘ったりしないだろ」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだ。これだからお前は、貞操がいくらあっても足りないじゃないか」
今までよく無事にここまでこれたな。
「えっ、貞操って……考え過ぎじゃないですか?」
翡翠は『まっさかー』と口の端を引きつらせて笑った。
そのまさかなんだよ、馬鹿め。
「いやいや、男女の間に友情は成立しないんだよ。それでも行くって言うのか?」
「えっ!それは困る、かなぁ……?」
翡翠は自信無さげに背を丸くした。
しめしめだな。
「じゃあ行かない?」
「うーん……」
翡翠は本当に友達が欲しかったのかちょっとしょぼくれている。
ちょっと可哀想だけど、翡翠の貞操の為だ、仕方がない。
「友達が欲しければ俺が友達の代わりになってやるし、恋人が欲しければ俺が恋人の代わりになってやるって」
「いや、それはちょっと、違う気が……」
俺がなりたいんだよ、恋人に。
まあ、それは追々。
「お前は行きたいのか?」
「だってもう行くって言ったし……」
翡翠はへそを曲げた子供みたいに口を尖らせ、アヒル座りした足の指をイジイジと捏ねくり回している。
こいつ、ほんとに俺と同い年か?
まったくかわいいな、やれやれだ。手のかかる子程かわいいというが、まんまその通りだな。
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さて、そうしたらこのきかん坊をどうしたものか?
──調教するしかないよな。
「因みに何処に行く予定だった?」
「映画です。映画なら貞操の危機は無いですよね?」
翡翠はちょっと期待してパアァと表情を明るくした。
いや待て、なんでそんなに楽しみにしてるんだよ?
まさか相手の男に気があるのか?
話の流れでは、単に友達を作りたいからってだけだと思っていたが、違うのか?
俺は少し焦っていた。
隣のクラスって誰の事だ?
隣に目立ったイケメンなんていないよな?
待てよ、あの、翡翠を保健室に運んだチャラ男か?
あいつの事は俺が玉砕したと思っていたが……
「映画なんて、照明が暗くなった途端に手を握られるに決まってるだろ?お前は友達同士で手を握るのか?」
「でもそんなロマンチックな映画を観る訳でもないし」
「何の映画だ?」
「ホラーです」
いや、お前から男に抱きつくに決まってんだろーが。
頭が痛い。
「お前な、それを観て帰っても同じ部屋で一緒に寝てやらないからな」
「工エエェェェェエエ工」
翡翠はテーブルに突っ伏し、両膝をバタつかせて地団駄を踏んだ。
「どうだ、それでも行くのか?」
俺は勝利を確信し、ニヤニヤしながら尋ねる。
「なんか知らないけどイラッとするぅ」
そうだった。翡翠は負けず嫌いというか、強情を地で行くタイプの人間だった。こりゃ根比べになりそうだ。
だが対抗手段が無い訳でもない。
「じゃあ、お前が映画館でどうな目にあうか、はっきり教えてやろう」
俺はそう言ってテーブルの下から翡翠の生の膝に手を伸ばし、そこからそろそろと制服のスカートの中に指を忍ばせていく。
「えっ、ちょっ、さっきと話が……手を握られるだけって……言った」
翡翠は突っ伏していた状態から飛び起き、俺の手から逃れる様にモジモジと後方にお尻歩きした。
馬鹿だな。すぐ後ろはソファーで逃げられないのに。俺の思う壺だ。
「最初はな。けど暗いし、周りは皆スクリーンに注目してるからこういう事も有りなんだよ」
俺が翡翠にしたかった事を体現しているだけだけど、俺がそうしたいなら他の男もそうしたいに決まっている。
「なっ、無しです。きょうせーわいせつ罪です」
「一緒に映画を観てるんだから合意だろ」
俺が更に大胆に手を進めると、翡翠はその侵入を防ぐ様に内腿を擦り合わせた。
俺の手は翡翠の肉蒲団に揉まれ、思わぬしっかりとした肉感を得られる。
うわ、やわらけー。それにスベスベだ。
「止めて下さい!」
翡翠は堪らず声をあげた。
「映画館でそんな大きな声が出せると思うか?」
俺は調子に乗って更に手を進める。
「いや、ほんとに、止めて下さい……手を抜いて」
翡翠は尚も強く両腿で俺の手を締め上げた。
いやらし、内腿がピクピクしてるのが伝わってくる。
「お前が挟むから抜けないんだろ?」
俺はこの攻防戦が可笑しくて笑い出してしまう。
「だって、力を抜いたら侵入してくるじゃないですか!」
「そりゃそうさ、男だからな。男と映画を観に行くってのはこういう事だぞ、翡翠」
知らんけど。
これに懲りて諦めろ。
「ほらほら、行かないって言わないと更に手を進めるぞ?」
「イヤーッ‼ほんと無理‼ほんと無理!!」
翡翠は俺の手を折る勢いで両腿を締め上げてきたが、なにぶん彼女の内腿は肉が無いので痛くも痒くもない。なので俺は悪ノリして『ほれほれ』と指を蠕動させて前進しようとする。すると翡翠はギブアップして『映画なんて行きませんからあぁぁっ!!』と音を上げて両腿の力を抜いた。そしたら当然、前進しようとしていた俺の手がそのままの力で滑り、翡翠の恥骨に激突する。
「あっ」
一瞬の、グニュッとした感触の後に、俺はその手に違和感を感じた。
「……」
翡翠の方は、あれだけ喚き散らしていたのが嘘のように大人しくなってテーブルに顔を突っ伏している。
「えっ?」
何が起こったのか、理解するまで暫し時間がかかった。その間も、翡翠は耳を真っ赤にして恥辱に耐えている。
「……」
俺は違和感を感じる手を見てとんでも無い事に気付く。
「あぁっ!!」
翡翠の恥部に触れた俺の指先が僅かに濡れ、糸を引いていた。
えっ、ええっ⁉
いや、これは、だって、まさか、……ええっ⁉
なんで?
パンツ越しに──えぇっ⁉
全く予期していなかった事態に、俺は大いに動揺していた。
「わ、悪い」
「……」
翡翠は何も言わなかった。言える筈がなかった。実の兄相手にこんな痴態を晒し、とてもじゃないが俺の顔を見られないようだった。
そりゃそうか。翡翠は双子の兄相手に体が勝手に反応してしまったんだ、俺としても気まずい限りだ。
通りであんなに嫌がる訳だ。
何と声をかけて良いものやら。
俺だったら余裕で翡翠に欲情するけど、まさか翡翠の方もそうだったなんて、喜んでいいのか?
正直、驚きが一番でかいが、無意識でも翡翠が俺の事を男として認識していた事が嬉しい。
望みが無い訳でもないのか?
「あの、翡翠」
俺が翡翠の顔を覗き込みながら控え目に声をかけると、彼女はその涙目になった顔を反対側に背けた。
いっそ殺してくれぇって顔してんな。
「酷い……あれ程抜いてって言ったのに」
なんか、不謹慎だけど違う事のように聞こえる。
「ええと……ごめん、なさい」
罪悪感で胸が押し潰されそうになっている翡翠を見ていると、ちょっと可哀想になってくる。
前世ではこれよりもっと過激な事を合意の上でやっていたなんて知ったら、今の翡翠なら卒倒するかもしれない。
ちょっとやりすぎたか。
一割反省……
「……汚いから手を洗って下さい」
消え入りそうな声で翡翠が言った。
「えっ、別に汚くなんかない」
俺はティッシュを何枚か引き抜き、翡翠の物でぬるついた指先を拭き取る。
「生理現象だから仕方ないだろ?」
「……………………うるせー」
おい、今、うるせーっつたか?
空耳か?
それより何より、俺より、翡翠の方が何とかした方がいいと思うが……
「シャワー浴びて来いよ」
俺がそう言うと、翡翠は俯いたまま立ち上がり、背中で──
「セキレイさんのオカチメンコ」
──と力無く吐き捨てて風呂場へと消えた。
オカチメンコってナニ!?
いや、嫌われたな。
シネとかバカヤローでもオタンコナスでもなく、オカチメンコだろ?
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しかも予報では今夜も雷じゃないか。翡翠のあの反応を見た後じゃあ我慢なんか出来ない。
いや、勿論、俺が翡翠に迫ったとして、翡翠は間違いなく俺を拒む。拒むけど口ではそう言っても、恐らく翡翠の体は正直で、俺を受け入れるだろう。
でもそれでいいのだろうか?
両思いでもないのに先に既成事実を作っても良いものか。
「うーん……」
とりあえずゴムの買い置きあったか?
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